第10話 

 取引を成功するために、仲良くなることは普通だろう。


普通の人は、体の関係になるとか、そこまで深入りはしない。


でも、私は断れなかった。その勇気が出なかった。


最初の印象で、紳士というイメージがあったから、まさかそんなことするはずないという思いもあった。


娘がいないという原田に対して情が芽生えてしまったことも関係している。


娘がいなくて可愛そう。だから、私が少しでも娘の代わりをして原田社長を励まそうって。



そんな情も、あるきっかけがあるとなくなり、もう近づきたくなくなる。


きっかけによって、原田は一生会いたくない存在となった。


あーあ。今まで、原田との取引がんばってきたのに、こんなことじゃ、全て水の泡だ。


でも自分が間違った事をしていたんだから、そうなるのもやむを得ないか。


みんなに「おまえが悪い」と言われるのも当然な事だと思う。


佐々木柚という人間は、生きていても意味がないのだ。


人間の皮を被った化け物?


生きるのって楽しいことばかりじゃないよね。


なんか、原田との迷惑メールとか電話とかの対処を考えるのも嫌になってきた。


もーいや。



「生きるのって辛いな」


そう思ったのは、今まで何回何十回何百回何千回あるだろう。


そいえば、あの時も思っていたな。


あれは、たしか中学1年生のときだった。


辛くて辛くて学校に行きたくなかった。


けれど、誰にも相談できなくて……一人で悩んでいたな。


今はね、一人だけには相談できている。


かわいい後輩で、いつもにこにこしている。


私もあんなに自然に笑えたらなって思う。


頼りにもなるし、いい子。


名前は、田中心。


私の大切な後輩です。


でも、こんな大切な人でもあの時と同じように離れていくんだろうな。


中学の時のように。


だから、私は人を完全には信用できない。


裏切られるのが怖いから。

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