第110話 壊滅


 どうやら連中の火球は、威力が凄まじいだけあって連射が効くものではないらしい。


 すぐにでもアレを吐き出されるかと警戒していたが……口の奥で火球を生み出しているというか、唸らせ燃え上がらせ火球に仕上げているというか、そんな作業が必要なようで……その隙を見て俺達はいつでも火球を吐き出されても良いようにと警戒をしながら、一定の距離を保ちながら化け物へと襲いかかる。


 一箇所に集まるべきではないだろうと考えて散らばり、上下左右からの機関銃の一斉射。


 機関銃が効かないとなると厄介で、頼むから効いてくれよと願いながらのそれは……全く効かない訳ではないが、有効打とも言えないもので、どうやら鱗や甲殻の硬さは今までやりあっていた変異種と同程度らしい。


 銃弾が当たればヒビが入り、何度も何度も当てれば鱗や甲殻が砕けて弾けて……肉が剥き出しになればそこに銃弾がこれでもかと突き刺さる。


 するとそこから血が凄まじい勢いで流れ出す……訳だが、化け物は一切怯んでおらず、痛みを感じていないのか表情を変えもしていない。


 ……どうやら鱗よりも甲殻よりも、その下にある分厚い肉が銃弾を防いでしまっているようだ。


 内臓まで届かず、神経まで届かず……機関銃では致命傷は与えられない……。


 とはいえ血が吹き出している訳だから、何度も何度も、全身の血が無くなる程に撃ち込んでやれば倒せるはず……だが……。


『……明らかに弾数が足りないね』


 一旦攻撃を止めて、旋回し距離を取る中で聞こえてきたアリスの言葉に、俺は何も言葉を返せない。


 4機同時に、それなりの勢いで銃弾を叩き込んだ訳だが、それで一体どれほどの血が流れてくれたのか……。


 奴らの大きな体から生えている、ちょこんとした情けない手の、指先程の血液量だっただろうか。


 たったそれだけの血を流させるのに、使った銃弾は恐らく100から200で……。


 積めるだけ積んだありったけの弾丸を打ち込んでも、あの小さな指一本か二本分の血しか流せないのではないだろうか……?


『機関銃がダメなら、無反動砲で行くしかないでしょ!』


 との声を受けて俺は、アリスが攻撃しやすいだろう位置へと飛び、攻撃を当てやすいだろう角度に飛行艇を構える。


 そんな俺達の動きに対し、クレオが合わせてくれて、無反動砲の無いアンドレアとジーノは俺達のフォローへと回ってくれて……そうして2機の飛行艇から同時に無反動砲が放たれる。


 アリスもクレオも一切の躊躇をせず、ありったけを叩き込んでやるとの連射をし……凄まじい爆音と、爆煙が化け物を包み込む。


 そこから更に水上軍艦からの無反動砲弾までが発射され、命中する……が、それでも化け物を倒すことが出来なかったようで、爆煙に包まれる化け物から高音の……何か金属をこすっているような音が放たれる。


 それは明らかに尋常では無い音で、嫌な予感しかしない音で……俺達は一斉に回避行動を開始し、それぞれが得意とするロール運動をしながら化け物から距離を取る。


 直後放たれる恐らく8連射の火球。


 そのうちの一発が俺達の方へと迫ってきて……クレオとアンドレアとジーノにも迫っているのだろうなと確信しながら、他人を心配している暇はないと回避に専念する。


 凄まじい熱量と音を放ちながら迫ってくるそれを……エンジンの回転速度を上げながら、大げさ過ぎる程のバレルロールでもって回避し……そのまま機首を上へと向けて高度を上げて……旋回して、一帯を俯瞰する形で状況を確認する。


 戦場の中央には無反動砲を受けてか、あちこちから血を吹き出す化け物。

 クレオ、アンドレア、ジーノは健在のようで……化け物から距離を取る形で空を舞い飛んでいる。


 そして水上の軍艦は……ギリギリの所で火球の回避を失敗してしまったのだろう、船上の一部で火災が起きてしまっている。


 船員達による懸命の消火行動が行われ、そうしながら船上から距離を取る形で航行を開始していて……もう、これ以上の戦闘は不可能なようだ。


 そして一度目の火球攻撃を受けなかった島々や本部も、先程の攻撃を受けてしまったのか炎上してしまっていて……どうしようもない程に壊滅してしまい、拠点能力は完全に失われてしまっていた。


 そこにいた人員は輸送船や回収船などを使っての撤退を開始していて……それを見て俺は決断する。


「撤退だ」


『うん……いくらかのダメージは与えられたけど残弾がもう……ね』


 俺が決断を口にすると、通信機の向こうのアリスは意気消沈しながら言葉を返してくる。


「ただまぁ……まだ弾切れって訳じゃないよな」


『え? うん、まぁ、まだちょっとはあるけど……』


「下の連中を逃がすための時間稼ぎもしなきゃならないからな……撤退は撤退だが、もうちょっとだけ粘ってからの撤退だ。

 俺達がしんがりを務めると、そんな光信号をクレオや下の皆に送ってくれ」


 俺のそんな言葉を受けてか、即アリスの通信機から光信号機のハンドルを回す音が響いてくる。


 すっかりと聞き慣れたその音を聞きながら俺は、再度下の状況を見やる。


 撤退の決断が早かったのかランドウ達の輸送船は既に見える範囲にはいない。

 回収船のほとんどは、この状況であってもその積み荷を、変異種共の素材を手放そうとはしておらず、そのせいで速度が出ていないようだが……それでもまぁ、撤退開始が早かったおかげか、危険な海域からは脱出できている。


 そして炎上中の軍艦と本部の連中はまだまだ化け物の射程範囲にいて……連中が逃げ出せるまで10分か20分か……そのくらいは耐える必要がありそうだ。


 その間に一体どれだけの火球を撃たれることになるのやら……。


 生きて帰りたいものだがなぁと、そんなことを思いながら俺は、旋回をやめて高度を下げて……八つの首を振り回しながら獲物を探し求めている化け物へと機首を向けるのだった。

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