青葉さんのこと -2-

 岡山を縦に流れる旭川の川原に、私とお兄ちゃん、最近写真友だちになった真也君の三人で腰を下ろしていたときのことだ。


「カメラはね、心を動かされた瞬間を、自分自身の世界を写し出す鏡なんだ」


 揺れてきらきらと光る水面を前に、自らの愛機を見下ろしながらお兄ちゃんが言った。


 あの人はいつもにこにこしていて、私たちにいろんなことを教えてくれた。


「鏡って、あの鏡? 朝に顔を洗うときに見る、あの鏡?」


 私が首を傾げながら尋ねると、お兄ちゃんは笑いながら頷いた。


「そうだよ。自分の顔が映る鏡だよ」


「でも、このカメラには僕の顔は映らないよ?」


 真也君が自分のカメラをのぞき込みながら、小鳩のように首をあちらこちらに傾げている。その様子を見たお兄ちゃんが、また楽しそうに笑った。


「あははは、そうだね。いくらカメラを見ても、そこに自分は映らない。でもカメラで撮った写真は、写真を撮っていたときの自分が見ている世界を、鏡のように映している」


「んんん、でもやっぱり私が撮った写真には、鏡みたいに私の顔は映ってないよ?」


 私のカメラであるD80の画面には、先ほど撮影したばかりの川辺で遊ぶ子どもたちの写真が映っている。みんなカメラに目を向けて、楽しげにピースをしている。

 でもやっぱり真也君の言うように、その写真には私の姿はない。

 子どもながらにそのときは、カメラは鏡とは違う気がした。


「そうだね。たしかに写真に僕たち自身は映らない。それでも、写真には絶対に僕たちが写っているんだよ」


 子どもの私には、お兄ちゃんがなにを言っているのかよくわからなかった。

 お兄ちゃんの向こう側で、真也君も目を回している。


 お兄ちゃんは私たちをおもしろがるように笑って立ち上がると、混乱する私たちにカメラを向けて、シャッターを切った。


「どれほど心を動かされた瞬間も、永遠に取り戻せない瞬間なんだ。そんな大切な僕たちの瞬間を、カメラはいつでも写してくれる鏡だ。これから先も、僕も、それからほとりや真也の心を動かされた瞬間を、僕たち自身を、ずっと写してくれる。きっと二人にもいつか、わかるときがくるよ」

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