第31話 ビンタ屋

一発、10円でビンタしてくれる店を発見した。

 

 発見したと言っても、うちの子どもから教えてもらったのだが…。

 

 普通、親が子を教育し大事な物事や心得を教えるべきだが、私は娘から大事なを教わった。暴力的なことを教わるとはなんということ。私は親からビンタされたり、怒られたりしたことのない世代だった。

 

 

 と、ある日、娘は顔を腫らして学校から帰って来た。私は、いじめと直感した。

 

「お父さん。消費税上がっても10円でやってくれるらしいよ」笑いながら小学5年生の我が娘は微笑む。

 

「お前、その顔は何だ。もしかして、いじめでも遭ってるのか?」

 

「違うよ」

 

「じゃあ なんでほっぺた腫らしてる?」

 

「学校の近くの廃屋でビンタしてもらった」

 

「何?」

 

 私は、この目ですぐに確かめに行った。

 

「すみません。こちらで娘がお世話になったようで…」

 

「へい いらっしゃい。1回10円だよ」

 

 私は何度も何度も平手打ちをくらった。思う存分、ビンタしてもらった。吹っ切れた。

 

「このだったのか」

 

 私は今でも本当に、このビンタ屋には心底感謝している。この琴を知らなかったら、こんなに健全に家族を養い、の娘を育てることができなかったと思う。

 

 そのポツンとある廃屋は、どんどん噂が広まり客が増えて予約待ち状態になった。あと乗り客に乗っ取られた感じ。

 

「はい、目瞑って。いくよー。」

 

「バチーーん」

 

「今日のは音は奥が深いな。もういっちょ。」

 

 最近はもういい大人になった愛娘にやってもらっている。


 ビンタもビンテージバージョンになって来ている。私は頬を撫でながら、純粋なあの頃のままの娘の優しさを感じ取る。


「ありがとう 琴」


「お父さん私の名は琴音よ」

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