第20話 VSガルグイユ その3
ガルグイユの横っ面に当たった銃弾が、その石壁を剥ぎ取っていって……そうしてガルグイユの目を、その右目を守っていたまぶたを貫いて、その中の眼球をも貫く。
血が吹き出し、ガルグイユの悲鳴が上がって……そうしてガルグイユがゆっくりとその高度を下げていく。
そんなガルグイユと他の飛行艇の様子を見るため一旦機首を上げて上昇し、旋回しながらガルグイユの周辺をじっと見やる。
助けに来てくれた飛行艇二機は無事なようで、俺と同じように機首を上げて上昇している途中だった。速度の差かまだ旋回までは至ってないようだ。
そしてガルグイユは目が痛むのか、何なのか……ゆっくりと高度を落としていって、水面ぎりぎりの、もう少しで着水するという所まで高度を下げる。
一体何がしたいのか、何が目的なのか……どうあれトドメを刺すだけだとその顔をぐいと上げたガルグイユが、自らの周囲に上空に炎弾を吐き出し、狙いも何もなくデタラメにばらまき始める。
「そういうことか!!」
そう声を上げながら俺は慌てて回避行動を取る。
ガルグイユはどうやら、片目を失った状態でうろちょろ飛び回る俺達を捕捉するのは難しいと考えて、とにかくデタラメに狙いも何もなくばらまきまくるという戦法に出やがったようだ。
高度を下げたのは自らの下に潜り込まれるのを嫌がったからで……そうすることで攻撃しなければならない範囲を少なくしたのだろう。
そうやって炎弾をばらまいていればいつか俺達に当たるかもしれないし、あるいは炎弾を嫌がって逃げ帰ってくるかもしれない。
俺達を追い払えさえすれば、巣を変えるなり何なりしてその傷を癒すことが出来ると、そう考えたという訳だ。
その戦法はある意味では有効で……攻撃が読めないからこそ、デタラメ過ぎるからこそ、迂闊に近付けず、攻撃のチャンスを得ることが出来ず、特に性能の低い他の飛行艇達は炎弾を避けるのに必死で……体制を整えることすら出来ずにいる。
このままではあの二機が炎弾の直撃を食らってしまうかもしれないぞと、炎弾を回避しながら俺が焦れていると……アリスが力強い声を上げてくる。
『ラゴス! 行こう! 勇気を出して突っ込もう!
私も手伝うから!!』
そう言われて俺は、操縦桿をぐっと握りしめて……荒くなっていた呼吸を整え、しっかりとペダルを踏んでから……、
「おう! 行くぞ!」
と、声を返し、炎弾を吐き続けるガルグイユの方へと機首を向けようと旋回する。
するとアリスが、
『食らえ!』
との声を上げて、ポシュンッと何かを発射する。
「はぁぁぁっ!?」
と、そんな声を上げながら、突然のことに驚愕しながら俺が機首をガルグイユの方へと向けると、ガルグイユの側でまばゆいくらいに光る何かがゆっくりと海へと落下していく姿が視界に入る。
『フレアガン!
グレアスさんに何か武器を頂戴っていったら、これなら良いって渡してくれたの!
今ならもう片方の目も見えにくくなってるだろうから、チャンスだよ!』
「あのクソ親父!! 帰ったらぶん殴ってやる!!
っていうか手伝うってそういうことかよ!?」
アリスのとんでもない発言にそう返しながら、スコープを覗き込んだ俺は……突然の照明弾を受けて、炎弾を吐き出すことを忘れて悶えているガルグイユを射程距離に捉えて……顔に狙いを定めてトリガーを一気に押し込む。
放たれた弾丸が激しい音と共にガルグイユの顔に命中し、その鼻を貫き、顎を貫き、そのあちこちから血を噴出させる。
その痛みのせいかガルグイユは炎弾を吐き出すのを止めたが、だがそれでもトドメには遠いようで……その様子を見た俺は、
「もう一回行くぞ!」
と、声を上げながら機首を上げての旋回を実行する。
そうやって再びガグルイユを正面に捉えて、再度の攻撃をしようとしていると、ガグルイユの炎弾が止まったことで体勢を整えられたらしい他の二機が、別角度からの攻撃態勢を取ってくれて……そうして三方向からの銃弾が、ガルグイユの頭、腹、背中に銃弾が次々に命中する。
「ガァァァァァ!」
石壁を剥がす銃弾、石壁を剥がしたところを貫く銃弾、分厚い石壁に弾かれてしまう銃弾など、その効果は様々だったが、三機同時での攻撃はかなり効果的で、ガルグイユにかなりのダメージを与えて……ガルグイユの動きが鈍り……その凄まじかった叫び声から力が失われていく。
それから俺達は、ガルグイユの周囲を、死体に群がるハエか、それともハゲタカかといった具合で飛び回り、飛び回りながら銃弾を撃ち込み続けた。
何度も何度も旋回し、何度も何度も銃撃を繰り返し……そうして何度目かの攻撃のタイミングで、トリガーを押し込むと、機体前方の機関銃がカシンと軽く乾いた音を立てる。
「弾切れかっ!?」
二度、三度と押し込んでも乾いた音を立てたままうんともすんとも言わない機関銃に俺は、残弾のことを考えていなかったと舌打ちをし、歯噛みする。
回収船に行けば弾はあるが……このタイミングで給弾しに行くべきなのか、そんなことをしてしまったらガルグイユを逃してしまうのではないかと、そんなことを考えて頭を悩ませる……が、結局それは杞憂だった。
ほぼ外すことなく叩き込まれた1000発の弾丸。
いくら石壁を身に纏うガルグイユでもあっても、それらを耐えきることは出来なかったようだ。
水面の上で動きを止めて、ぐったりと首を垂らし、大きな翼を力なく垂らし……そうしてそのままゆっくりと水面に伏すかのように力尽きる。
死んだ振りか……とも一瞬考えたが、ガグルイユの足元の海面に広がる、凄まじい量の血をみれば、それが振りではないことは明らかだった。
それを見て俺は飛行艇を上昇させ、そうやって速度を落としながら、頑張ってくれたエンジンを休ませようと、着水体勢を取り始める。
他の二機も同様に着水体勢に入り……そこに様子を見ていたらしい回収船が猛スピードでやってきて、その船上で何人かの作業員達が慌ただしく駆け回りながら引き揚げの準備に入る。
そうして回収船が起こした波に揺れる海面の上にゆっくりと飛行艇を着水させた俺は……操縦桿から手を離し、熱のこもったため息をおもいっきりに吐き出すのだった。
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