番外編3
「えっ…」
テオドールは思わずそう言って口が開いたままになっていた。
ようやく、エリカと無事に婚約と相成った数日後。
正式に婚約者となってから、エリックではなくエリカとしては初めてテオドールの屋敷にやって来たエリカ。
婚約してすぐとは気が早いのではあるが、今後の結婚の話をしていた時のこと。
テオドールは上級貴族であることもさながら、エリカの年齢も考えて数年は先になるだろうと思いつつエリカに話をしていたのだが…
「そうですね…私はすでに成人を迎えているので早くても問題ないのですが…」
と、エリカが言った言葉がテオドールには衝撃的すぎたのである。
「あー…すまない。エリは今年でいくつになるんだ?」
「あら?テオ様はお知りになられなかったんですね。貴族社会の中では有名なんですよ」
そう言ってエリカはころころと笑って話してくれた。
「今年19歳になります」
「えっ…」
ここクルシュツ王国では18歳で成人を迎える。エリカはすでに成人の儀を終えている。
その時に貴族の中で話題になっていたのはエリカの容姿。
どう見てもまだちんちくり…いや、14、5歳の見た目にしか見えないほど、女性の体つきをしていなかった。
かの、魔法で有名なナイルズ公爵家の娘。周りは『あれは本来の姿ではない』とあれこれと想像し、噂となっていたのである。
ある時は幼女、ある時は年配の女性、ある時は女性ですらないとか。
まさか、魔法は一切使っておらず、嘘偽りのないそのままのエリカの姿だとは誰も知らなかった。
もちろん、学園生活を送っていたため知っている人は知っている。
ただ、やはり精神魔法が得意ということで、誰にも本来の姿を見せていないのではないかと、学園内でも噂になってはいた。
しかも、ナイルズ公爵家はその噂に肯定も否定もしないままなのである。
ただ単に直接聞いてくる者がいなかったからなのであるが、答えないということは何かあるのかもしれない、とますます噂が広がっていったわけである。
そんな有名な噂を貴族社会には疎いテオドールは知らなかった。
騎士団へ入団後に養子に行ったこともあり、あまり貴族の集まりには参加していない。騎士団の仕事で参加出来ないことが多かったというのが真実であるのだが。
そしてテオドールが勘違いしていたのにはもうひとつ理由がある。
騎士団と魔法団共に12歳から入団が可能なのである。
たしかに魔法団は学園へ通ってから入団する者が多いため、16歳前後で入団する者が多い。
反対に騎士団は、早くから身につけることが大事であると考えられているため、12歳から入団する者が多いのだ。
テオドールは騎士団で育ってきたと言っても過言ではない程の間騎士団で過ごしていたため、魔法団にそこまで詳しくない。騎士団と同じ感覚でおり、入団して2年といえば14、5歳くらいだろうかと思っていたのだ。容姿としっくりくる年齢だし。
(何でこの年齢まで婚約者が居なかったんだ…)
テオドールの心の呟きももっともである。
ただ、それはエリカの兄ルーファスにも言えることのため割愛する。理由を簡単に言うと、ナイルズ公爵家だから、である。
開いた口を閉じ、こほんと軽く咳払いをして年齢に驚いたことは無かったかのようにして話を続ける。
「そうか…それなら早くても問題はないのか」
ぽつりとこぼすとエリカの顔がぽっと赤く染まる。
「どうした?」
「あ、いえ…その…早く結婚したいと思って頂いてるんだなあと…嬉しくて」
徐々に声が小さくなっていくにつれてどんどん顔が赤くなっていくエリカを見て、自分の発言の恥ずかしさにテオドールも顔を染める。
お互いの照れた顔を見合って、ふふっと笑い合う二人。
柔らかな日差しの差し込むある日の出来事である。
二人で決めた結婚の予定日は当然ながら公爵家の男達に却下されてしまったが、予測のついていた二人は、その予定日から二人で暮らすことをこっそりと誓い合っていたのであった。
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