雨の降る部屋
井崎
第1話
私の部屋には雨が降っていた。それは凍てつくほどに冷たく、身体を蝕んでいく。
私は決して部屋からは出られなかった。いや、出なかったのだ。肌をつたう冷たい雨の軌跡が、あまりの寒さに麻痺する感覚が、心地良くて。
私を心配した家族や友人はそのドアを叩いた。けれども、その音は大きすぎる雨の音に掻き消されて私には届かない。
気づけば、そのまま時は流れた。以前のようにドアを叩く人はもういない。私は本当にひとりになった。ひとりだと自覚すればするほど、なぜか雨は弱くなっていった。
弱い雨にはもう心地良さの欠片もない。私は怖くなっていた。小さな声で弱音を吐いた。
すると、一定のリズムでドアを叩く小さな音が聞こえた。
私は思わずドアを開ける。
目の前には見知った顔があった。彼は私の頭上に傘をさし、そして微笑んだ。
それから度々、彼は私の部屋を訪れた。私が彼の部屋に行くこともあった。
いつしか、私の部屋には雨が降らなくなっていた。
雨の降る部屋 井崎 @isaki_story
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