第2話 誘い

「フフッ。驚かせてしまいましたか?」

口元に手を当てこちらを見る少女。しかし、隼人は違和感を感じてしまう。

隼人の目の前にいる者はだれが見ても少女と言うだろう。しかし、見てみると分かる少しの違和感。少女に見えるがそうではない様な。


「あ、あの…。どちら様でしょうか?それにここは?」

隼人は驚きつつも、徐々に冷静さを取り戻し疑問を投げかける。夢には知らない他人は出てこない、そんなものは創作の世界の中でも聞いたことは無い。

そうして多少驚いている隼人を、少女は怖がらせない為か微笑む。

「立ってお話でもいいけど、座ってお話しましょう?」

そう言うと少女の隣にはいつの間にか椅子が現れる。そこをポンポンと優しく叩いてハヤトを誘う。

隼人はその様子を見て恐る恐るながら椅子に座ると、少女はこれもまた何処から出てきたか分からないカップを片手に握って話を始める。


「じゃあ、私が誰かから話しましょうか。私はエクシエル、少なくともそう呼ばれているし、呼んでる。実はね、私が貴方をここに連れてきたの」

「その…エクシエルさん?はどうして僕をここに?」

分からない事が隼人にとって多すぎる。此処は夢の中ではないという事、それだけは分かってきたものの、エクシエルが言う連れて来たという言葉には、疑問は減らず増すばかりだ。


「そうねぇ。何から話しますか…。端的に言えば、私に選ばれたのよ貴方は」

流石に端的がすぎる物言いに隼人の混乱は増すばかりだ。それにエクシエルは今の時間、隼人と会話をする時や静寂のが訪れる時すらも楽しんでいるように見える。

「なんで選ばれたのか分からないって顔をしてるね?それはね、私が貴方の物語を見たいの、その一心だからだよ」

物語、エクシエルはそう言った、しかし、隼人自身から見せられるものなんて存在していない。

もしここから出ても、待っているのは元のあの生活だけ。あれを楽しいと言われても、それは自分をからかっているか現実を知らないかだ。


「あるよ、これが。貴方の事は知ってる。幼少期から虚弱体質で、碌に外なんて行ったことが無い。起きれば病室、毎日同じような会話をして一日が終わる」

まるで隼人の心を読むかのように、肯定した言葉。その続きに今までずっと見て来たかのような身の上の事。

ならば尚更隼人にとって分からなかった。そんな自分を見る意味を。


「だけど、君には外への執着がある。それも自分の足で歩いてみたいっていう様な、平凡だけど素敵な執着が。…そこで提案なんだ。神原隼人君、異世界に行ってみないかい?」

荒唐無稽な事がエクシエルの口から飛び出る。彼女の言う通り、隼人には執着があった。誰にも理解されないだろう執着が。


(不思議だ…)

全くもって不思議に思ってしまう。そんな話、いい大人が聞いたら鼻で笑いそうな事を、どんな上位の存在だろうと出来ない事を。隼人は彼女なら出来そうだと信じてしまっている。


「実はね、私も立場ってものがあるから此処から出られないんだよ。だから私の代わりに外を見せてくれる人を探していたのさ。」

今更、故郷で歩けるようになったからって出来る事なんてたかが知れている。それならと、隼人は思ってしまう。

気づくと口を開き、

「お願いします。僕をその世界に…」

そんな子ことからの叫びを聞いたからか、エクシエルはニコリと笑顔を見せる。


「君ならそう言うと思ってたよ。異世界に行って不安かもしれないけど、大丈夫だ。君には私の目を授ける。それを通して僕に情報が伝わってくる。それに、異世界はスキルという不思議な力で成り立っている、そこで【目】は役に立つものだと確約しよう」


スキル、今の隼人にとって分からない事しかない。だけど、そんな未知が心を湧き上がらせているのも感じていた。そんな隼人に対して、エクシエルは釘をさすように、


「スキルは君の想像がつかない事がたくさん起こる。だからこそ、簡単に人を殺せる。そこまでいかなくともその者の命運を決められるぐらいには力を持っている。君の体を治す時に多少なりとも頑丈にしたけど、死ぬときは死んでしまう。そのことを忘れないでくれ」

エクシエルがそう言うやいなや、周囲が光り始め意識が薄れていくのを隼人は感じた。

「それでは、よき物語を神原隼人」

その言葉と共に意識を手放す。そして目覚めたら元のベットの上に居るのか、それともエクシエルが言う通り異世界にいるか隼人には分からない。


「そうさ、スキル【扇動】。こんなものでさえ、人の運命を変えられるぐらいにね…」

だからこそ最後にエクシエルが放った言葉は、隼人には聞き取ることが出来なかった。

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