暗陰は散開し、空霽れ渡る

 駅を出て、芸人継月の先導?の元延々と続く砂利道を進んでいく。


「ふんふん……」

「どしたん?」

 キタキツネがいかにもキツネらしい仕草で鼻を鳴らしていたので、思わず声をかけてしまった。


 おそらくお腹が減っているのだろう。何となく分かる。

 というか、自分もだ。

 気づけばご飯時になっており、それを意識したせいか腹の虫が鳴きそうだ。


 ふと遠くの方に目をやると、参加者の一人である松前くんとアードウルフが手を繋いでいた。

 芸人たちはそれを見て「おアツいねぇ……」などと茶化しているようだ。


 浅い!

 浅すぎるよ。浅漬けくらい浅い。


 しかし次の瞬間、俺はホワイトサーバルの言葉に驚愕することになる。


「うみゃっ?すずしーよ?」


 素晴らしい!

 素晴らしいよ。実に美しい。

 その純粋さ、百点。えらすぎ。


「ぺろ。変な顔してるよ」

「へへへ、変な顔!? あくまで通常運転だよ!」

「いつもそんなかおしてるんだ」

 慌てて取り繕ったが、遠方の会話に夢中になっていたあまり、かなりまずい表情をしていたらしい。

 落ち着かなければ、冷静にならなければ……


 しかしホワイトサーバルの純粋さはとどまるところを知らず


「おにいちゃん、大丈夫?疲れちゃった?」


 お、お、お、お、お兄ちゃん!?!?!?!?

 安心しろ俺。慌てるな。

 まだ慌てるような時間じゃない。

 これはあくまでホワイトサーバルが芸人に対して放った言葉であって、


 だめだろ!!!!!!!!!!!!!!!


 どういう教育してんの!?

 そういう教育してんの!?


 人の形をした動物が園長をお兄ちゃん呼び!?いやしかもただの人とかじゃなくて小学生か良くて中学生の年頃の見た目してる子が!?兄ちゃん!?想像してみて、人見知りで純粋な可愛い小学生の家に来た20中盤の家庭教師の男をお兄ちゃん呼びしてるの結構だめじゃない?もしかしてお兄ちゃんって呼ぶように言ってるの?それともあの子が勝手に!?それはだめだ、特に後者がダメだ、個人的にダメだ。いや、そんなことよりもまず


「俺もキタキツネにお兄ちゃんって呼ばれたいなァアアア↑↑!?!?」

「えっ!?」

「うわああああ!! ……すみません、「欲求」が出てしまいました」


 運良く声が裏返ったおかげで俺の欲求は絶叫となることなく喉の手前で爆ぜたが、それはキタキツネを驚かすには十分な声量だった。


「今なにか言ったよね? おに「忘れて。ね?」


「う~ん、確か……なんで、よんでほしいんだっけ」


 ガハッ!

 キタキツネは中学~高校の見た目をしているのにも関わらず、無意識に発されたフェロモン(?)は俺の脳を破壊するには十分な威力であった。


「お兄ちゃんって呼んでくれないか?」

「え~~」


「やだ」


 おほ~~~~↑↑

 断られたのにもかかわらずどうしてこんなにも嬉しいのだろうか。

 これ傾いちゃうよ~~これ、傾国の美女だよこれ。

 妲己だかなんだかしらんけど国が傾く女の子ってガチだよ、これ。


 ああ~~ニポンが傾きすぎてあたしんちグラグラゲームになってまう!

 国政こわれる~~~~


 ──────────────────────


 ようやく到着した探検隊拠点。


 あまりの提供の遅さにキタキツネから魂のお叱りが入るも、芸人からの誠意のチャーシュー丼は提供されることなくおふくろの味的な料理たちが目の前に並んだ。


「わあ、いっぱいある」

「そうだねぇ、茶色いねぇ」


 本日の献立は


 ・河豚の唐揚げ(山口県)

 ・呉の肉じゃが(広島県)

 ・黒田せりとホウレン草のおひたし(島根県)

 ・タコ飯(岡山県)

 ・親ガニの味噌汁(鳥取県)


 となっている。


「フグに……カニか。ずいぶんと豪華だな」

「これいつものからあげじゃないの?」

「これはフグの唐揚げだよ。気をつけて料理しないといけないから人間の世界だと高くてなかなか食べられないんだ」

「とくしゅちょうりしょくざい……」


 そんなこんなで食事開始の号令がかかったので、各々いっせいに目の前の食事に夢中になった。


 タコ飯は、タコの味がした。

 肉じゃがは、肉じゃがの味だ。

 味噌汁は、上品な漁港の香り。

 おひたしは、よく浸っている(?)

 ふぐ唐揚げは、思ったより歯ごたえのある謎魚味だった。割と一番うまい。


 キタキツネの方を見ると、何かに気づいたようだ。

 何も言わずに、芸人の方を見つめ続けている。


 他の一部のフレンズたちも同じように何かに気づいている様子だ。


 ……盛られたか!?!?!?!?


 まあそんな粗相はあるわけがなく、どうやらこの料理は芸人園長が作ったものらしい。普段から彼の料理を口にしていたフレンズがそれに気づいたようだ。


 へえ~~やるやん。あいつ何でもできるんだな。


 ……フグの調理師免許ちゃんと持ってるよね?


「んん~~」

「そんなチキンナゲットみたいな勢いでフグを……」

「これまいにちたべたいな」

「毎日食べたら飽きちゃうぞ? それに油物ばっかり食べてるとキタキツネの身体がまんまるになって、雪山の上から下まで転がっちゃうかもな」

「ええ~~~。ギンギツネとおなじこといった」

「もちろんです。お兄ちゃんですから」


 まん丸になったキタキツネは見たくない。(一部の人には需要ありそうだけど)

 今の均整の取れた、必要な筋肉が適度につきながらも適度に……


 ちょっとキモすぎるので脳みそリセットしようか。


 変なことを考えている間に、山盛りだったご飯はあっという間にキタキツネの胃袋に入ってしまった。

 俺の分も少し持っていかれたような気がするが、まあ良いか。


「ボクのくちになんか付いてる?」

「いや? ただ、すごいなぁって」

「ん?」


 運動能力もそうだが食事量も高校球児のようだ。

 本当に妹になったら、食事の……お弁当の作りがいがあるんだろうな。


「いっぱい食べて……キタキツネは、大きくなるのか? 普通に気になってきたな」

「おおきく?」

「ああ。でも、きっと大きくなっても可愛いんだろうな。あと10年くらいかな」

「10年もかからないよ。ボク頑張ってるからね」

「探検隊にも入るんだよな。頑張れよ」


 キタキツネの頭に手を乗せると、不思議そうに見つめていた。


 指がキツネ耳に触れた瞬間払いのけられてしまったが。


 ───────────────────


 食事も終わり一休みしたところで、あっという間にバスに乗る時間だ。


 次の目的地はサンカイらしい。いや、なにそれ。


 最終日までにキタキツネにお兄ちゃんと呼んでもらうことを心に決め、俺はキタキツネの手を取って共にバスに乗り込んだ。

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