久保田君の謎
kirinboshi
第1話 久保田君
俺の友人、久保田君はちょっと変なやつだ。俺以外に友達もいないし、彼女もいない。それでも本人は至って平気のようだ。
しょーもない三流大学の授業の合間、暇を持て余していた俺は適当にモッサリとした様子の前にいた男に話しかけた。久保田君は「量子力学」の本に夢中で、声をかけた俺になかなか気付かなかった。
俺は久保田君のぷにっとした肩をつついて存在をアピールした。振り返った久保田君は眠そうなカピバラのような顔をした不細工な男子だった。
「何か?」
最初、久保田君は俺を相当、警戒しているようだった。
「いやいや、次の授業は休講らしいっすよ?お名前なんていいます?
学食でも一緒に行きませんか?」
俺はなるべく威圧的にならないように話しかけた。俺は、キツネのような顔をしているせいか、キツい性格に見られやすく、実を言うとこの大学でもトロそうな久保田君と同じように仲間がいなかったのだ。久保田君は、俺を上から下まで眺めた後に、量子力学の本をバタンと閉じた。
「それはご丁寧にどうも。いや、本が面白くて気づきませんでした。僕は久保田です。
実は学食にはまだ行ったことがないんです」
「は?」
俺は思わず聞き返してしまった。大学入学から三ヶ月は経っているはずだ。俺の動揺をくみ取ったのか、久保田君は気まずそうに咳払いをした。
「いや、好き嫌いが激しいもので。なかなか勇気が持てなかったのです」
……なんの勇気だよ。
俺は久保田君をしげしげ眺めながら、これは相当、面白いやつと出会ってしまったのかもしれないと思った。
久保田君はもっさりした髪を撫でつけながら、
「いやーでも行きたかったんですよね」
と、学食に向かう俺の後をついてきた。
俺と同じくA定食を頼む久保田君を見て、俺は久保田君の好き嫌いについて考えた。
A定食は、別名「バランス定食」という名前がつけられた、30品目以上の素材からなる定食である。
……好き嫌い激しい奴が頼むか?
俺は疑問に思いながら、久保田君の様子をうかがった。
久保田君は最初こそ箸で恐るおそる、菜っ葉をつついていたが、やがて猛然としたスピードでA定食を平らげた。
「美味しいですねぇ!」
カピバラが喜んだらこんな顔になるのだろうか。嬉々とした久保田君を眺めるのは悪くなかった。あきらかに俺を警戒していた久保田くん。しかし、俺が何でも大学のことを教えてやると、距離が縮まったのか、俺の隣で授業を受けるようになり、昼はいつも一緒に学食に行った。俺は、何故か初めて大学で居場所を見つけたような気がして嬉しかった。
俺と久保田君は友達になった。
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