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街の人から有益な情報を得たその日。いつもより帰宅の遅かった騎士団長と、遅い夕食を一緒に取りながら、エリカにとっては何とも都合の良い話がなされていた。
「明日は帰宅が深夜になるか、場合によっては騎士団に泊まることになる。明日の夕食はいらないからゆっくりしてくれ」
「は、はい」
珍しく食事中に会話をしてきたので、少し驚いてしまった。でも、これはチャンスだと思った。
(魔法団に出勤するのにちょうど良いわ!早く連絡しておかないと)
明日、久々に本来の仕事をすると思うと少し緊張する。早く魔法団へ連絡をしたい。しかし、今は騎士団長の前だ。なるべくいつも通りを心がけながら、夕食を終える。
一通りの仕事を終えたら自室へ戻り、手紙魔法で魔法団へ連絡する。街で入手した情報を明日、直接報告しに行く、と認めて飛ばす。これでヨシ、と思ったが少し考えて、兄への手紙も追加する。明日、会うはずなので先に連絡しておかないと、従者の生活が今日で終わってしまうかもしれない。
今回の内容が目的の情報であれば捜査は終了とされる可能性があるからだ。前もって根回しをしておかないと良くないことは経験済だ。
もう少し従者の生活を続けたかった。それが、もっと料理をしたいからなのか騎士団長と離れがたいのか、どちらなのかは分からなかったが。
(兄さんに暴走されると何が起こるか…)
それより何より、兄の心配の方が大きかった。
追加の手紙も魔法で送り、明日の準備をする。朝食の準備は終えているので、魔法団へ出勤するための準備だ。いつでも着られるようにしていた魔法団の制服を準備して、早めに就寝する。久々に魔法団のみんなに会えるので楽しみだ。
**********
少し緊張した足取りで魔法団へ出勤する。見慣れたはずの魔法団棟がいつもより大きく見える。入団したての当時を思い出しながら歩いていると、後ろから聞きなれた声で呼びかけられる。
「エリカ!久しぶり!会いたかったよ~」
どんっと音が聞こえそうな勢いで後ろから抱きついてきたのは、学園の頃からの友人マリア。
「おはよう、マリア。本当に久しぶりね」
「おっ!久々だなエリカ。お前、何かとややこしいことに巻き込まれるよな」
「ちょっとユーリ!エリカと先に話してたのはわたしよ!取らないでよ~」
ぷう、と頬を膨らませてユーリと呼ばれた男性に向かってマリアは声を荒げる。ユーリは同僚だ。そんな二人を見てこれがいつもの光景だったと懐かしい気持ちになる。同時に、戻ってきた気がしてホッとする。
三人並んで魔法団棟へ向かっていると、入り口からこちらへ向かって誰かがやって来る。それが誰か分かった途端、二人は背筋を伸ばして立ち止まる。
「「おはようございます、団長!」」
「ああ、おはよう」
そう挨拶をした人は口だけの挨拶で二人に目もくれず、真っ直ぐに私に向かって来る。
金色のサラサラした髪、深い紫色の瞳、すらっとした体格だが、決して細すぎではない鍛えられた体。
我が魔法騎士団のルーファス団長である。そして…
「エリィ!会いたかったよ!」
私の兄である。
ぎゅっと抱き締められて少し苦しい。
「兄さん、久しぶり。あの…ここはちょっと恥ずかしいから少し離れてもらえるかしら?」
「久々のエリィ補充をしたいのに…」
悲壮な顔をしながらも、さすがにこの場所は良くないと思ったのか腕を離してくれた。そのまま手を繋がれて、引きずられるように魔法団棟へ向かう。
その一部始終を見て、呆れた顔で兄妹を見つめる二人に『またあとで』と声をかけて、兄に引きずられ団長室まで連れて行かれた。
「さて、ゆっくり話を聞こうか。エリィ」
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