第101話 遊撃隊
知事直属の遊撃隊の編成。
それがグレアスの口から語られた防衛作戦の骨子だった。
集められるだけの賞金稼ぎを集めて、出来る限りの弾薬燃料を支給し、いつでも出撃出来るようにと待機させ、北西からやってくるだろう魔物達に対処する……とかなんとか。
南西諸島地域は賞金稼ぎ業が活発だったのもあって人の住まう所に整備工場ありってな状態になっているので、遊撃隊はそれらを補給基地として柔軟に、縦横無尽に飛び回りながら活動していくことになるらしい。
この案に問題があるとするなら、賞金稼ぎの中には良識と常識を持ち合わせていない下品な連中が多いってことなんだが……それは俺がグレアスの下へと向かった翌日の正午に、ラジオから流れてきた知事の声明によって解決されることになった。
『―――今回ばかりは事情が事情だ。
犯罪歴があろうがハイエナだろうが、遊撃隊は諸君を歓迎する、歓迎した上でその過去の罪を問わないことを約束する。
人の世がなければ私も君達も誰も彼もが生きてはいけないのだ、そんな小さなことにこだわっている状況ではないのだ。
その人格人品は問わない、とにかく飛行艇を持つ者は私の下に集まってくれ。
……勿論報酬は参加した者全員に、十分過ぎる程の額を用意させてもらうつもりだ。
諸君は今、どうやってそれだけの金銭を用意するのかと、そんな疑問を抱いたかもしれない。
だが考えて欲しい、魔物達が北西で溢れかえっているというのなら……変異種という珍種がこれでもかと生まれているというのなら、それはつまり未だ嘗て無い、我々がこれまでに経験したことのない稼ぎ時でもあるのだ。
諸君らの獲物は既に、数え切れない程に増えている。そこから取れる素材は各地の港に山のように積み上がることになるだろう。
もし仮に諸君らが私の下に集い、今回の事態を無事に乗り切ってくれたなら、その先にあるのは未曾有の好景気だ、誰も彼もが山程の金を手にする時代だ。
大手を振るって美酒を煽り、美食に耽り、飽きる程に遊べる時代がすぐそこまでやってきているのだ。
その黄金時代を謳歌するためにも、ぜひとも遊撃隊に参加して欲しい、私は君達の……空の勇者達の協力を欲している―――』
莫大な報酬と免罪を餌にしての大募集。
こんなことをされたら下品な奴らも素直に集まってくるだろうし……少なくともこの事態が片付くまでは大人しくしていることだろう。
特に『過去の罪』って部分が巧妙だ。
遊撃隊に参加してからの罪は赦さない、今回の事態が片付いてからの罪は赦さない。
自分は遊撃隊だぞと調子に乗った連中や、今回の事態が解決した後に山程の金を手にしてタガが外れた連中には容赦しないぞってなこの部分に、気付けた奴らは大人しくするだろうし、気付けなかった奴らはやらかして処分されるだろうし……。
もしかしたら厄介な連中を一箇所に集めておこうという、治安維持目的もあるのかもしれないな。
そうして一週間程で賞金稼ぎを集めての遊撃隊が正式に編成され、連中が一塊になって空を飛び交う奇妙な光景が南西諸島の空に広がることになった。
大中小様々な飛行艇が、黄色に赤、金色に銀色、青に黒、塗料がないのか素材そのままの色の飛行艇が……隊列を成して、空を埋め尽くさんばかりの勢いで空を飛び交い、残存しているかもしれない魔物の捜索と、北西からの襲来に備える。
それはちょっとした祭りのような光景で……俺とアリスは屋敷の庭で、地面に突き立てられたパラソルの下に置かれた椅子に腰掛けながら、その光景の広がる空をぼんやりと、何をする訳でもなく眺めていた。
「……結局の所は、連中は囮なんですよ」
俺達のすぐ側に何処から持ってきたのか、なんとも豪華な作りの椅子を置いて、それにゆったりと腰掛け、専従メイドに日傘を持たせている女性が声をかけてくる。
「はぁ……囮、ですか」
女性の椅子に比べたらなんとも質素な、至って一般的な椅子をぎしりと鳴らしながら俺がそう返すと……先端をくるりとカールさせた金の長髪、白い生地にこれでもかと豪華な刺繍をしたワンピースと、ピンクのサンダルという、なんとも言えない格好をした若い……まぁ、美人と言って良いだろう女性がはにかみながら言葉を返してくる。
「ええ、あれだけ数を揃えて空を飛んでいればさぞ目立つことでしょうし……何より連中はその素材目当てに真っ先に敵へと突っ込んでいくことでしょう。
……が、所詮は旧式の飛行艇、あんな戦力で効果的な打撃を与えられるとはわたくし共も思ってはいません。
連中が囮となって時間を稼いでくれている間に……本物の遊撃隊を発進させ、連中が戦っている地域の近くに、地上水上問わず出来る限りの兵器を配置しての決戦場を作り出し、その上で変異種を迎撃する。
……軍ですら苦戦した相手なのですから、そのくらいの工夫は必要でしょう?」
その言葉を受けて俺は苦笑する。
知事の娘の割に随分とエグいことを考えるというか……まったく、助けた時はこんな強かな女性だとは微塵も感じなかったんだがなぁ……。
「ねぇねぇ、アルベルティーナさん。
その本物の遊撃隊って、どれくらいの戦力になりそうなの?」
昨日突然屋敷にやってきて、それから数回会話をしただけなのに、すっかりその女性と仲良くなったアリスがそう問いかけると、女性……アルベルティーナはその青い瞳をキラリと輝かせてから、クスリと笑い……言葉を返してくる。
「父が懇意にしていた元軍人の賞金稼ぎ、彼のグループが10名。
わたくしが懇意にしていた飛行艇乗りが2名。
それと南西地域指揮官のクレオさんと貴方達……以上となります。
数としては心もとないかもしれませんが、全員が最新機に乗る訳ですから、まさに一騎当千……本土の軍にも劣らない戦力となるでしょう」
俺達以外も全員最新機か。
よくもまぁこのご時世に12機も揃えたもんだと驚くが……まぁ、そこは知事としての、政治家としての力ってやつなんだろうな。
「じゃぁじゃぁ、地上と水上に配備するってのは、一体何を配備するつもりなの?」
続けてアリスがそう問いかけると、アルベルティーナはこくりこくりと頷き、言葉を返してくる。
「地上には空中軍艦に積む想定で作られたという対空砲がいくつか手に入りましたので、それを二門、地上用に改修した上で配備する予定です。
水上には既存の軍艦に、同様の対空砲を載せたものを2隻……これがわたくしと父で集められる精一杯の戦力となります。
……あまり話題に出したくはないのですが、どういう訳か神殿の連中がわたくし達に支援すべきだと、本土でそんなロビー活動をしてくれたようでして、これらの兵器も新型機も、そのおかげで確保出来たという訳なのです。
……ああ、でも、あんな連中に感謝する必要は無いですよ、えぇ、本当にろくでも無い連中なのですから」
口元を手で隠し、笑っていない目でそう言ってくるアルベルティーナ。
アリスがそんなアルベルティーナに無邪気な笑顔を返す中、俺は……異様な殺気に近い何かを感じ取って、なんとも乾いた笑いを返すことになるのだった。
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