短歌以外2 「大いなる幻影」

題:大いなる幻影

title: barren illusion


1999年

ぼくがまだヨチ

ヨチしていた頃

黒沢清は

『大いなる幻影』

を撮っていた


南国から来た男女が集合住宅を走り抜ける


言葉に意味がな

いことをみんな

もう知っていな

がら言葉でしか

意味を示すこと

もできないから


ひとり女が身を投げる 叫び声が聞こえる


いまぼくは大人になって

デジタルの飛沫に溶けて

ビグダータは個別意志で

意味は

インフルエンサーが決め

ているのでだれでもない


色とりどりのシャツの賑やかしの楽隊が歩く


花粉が舞い子供連れがガスマスクを架ける


黒服の七人が空中歩道を塞ぎ楚々と歩く


薄い色の砂浜に濁った水から白骨が流れ着く


1999年

ぼくがまだヨチ

ヨチしていた頃

黒沢清は

『大いなる幻影』

を撮っていた


若者たちが低い車に乗って自動車道を走る

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る