第106話 魔導砲弾


「無反動砲の完成によって何が起きたかというと、ようするに大口径砲の扱いがこれまでとは段違いに楽になったってことなんですよね。

 飛行艇の上や船の上で撃てて、反動が大きくないから設置も用意で、それでいて狙いは正確、反動を気にせず口径を大きく出来るから結果、威力増に繋がる訳です。

 ただ革新が起きたのはあくまで砲であって、砲弾のほうじゃないんですよ。

 威力のことを考えるならやっぱり砲弾の革新、改良が必要な訳でして、魔導を使えばそれが楽に出来るんじゃないかっていう、そんな仮説があったようなんです。

 ただまー、ほら、私って魔導が嫌いじゃないですか? だから全然乗り気じゃなかったんですけど、知事とか国のお偉いさんとか会社の上司にまで命令されちゃって、泣かれたりしちゃって、そこまでされたら流石に、渋々ではありますが作らなくちゃいけないかなーと思いまして、とりあえず雑に、砲弾に魔法の力を込める形での魔導砲弾を開発してみたんですよ。

 で、丁度良いところに今回の襲撃が重なりまして、これはもう試射の大チャンスだなってことで私の方でチャーターした輸送船に無反動を載せてきたんですよ。

 ってことでファルコ氏、私の試射の手伝いと護衛をお願いします。

 うるさい、なんてことを言われちゃって私、傷ついて泣いちゃいそうなんで、そのくらいのことしてくれても良いと思うんですよね。

 もちろん威力は保証しますよ、変異種だか何だか知りませんが、普通の無反動砲如きにやられる相手なら、何十何百いたとしても余裕で吹っ飛ばせる……はずです」


 うるせぇと、そう言ったにも関わらず、更にそんな言葉を続けてくるルルカグループ辺境支社、開発研究部、部長代理のランドウ・スズキ。


 仕方なしにそいつの声が聞こえてきた方へと振り返ると、いつものボサボサ髪姿がそこにあった。


「じゃ、早速試射の準備をしましょうか。

 ファルコ氏は技師でもあるそうで……ある程度のお手伝いをしてくれることを期待してますよ」


 更にそんなことを言ってくるランドウに何と返したものかと悩んでいると、通信機を操作していたラインが、声をかけてくる。


「あー……その、なんだ。

 話はよく分からなかったというか、早口過ぎて全てを聞き取ることはできなかったんだが……船と新しい無反動砲があるというのなら、それが試作段階のものであっても、使って欲しいというのが正直な所だね。

 何しろ相手の数は予想以上の……尋常ではない数となっている。

 我々はもちろん最後まで奮戦する覚悟でここに来ているが……それでも生きて家に帰りたいからね。

 その可能性が少しでも上がるのであればお願いしたいね」


 真剣な表情で……それなりに真剣な声色でそう言ってくるラインを見やって俺は……本部のテントのような天井を見上げて……ため息を吐き出しながらランドウに声をかける。


「……既に軍艦と、島に無反動砲が設置されていて、それで迎撃するってことで話が進んでいる。

 それの邪魔をする訳にはいかないから、その後方に下がって、確実に迷惑にならないタイミングで、こっちのラインとかと連携した上で試射をするってなら……まぁ、良いんじゃないか?

 知事が絡んでいるってことは、お前を泣き落としまでしたのはこの日のためなんだろうし……お前がここにいるのも、織り込み済みなんだろう。

 ……だからまぁ、手伝えってなら手伝ってもやるが……具体的にどんなことをしたら良いんだ?」


 するとランドウは両手ぽんと合わせてぎこちない笑顔を作り出して……「ふへへ」と笑ってから言葉を返してくる。


「そうですかそうですか、それはありがとうございます。

 具体的にと言われると、あれですね、発射準備のお手伝いと護衛をお願いします。

 魔導砲弾は全部で10発持ってきてまして、この10発全てを撃つのが私の目的です。

 でまぁ、1発目は楽に撃てると思うんですが、魔物にも知能ってものがありますから、私の作った素晴らしい無反動砲の威力を目にしたら2発目は撃たせないぞと、二度とそれを使わせないぞと妨害してくるに違いないのです。

 何しろ私は優秀で、私の作った新作砲弾は最高なものですから、魔物だって放ってはおかないでしょう。

 そういう訳ですので私と私の輸送船をとにかく守ってください、敵を寄せ付けないでください、特に装填中は無防備になるのでよろしくお願いします。

 射程の関係でちょっとくらい後ろに下がっても平気ですし、他の無反動砲の邪魔はしませんから、はい、きっと全て上手くいくはずです。

 あ、それと、ラインさんでしたっけ? その通信機で皆に知らせておいて欲しいのです。

 私が用意した無反動砲が発射されたら、至急その着弾点の周囲から退避するか、着水するように、と。

 着水しておけばおそらくは……計算が間違っていなければ巻き込まれないはずなので、着水した上で海上を移動して逃げてください。

 魔導砲弾に巻き込まれて被害が出ちゃったり、落下してきた魔物に押しつぶされて被害が出ちゃったりしても賠償は絶対にしないと言いますか、予算的に出来ないので周知の徹底をよろしくお願いします」


 そんなランドウの言葉を受けて、ラインは少しだけ苦い表情をし……そうしてから通信機で各所への連絡をし始める。


 そんなラインの後ろ姿を少しの間見つめていた俺は……大きなため息を吐き出し、やれやれと頭を振ってから、兎にも角にも方針が決まってくれたようだと、砂浜の方へと歩き出し……本部を後にする。


 するとランドウがそんな俺のすぐ後ろまで、吐く息が届く距離まで近付いてきて……その気配を感じ取った俺は、後ろに振り返ってランドウの肩を掴み、俺の横に並ぶように位置を修正してから、言葉をかける。


「真後ろに立つな、真後ろに……気持ち悪いやつだな」


「相変わらずファルコ氏はひどいというか厳しいというか、紳士とは縁遠い性格と口をしていらっしゃいますね。

 私はこれでもレディなんですから、もう少し優しくしてくれてもいいと思いますよ?

 更に言うなら無反動砲を完成させた私は国の英雄であり、国にとって欠かせない要人でもある訳で、同僚や家族だって最近は打って変わったように私をちやほやしてくれてるんですよ?

 ファルコ氏と私はもう友達なんですから、同僚や家族以上にちやほやしてくれるべきではないですか?」


 そんな馬鹿みたいな言葉を返してきたランドウのことを、俺は半目で見やり……ため息を吐き出してから言葉を返す。


「……いつ友達になったとか、色々言いたいことはあるんだが、英雄だって言うなら俺やアリスだってそうだろうよ。

 王様から直接勲章を貰って、新聞にも載ったんだからな。

 つまりは英雄と英雄で対等……対等な関係である以上はちやほやなんてしないからな」


 そんな俺の言葉をどう受け取ったのか、何を思ったのか……ランドウは「ふへへ」と笑い、笑ったまま、何も言わずにすたすたと足を進めていく。


 一体何の笑顔なのやら、何を考えているのやら……尚もランドウを半目で見やった俺は、再度のため息を吐き出しながら、砂浜へとたどり着き、飛行艇の手入れやらをしているアリス達へと、声をかけるのだった。

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