カールのロボット
芳村アンドレイ
第1話 カール
青空が綺麗だ。
カールは心の底からそう思った。
流れる雲が鯨のように飛行機という小魚を全く気にせずにいる。
俺もああやって、
今を生きているのかな?
椅子をたたんでから、広い裏庭を渡って家に戻った。
今の世界、カールの名前を知らない者はいなかった。
カール。それだけ。本人以外苗字も知らない。カールが実名なのか、それとも偽名なのかを調べる人は多かったが、カールは実名だと度々記者に言った。その名前の下で売られる商品は世界人口の四割が持ち、八割には身近な存在だった。買う人、そして豊富なドーネーションによって世界に広まった。
カールのロボット。
「カール!工場建設おめでとう!」
「いやあ、ありがとう。全てあなた方のおかげです」
「何を言っている、ほら、お前も飲め」
若きカールのコップにビールを注ぐのは建設会社を持つ大学時代の親友だった。
「お前もこれで金持ちへの道が開けたな。いつまで遅れを取っているのかと思ってたら、これじゃあ追いつかれるというよりは追い越されちゃうよ~」
「恩に着るよ」
「ああ、ずっとだからなあ?お前のような、お金もなければ、後にお金を払えそうにもない奴に工場作ってくれる優しい人は俺だけだぞ」
「はいはい、もう十分に解ってますよー」
今度はカールの方がビールを注いだ。
「そいういえば彼女が出来たんだって?カール、お前やっぱ一気に物事を欲しがる奴だな」
「まあね...彼女とは上手くやっていくつもりだよ」
「名前なんだっけ?」
「ああ、カルラ。まだ会ってなかったっけ?」
「会ってないよーもー」
この時カールはまだ小魚だった。
雲になったのは、多分あの日だろうか。
カールの工場から初めてのロボットが歩き去った。身長は丁度平均の人間と同じぐらい、鋼鉄で出来たボディーは巧妙に秘密の内臓を包み込んで、滑らかで引き締まった身体を仕上げた。頭は単純。丸と四角が顔にどことなく優しいおじいちゃんの印象を与えた。
出来る事と言えば生身の人間とほとんど変わらない。仕事なら頼めばいい。家事、運転、子供の面倒見、リストは続く。
出来ない事を言った方が早い。
お喋りと極度な頭回し。
人の言う事を理解できるが、それに言葉での返事は許されない。これは単にカールの好みだった。喋らないロボットの方が行動力は上がると思い、あえてそうしたという。
喋っても、ろくな意見が飛び出てこない。
そんなロボットが渡り鳥となってカールの成功を掴んで、休む事なく、気付かれて感謝される事なく、広い世界の隅々にまで飛んだ。
イベント化した初号機の売られる瞬間からカールの未来は定まった。
最新の流行りにみんなは乗ろうとした。それほど高くもないお金を出して、一家のメンバーをペットのように増やすのが新しい騒ぎとなる風景をカールは工場の窓から見渡した。
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