第60話 銃座


 アリスとクレオ、アンドレアとジーノにハイエナの話をした所、全員が僅かも迷うことなく賛成の声を上げてくれた。


 クレオは軍人としてそんな連中を見逃す訳にはいかず、アリスとアンドレア、ジーノはこの島にそんな連中を近付けたくないとのことで……まだ国からの賞金がいくらになるかも分かっていないのに、賛成どころか完全に仕事を受けたつもりで準備をし始めてしまっていた。


 クレオは軍のネットワークを使って情報収集。

 アンドレアとジーノは今まで稼いだ賞金を使っての飛行艇のレストア。機関銃とエンジンも最新のものに載せ替えるらしい。


 そして俺とアリスは、以前ちらっと話に出た、飛行艇の複座……アリスの席に銃座を作るという作業の進展の確認のため、整備工場へと足を向けていた。


 複座に銃座が出来て、後部に攻撃できるようになれば、基本的に前方にしか攻撃できない飛行艇同士の戦いでは大きなアドバンテージを得ることが出来る。


 その分だけアリスが敵の標的になるという危険性もある訳だが、飛行艇に乗っている以上は何処にいようが何をしていようが撃たれる危険性はある訳だし……より速く敵を殲滅出来たほうが結果として安全性が高くなる……と言えないこともない。


 ならば稼いだ賞金のうちのいくらかを使ってしまったとしても……まぁ、損ではないはずだ。


 幸いにして俺達の飛行艇はエンジンのパワーと、薄くて軽いミスリル板のおかげでかなりの余裕があるというか、機体内にちょっとした余剰空間というか、改造の余地のある空洞が存在している。


 そこに弾を積み込んで、銃座への給弾機構をはめこんで……ついでに回転式の席でも置いてやれば、小柄なアリスでも問題なく銃座を操ることが出来るだろう。


 ……と、そんなことを考えながら工場へと足を踏み入れると、整備員達が俺達の飛行艇に群がりながら工具を操り、激しく火花を飛ばしている姿が視界に入り込む。


 そんな総出でかからなくても良いだろうと、そんなことを思うが……まぁ、うん、早く出来上がることにこしたことはないか。


 そうして少しの間、その姿を工場の入り口から遠目に眺めていると……俺達がやってきたことに気づいたらしい事務員が、俺達を事務所の方へと案内してくれる。


 工場の壁に張り付けたという感じで作られた、2Fというかなんというか、工場全体を見下ろす形で作られた事務所には、いくつもの机と書類棚が並んでいて……机の上には整理されていない書類の山が雑多に放置されている。


 その中には様々な支払いに関する書類や、税金に関する書類なんかもあって、そんな雑に扱って良いものではないと思うのだが……それがこの工場のらしい所だと言えた。


 客から預かった飛行艇や工具が汚れたり、傷ついたりするのには敏感で、現場は神経質なくらいに掃除をするのに、事務所はこのザマで……隅の方を見ればかなりの埃がたまってしまっている。


 客を歓待したり、客と交渉をしたりするのもこの事務室のはずなんだが……こっちは掃除をしなくて良いのだろうか……。


「おう! 来たな! 今は忙しいからあれこれ話す余裕はねぇが、とりあえずこれが図面だ。

 改造ついでに整備も完璧にしておいてやるから安心しろ。

 ちなみに銃座は既に装備している機関銃と同じ、ナガフネ製にする予定だ。

 なんか意見があるならそこの事務員に言っておいてくれ、一応参考にしてやるよ」


 俺達が事務所のソファに腰を下ろしたタイミングで工場長がやってきて、そんなことを言いながら図面のコピーを俺達に押し付け……俺達の返事を待つことなくスタスタと、現場へと戻っていってしまう。


 その背中を仕方なしに見送った俺は……受け取った図面を、ソファ前の机へとアリスにも見えるようにと広げてやる。


「……席の周囲に円形のレールを作って、そこに銃座を乗せて、銃座がレールの上を走るというか、滑る形で回転するって所か。

 基本的には360度回転可能だが、一度に回転しすぎても危険なので段階的なロックをしている……射角は自機への被弾を避ける為に基本は上向き。ロックを外せばある程度角度を下げることも出来て……500発までは自動給弾が可能。

 500発を打ち切ったら給弾装置へのリロードが必要だが……まぁ、それ以上連続して撃つのは、熱やら何やら暴発の危険性もあるから、推奨はしないと……」


 図面の上に指を置いて、置いた指を滑らせながら図面を読めないアリスにどうなっているかを説明していくと、アリスは「うんうん」と声を上げながら、持ってきた学習用ノートに俺の言葉を書き留めていく。


「撃つ際には当然のことだが自機に当たらないように気をつける必要があって……それだけじゃなくて飛行艇の姿勢にも気をつける必要があるぞ。

 この仕組を見ると逆さまになっている時に何度も回転させたり、連射したりすると不具合が出る可能性がある。

 ロール中やそういった姿勢になっている時は、なるべく撃たない方が良いだろうな。

 銃座が故障したり、機関銃が故障したりで、危険だと思った場合は機体内の緊急レバーで切り離しが可能で……それすら不可能な場合は、機体内にこもっていたほうが良いだろうな。

 アリスは飛行中に何度か、機体内に潜り込んで眠っていたから、そこら辺のことは俺より詳しいだろ?」


 と、俺がそう言うと、アリスは「あちゃー」と言わんばかりの表情で「バレてた?」とそんなことを口にする。


「そりゃぁ通信機から寝息が聞こえてきたら、バレるに決まっているだろう。

 ……だが悪いと言っている訳じゃなくてだな、そうやって休憩を取ることは必要なことだし、危ないと思ったらそうやって自分の身を守ることを何より優先するようにしろよ。

 それと……人を傷つけるのが嫌なら無理に撃たなくても良いからな」


 そんな俺の言葉に……できるだけ力を込めて、真剣な表情で持って口にした言葉にアリスは、何の言葉も返さず、ただただ笑顔だけを向けてくるのだった。

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