めんそーれ! りうきう!

 波を切ってクルーザーが進んでいき、たまに跳ねた水が飛んできて顔に飛んでくる。

 口に少し入り込んだが決して臭くはなく、活動を停止していた脳味噌を起こすにはちょうどよかった。



「そろそろついた?」

「もうすぐだ。おっきな島が見えるだろ」



 キタキツネが身を乗り出してりうきうちほーを見つめている。サーバルキャットとかコツメカワウソの類はここで叫ぶだろうが、キタキツネは決してそんなことはしない。

 その大きな尻尾が振られているのを除いて。



「しっぽがすごいね! 最高だよ!」

「ぺろ見て。キレイだよ。砂がキラキラってしててとってもキレイ。ギンギツネにも見せてあげたいな」

「そうだな」



 ふと手元を見ると、アホみたいに分厚いパンフ……いや、本が凄まじい存在感を放っていた。ミライさんが纏めたらしく、ちょうど園長……ピン芸人継月がその事を気にしていた。きっとあの人が纏めていたら面白いギャグとか絡ませてきたんだろうな。


 というか、芸人とガイドが揃っているのにトークは無いのか。無いならキタキツネと絡むから良いけど。



「耳触っても良い?」

「くしゃくしゃにしなければ、いいよ」

「あ゛はあ~」



 そんな感じで適当にイチャコラしていると、あっという間に港についた。


 ちなみに今現在スケジュールは未定である。


 ______


 その後いつもどおりの長ったらしい説明が始まると思ったので、キタキツネとイチャコラしながら馬耳東風スタイルをキメてやろうと思ったがちょっと待て。


 すさまじく卑猥な格好をしたフレンズが二人出てきた。赤いエロスと青いエロス。もうエロティックサムシングでお腹いっぱいだよ。クルーザーでもコウテイペンギンのせいで目のやり場に困ったし。


 年齢は多分……高校生くらい? そんな年頃の女の子が秘部と乳房を必要最低限の何かで隠しており、その圧倒的露出度は他の追随を許さない。っていうかあれ上半身ほとんど肌じゃね?


 はぁ~~~~~~~えっっっっっっっっ



「シーサー」

「シーサー? あの、屋根に乗っかってる狛犬的なやつか? 教科書でしか見たこと無いが」

「守護けものだよ。レフティとライトって言って、二人でりうきうを守ってるんだ。キュウビとかオイナリサマがよくご飯食べるから、ボクも誘われて一緒に話すんだよ」



 まてまて人脈のクセがすごいんじゃ。人間関係のガラパゴスか? まるで友達とメシ食うようなノリで神と絡むんだな君は。


 そんな事を考えているとツイン・エロスの青い方……シーサーライトと芸人が騒ぎ出した。


 何か言ったような気がしたが、敢えてそれを聞き流しておいた。多分それを聞いてしまったらもう芸人としては見れない気がする。説明されちゃあおしまいよ。




 ______



「なんか面白いものはねえかなぁ?」



 今はキタキツネと二人きりで砂浜を歩いている。真っ白い砂浜だ。波が打ち寄せるギリギリのところを歩いていると、パークの外とは比べ物にならないほどの自然物が見つけられた。



「きれい!」

「海入ってんじゃん」


 するとキタキツネが透明な石のようなものを拾ってきた。角が取れて丸くなって石のようだが、どことなく人工物のような感じがある。



「シーグラスだな。人間が捨てたビンとかが砕けて、波に揉まれて丸く削れたものがこうやって打ち寄せられてるんだ」

「ギンギツネに見せたいな……」


 このときのためにいくつかアイテムを持ってきていた。大したものはないので持ち込み検査にも引っかからず持ち込むことが出来た。


 何の変哲もないビン。ジャムの入っていたものだ。甘ったるくて美味しいものではなかったが……とこれはどうでもいい話。


 取り出した瓶の蓋を開けると、キタキツネの持っていたシーグラスとそこら辺に落ちていた貝殻をいくつか詰め込んでみた。



「おお」

「フレンズっとっても女の子なのは変わりないし、こういうの好きかなと思ったんだが」

「れああいてむだね。いっぱい集めないと」


「れあと言えば、あそこに本土じゃ絶対見ないものがなってるぞ」

「何あれ。パイナップル? みたことないな」



 透き通るような青い空に対抗するように真っ赤に染まった果実。アダンの実だ。群れるように大量の実をつけて、いかにもリウキウらしい複雑な支柱根も広げている。ちなみに支柱根とはアレだ。マングローブとかにある、根っこがワチャワチャってなったやつ。



「食べれる?」

「食えないことはないが食べないほうが良い。歯が折れるぞ……あっ」


「こん!!! うわあああ!! ガリって言ったぁ、かたーい!」

「ハハ、かわいいな」

「美味しいの食べたい。美味しいの、ない? 油揚げとか」

「独特な好みだな。狐だからか? だが油揚げは市街地に行かないと見つからないぞ」

「いつもオイナリサマが出してくれるし、ギンギツネもどこかから持ってくるんだよ。ヒトならできるでしょ」



 ヒトを何だと思っているんだ? もしかして飼育員が適当な話でもしているのだろうか。


 しかしここで何も出来なければ俺はヒト代表として信頼を失ってしまう。キタキツネにとって俺は一般人類代表だ。



「海に出てみないか? 魚とかいるかも知れないからな」

「いきたい!」



 そんなわけで、俺は近くに船が……ない。少し探してみたのだが、俺とキタキツネはいつの間にかかなり遠くまで来てしまっていた。他のフレンズすらも居ない。


 少し叫んでみたが返事が来ることはなかった。



「弱ったな。せっかくやることが見つかったってのに」

「ボク早く海に行きたいな」

「しょうがないな」



 砂浜から少し歩くと、ゴツゴツした岩肌の目立つ場所についた。凹んだ部分に海水が溜まって、取り残された生物たちが大量に見つかった。



「こやぁぁぁぁぁ!!!!!」

「どうした!」

「なんかでたっ……なにこれ、よく見ると面白いかも」



 キタキツネが指差していたのはナマコだ。白い網のようなものが飛び出してかなり凄惨な状態になっている。



「ぺろ?」

「ん?」

「はい」



 茶色い何かを手渡され、最初は何かわからなかったがによってすぐに正体がわかることとなった。


 大きなナマコ。それもさっきのより二周りほど巨大な……もちろん出てくるものも相応に大規模になってくる。立派な立派なキュビエ器官。



「ぐわぁぁ!?」

「むふふふふ」

「くっそ取れねぇ! ネバネバしやがってこいつ、うおおお! キタキツネ許さねえぞ! こら!」


「ねえこっち綺麗だよ。いっぱいおさかなが泳いでる。あ、ほら! 小さい魚がいっぱい」



 クソ可愛いけどクソ憎たらしい表情でこっちを見ながら一言。


 それはあまりに大きすぎるダメージを俺に与えた。



「人にナマコを渡すときはちゃんと言おうね! 約束だよ! 弱い人だと心臓とまるよ!」

「ふふ、おもしろい。顔真っ赤だよ」

「可愛いから許す」


「こっちに来てよ」

「そうだったな。……おおっ!」



 あと一歩踏み出すと海に落ちそうな場所で、二人並んで海を覗き込んだ。


 少し沖の方はカラフルなサンゴ礁が広がっていて、まるで絵の具をこぼしたようになっていた。テレビでしか見ななかった景色が今は目の前にある。ここに来る途中でも少し見えたが、今は手が届きそうなほど近くに広がっている。


 そしてキタキツネの言う通り、大小様々なこれまたカラフルな魚が群れになって泳いでいる。



「きれい」

「それしか言ってないな。でも本当に綺麗だ」



 思わず見とれてしまう。しかも隣にはめちゃくちゃ可愛いフレンズが居るし。そっちも見とれてしまう。


 キタキツネは海に足を突っ込んで涼しそうにしている。すると何匹か小魚が集まってきて、キタキツネの周りを泳ぎ始めた。


 きっとジャパリパークの魚はキタキツネの可愛さが分かるのだろう。



「魚食べるのはやめだ。この後美味しいご飯が食べれるみたいだからな」

「そうだったの? もっと早く教えてよ~」

「忘れてたんだしょうがないだろ? でも良かったよ、サンゴ礁も見れたし、ギンギツネのお土産も出来た」


「ギンギツネに早く話してあげたいな」

「大切なんだな」

「うん」


「おっと、もう時間だ。そろそろ行かないとな」

「えぇ~やぁだ~もうちょっとここに居たい」

「他の人も居るんだ。ツアーは時間厳守だぞ」

「うぅ~……じゃあぺろ、ちょっとこっちに来て」

「いきなりどうした」



 言われるままキタキツネの横にしゃがみ込むと


 そのまま海に叩き落された。



「オァーーーーーーー!!! ゴバァ!! ypaaaaaaaaaa!! ガハ!!」

「むふふふふ!」

「油断も隙もないな!!」



 逃げていく魚。岩の上で微笑むキタキツネ。


 ああ、幸せだ。




 結局集合時間には大幅に遅刻した。海水でベトベトになってあちこちに海藻の絡まった重い体を引きずって、道場についた頃にはボロボロになっていた。




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