【a girl's monologue ②】

 君塚にもらったあたしの新しい人生は《名探偵》として始まった。

 それも普通の探偵ではない。

《人造人間》と戦う探偵だ。

 ……だけど、もしかすると心のどこかでは不安に思っていたのかもしれない。

 それもそうだ、何者でもなかったあたしが、急にそんな大役を担えるはずもない。

 せめてもう一人、誰かからその役目を認めてもらえないと、あたしは新しいあたしとして、やっていけない気がしていた。

 そうして、新しい自分に生まれ変わる決意をしたその日の晩──あたしは夢を見た。

 それはかつて、本物の名探偵として世界の敵と戦ってきた者の夢だった。

 夢の中の彼女は……シエスタさんは、あたしとは正反対の性格に思えた。

 実際の彼女がそうだったかは分からないけれど……いや、君塚の話を聞く限りではおおむね正しかったのかな?

 ともかく、理知的な彼女と、直感型のあたし。

 正反対のスタンスを取るあたしたちは、夢の中でおおげんに次ぐ大立ち回りを演じてしまい、それはそれは見るに堪えない泥沼劇だった。

 だけど最後に勝ったのはあたしで(シエスタさんの方が大人で、自ら退いてくれた説もあるにはあるものの、真相を追求するのはやめておく。主にあたしの名誉のために)、最終的にシエスタさんはきみづかをあたしに任せると言ってくれた。(いや、別に君塚を取り合ってたわけではないのだけれど、詳細を述べるのはやめておく。主にシエスタさんの名誉のために)

 いや、どこかネタのように言ってしまったけれど、それはあたしにとって重い意味を持っていた。


 これで名実共に、あたしは名探偵になれる。

 やっと何者かになれる。

 ──逆に言えば、失敗は許されない。

 何者でもない自分は嫌だ。

 もう、あの何もなかった頃には戻りたくない。

 あのだけは、もう──

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る