動き出す運命

第32話 プロローグ

 ――――魔王の使者が私の家にやってきたその夜、私の家族は、バラバラとなった。


 屋敷から立ち上る、黒煙。

 街に飛び交う、怒号の声。

 その日、私が住むイエローアイズ領の領都ロアニールで、反乱が起こったのだ。


「許さない……絶対に許さないっ!

 私から母さんを……父さんを奪ったあの男を、絶対に許さないっ!!」


 私は今、ロアニールが一望できる山の上で、屋敷が焼け落ちるのを、叫びながら眺めていた。

 私の幸せを奪った、憎いあの男の声が、脳内にこだまする。




 ――――あっしの名はアイゼンと言いやす。




 私の幸せを奪ったあの男は、確か自分の名をそう言っていた。

 ふざけんな!

私は生涯を掛けて、あの男を探し出してやる。


「シルビア! 人間が来るっ!」


「ッ! ベルディア! こっちへ!

今は……今は、逃げましょう!」


 そうして、私は九尾の少女を連れて、住み慣れた故郷を、離れる事になった。





 ――――時は、反乱があった日の前日に遡る。

その日はイエローアイズ領に初雪が降った、とても寒い朝だった。

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