首なし美女
盛田雄介
首なし美女
多くの人が行き交うメトロポリス。
ここは流行の発信地。
駅近ビルには最新の商品がどこの地方よりも早く並び、あらゆる情報がすぐに手に入る。
それは都市伝説も同じ。
今日、私は新聞記者としてある美女を調査しに来ている。
彼女は身長が高くスタイルも抜群。
常に最新のブランドを見に纏い、誰もが憧れるファッションリーダー。
彼女を見た者達にインタビューをすると
「本当に綺麗だ」
「あそこまで努力してる人を見たのは、初めてだ」
「尊敬しちゃう」とここまで聞けば、ただの素人モデルの話の様だが、本題はここから。
興味深いのは、他のインタビューの中にあった。
「僕は初めて見た時、驚きました。だって首から上が無かったですもん」
「はい。確かに首から上が無いなと思いましたけど、彼女は美人でしたよ」
首から上が無いのに美人だと?
スタイルが抜群に良いとかそう言う事なのか?
いずれにせよ、自分の目で確かめなくては納得出来ない。それが、真の新聞記者だ。
私は情報を頼りに、とある雑居ビルの路地裏に到着した。
人が1人がようやく入る暗く静かな路地裏。
渋滞に苛立つクラクション音と室外機の音だけが耳に入ってくる。
「ここだな」
真田は、いつのか分からない水たまりを踏みながら暗闇へと進む。
恐怖心と好奇心を混ぜ込みながら壁を伝う。
路地は残り数メートルで終わり。
見えてくるのは、女性でなく壁の間から差し込むネオンライト。
「なんだよ。やっぱりガセか」
と真田が肩を落として出口に差し掛かろうとした時、背後からカツンとピンヒールの音がした。
真田は反射的にぶら下げたカメラを持ち振り返る。
「まさか!」
そこには赤いワンピースを身に纏った女性が立っていた。
脚は終わりが無いかと思うくらい長く、豊満な胸と対照的にくびれたウエストが心をそそる。
男女問わず、誰もが振り返るであろうその完璧なボディーラインを目の前に真田は硬直。
しかし、目を奪われた理由は首から上にあった。
「く、首がない!」
真田の中にあった2つの感情は、この時をもって恐怖心が勝ってしまう。
金縛りに合う真田に悠々と距離を縮める首なしの女。
ピンヒールの音はドンドン大きくなり、2人の距離が手と手が触れ合える程までに縮まった時、止まった。
真田は僅かな勇気で好奇心を押して口を開く。
「あ、あなたが噂の美女ですか?」
「そうです。私が美女です」
「あ、喋れるんですね」
「喋れるんですねって、私を何だと思ってるんですか?」
「す、すみません。首から上が無いので、てっきりですね」
「首から上が無いですって! 本当に失礼な人ね。ほら、よく見なさい!」
真田は首なし女から虫眼鏡を受け取ると胸元をまじまじと観察した。
「ちょっと、変な所見ないでよね」
「す、すみません」
真田は声のする方を頼りに首上に目を向けるとそこには、米粒サイズの動く女性の顔があった。
「うわぁ!」
「ちょっと、うるさいわよ。耳がキーンとするじゃないのよ!」
「だって、こんなに小さな顔があるなんて」
「まあ、小さな顔だなんて」
頬を赤らめる女に真田は質問を続ける。
「どうして、そんなにお顔が小さくなったんですか?」
「だって、今は小顔ブームでしょ。だから、あらゆる美容器具やクリームを使って、この世界一小さな顔を手に入れたのよ」
「なるほど! 確かにあなたは、誰よりも顔が小さい。だから、誰よりも美しいと言う事なんですね」
「わかってるじゃない」
「ここまで小顔になるには、並大抵の努力では無かったはず。あなたは、美しい上に何て素敵なんですか」
「ありがとう。私は、これからこの小顔方法を皆に教える伝道者となるわ! これからは世界中の女性がもっと綺麗になるわよー!」
「うぉー! 興奮してきたー!」
この時、2人は一年後に第一次大顔ブームが来る事を知る由もなかった。
首なし美女 盛田雄介 @moritayu
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