第7話 乱入者
隼人が意識を失った後、すぐさま男は老人から距離をとった。それに対し老人は、隼人を庇うような立ち位置へと変えた。二人はお互いの出方を伺っているのか、動きはない。
「これは…大物が出てきたものだな…」
そう口を開いた男に油断はなく、隼人と立ち合っていた時とは比較にもならない気迫を感じさせる。
「保護者の役目という所じゃな。まあ少年が居てくれた事で間に合ったというのもあるが」
老人は緊迫した状況にも関わらず笑っている。ただ一つ目だけが笑っていなかった。
「老害がっ!…【影なる君】始動」
そう愚痴りながらも男の姿が消えていく。
「ホッホッホ。面白いスキルをお持ちで」
それに対し老人は何もしようとはしない、ただ機を伺っているのかそれとも…。
(フンッ!いくらコイツでも対応出来るはずがない…)
男は確信する。事実、男はこのスキルを使い幾多の暗殺依頼をこなしてきた。【影なる君】は男が生まれ持った固有スキルである。独自の陰の世界というものを創れ、その中を移動できるものだがこれが中々条件が合いさえすれば無敵にも近い能力になる。
しかしこのスキルの性質上、影の世界にいるモノを傷つけることが出来ず、傷つけようとすると世界から追い出されてしまう。そんな点を抜いても強力なスキルであった。
男は陰の世界を移動し、老人の背後に回った。
「意外にもあっけなかったな…」
少しの残念さと共に男は短刀を老人に刺す。
「まあ、これぐらいなら反応できますな」
男が刺したはずの短刀は老人にがっしりと掴まれていた。それも刃物を掴むなら血が出てもおかしくない様なものだが、老人の手は傷ついている様子もない。
「何を驚いておる?何処かに潜っていたのだろう?」
「な、なぜそれを…」
男の声が上ずる。今までこのスキルで仕事を完遂してきた男はスキルに対して絶対の、安全に殺すことが出来るという自負があった。それを一回見ただけで分かってしまったのだ、今まで積み重ねてきた自信が崩れていく音さえ男には聞こえているだろう。
「それでは、終わりにしようかの」
老人がいつの間にか持っていた刀に形容しがたい力が集まっていく。
自信の喪失は恐怖へと変わっていき、男の行動を阻害する。『そうやって何かに頼ってばかりものは、予想外の事態に対応できない』先程の少年に言った言葉が皮肉にも男に返ってくる。
「暇すら与えん【竜閃・十文字】!」
男は何も後悔できる暇もなく、切り捨てられた。
その立ち合いは一分にも満たず、ただそこには刀を鞘にしまう老人だけが勝者として立っているだけである。
老人は男の死体に合掌し、その場を後にした。
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