第5話「悪ガキトリオの日々よ、再び?」
すぐにアセットとロレッタは行動を開始した。
そして、悩むことなく共通の友人に秘密を打ち明ける。
ビルラは、できるだけミルフィのことを人に知られたくなさそうだった。だが、たった二人ではできることに限りがある。
ここはやはり、頼れる
「そういう訳なの! カイル、力を貸して。この子、なんだかとても心配なのよ」
村で唯一の
その場に呼び出されたカイルも、ミルフィを見て表情を引き締める。
「……訳あり、なんだな?」
「そうよ、実は……実はね、カイルッ!」
「だから、訳ありなんだろうって。ロレッタ、詳しい話はあとでいい。まず、この子が落ち着ける場所を作ろう。寝床と、あとは飯だな」
「え、ええ。……カイル、驚かないのね」
「この
昔からカイルは、
そのアセットだが、朝からかなりバタバタしたせいか、少し疲れを感じていた。
それでも、興奮気味のロレッタと違って頭の中が酷くクリアだ。
アセットは王都での勉強で、この大地が巨大な球形だと知っている。そして、この大地自体も夜空の星と同じなのだ。ビルラの言う宇宙という言葉は初耳だが、星々の大海に浮かぶ島のようなものなのである。そして、ミルフィは違う星から来たということなのだ。
「アセット? ちょっと、アセット! なに、疲れたの? 大丈夫かしら」
「ん? あ、ああ。ちょっと考え事をね」
「本当に体力がないのね。都会生活で
「はは、耳が痛い」
さしあたっては、ミルフィをどこで休ませるかだ。
ビルラの言っていた巨人、メガリスについては心配ないだろう。貯水池へ出入りする人は
フム、とアセットも知恵を
だが、ここでは故郷の地の利を
「よし、俺の家に運ぼう」
「えっ? だ、だって、おじさまが……村長さんがいるわ」
「この時間はいつも、村の見回りに出てるよ。外は俺たち
「でも、すぐに戻ってくるわ」
田畑での仕事は一段落しているが、
平和なアルケー村も、明日を生きるための今日はとても
のどかでのんびりできる
カイルは用心深く振り返り、誰も来ないことを確認して声を
「うちに、昔おふくろが使ってた
「あっ、そっか。カイルのお母さん……おばさまって」
「ああ。もう何年も前に
肩を
なんだかアセットには、その表情が酷く大人びて見えた。
そして、長身のカイルがいつにも増して大きく感じられる。
「まずは離れに連れてって、寝かせよう。飯は俺がなんとかする」
「ありがとう、カイル。わたし、妖精さんと約束したの……この子、助けてあげるって。それと」
「どうやら秘密の話みたいじゃないか。いいよ、話せる時に教えてくれ。なかなか
そう言ってカイルは、ポンとアセットの胸を
アセットも「だろう?」と、カイルの胸を叩き返した。
もう何年も会ってなかったのに、すぐに村の悪ガキ三人組に戻れた。そのことが、アセットには少し嬉しい。
「よし、じゃあ急いで行こう。でも……その子の格好、目立つなあ」
「まあ、そこは僕が魔法で」
「おっ、それいいな。俺にも見せてくれよ、魔法をさ」
「あんまり便利に使ってもとは思うんだけどね」
アセットは
習得する魔法を使う時は、何度も自分に問いかけろと。
本当に魔法が必要か?
魔法を
――その魔法は、誰かを不幸にはしないか?
魔法の行使は常に、どんな
「僕だって、少しはいいとこが見せたいしね」
「ん? どした、アセット」
「いや?
いつものようにアセットは、手と手を組み合わせる。そして、ゆっくり開いた間に光を広げた。
カイルは、先程のロレッタと全く同じリアクションで固まった。
そして、
「ね、凄いでしょう? アセットの魔法よ。魔法使いよ!」
「あ、ああ……へえ、これが魔法か。で、なんでロレッタがそんなに
「いっ、いいでしょ、別にっ! 格好いいじゃない。でも、火炎や落雷は出せないのよ。そういう魔法じゃないの、アセットのは」
「お前なあ……いい年してまだ、その手の物語ばっかり読んでるのか?」
「せっかく文字が読めるんですもの、いいでしょ。カイルの家に沢山あるんだし」
二人は今、どれくらいの仲なんだろうか。
ちょっと気になったが、アセットは魔法の構築と制御に集中した。そして、ぐったりと木箱にもたれて座るミルフィに術を実行する。
あっという間に、ミルフィの姿が透明になった。
光の屈折率を操作する魔法だ。
「よし、俺が背負う。行くぞ、ロレッタ。アセットも」
すぐに三人は行動を開始した。
まだ十代の子供とはいえ、カイルとロレッタは村の一員としての仕事もある。それを放っておいては怪しまれるし、なにより集落という共存体の中では
だが、建物の影から飛び出したその瞬間、不足の事態が発生した。
「おや、カイル。自警団はどうだ? 昨日の揺れと森の火事、大丈夫だったかい?」
突然、ばったりとカイルの父親に出くわしてしまった。
そう、村長だ。
村の見回りをしているという話だが、なんとも間の悪い話だった。
すかさずアセットは、仲間の前に歩み出て礼儀正しくお辞儀する。
「
「おや、アセット! アセットじゃないか。いつ戻ってきたんだい?」
「昨夜遅くです。
「ああ、そうかしこまるんじゃないよ。よく戻ってきたね、何日くらいいられるんだい? お母さんも喜ぶだろう」
「ええ。なるべく
「それがいい。お前さんはこのアルケー村の誇りだよ。まさか、この村から王都で魔法を学ぶ子が出るとは思わなかったからね。それで? カイル、そしてロレッタ。二人はなにを」
「すみません、つい懐かしくて……僕が誘ってしまったんです。でも、話は夜にゆっくりということになりました。二人にも仕事がありますし」
昔からアセットは、口が上手いと言われる。
コツは、
だが、村長は自分の息子をチラリと見て首を
「ん? なんだ、カイル。お前さん……腰でも痛めたのかい?」
「へっ? い、いや、そんなことないさ。オヤジ、なんでもないよ!」
カイルは今、見えなくなったミルフィを背負っている。
ミルフィはアセットみたいな貧弱な少年でも、いやに軽く感じた。それでも、背負えば
ミルフィ自体が見えない今、それはどうにも不自然な格好だった。
村長が目を細めてくるので、すかさずアセットがフォローしようとした。
だが、そんな時に突然、声が走った。
「村長ぉ~! ああ、いたいた! 村長っ! ねねっ、毎日のお
不意に村長が振り向いた。
その視線の先に、若い女性が立っている。
身なりはよく、一目でよそ者だとわかった。
赤い
「ああ、いや、マスティさん。これもワシの大事な仕事でしてな」
「偉いっ! 村長、偉いです! でもぉ、今日くらいは朝から一杯、ね?
「いやはや、困りましたなあ。こんな日も高いうち、それも朝っぱらから」
「いいえー、王都じゃ
不思議な
そして、それは村長も同じらしく、参った参ったと言いつつ彼女の方へと歩き出す。一度だけ足を止めた村長は、ロレッタやアセットにあとで家に遊びに来るよう言ってくれた。そして、
すかさず三人は走り出した。
カイルが教えてくれたが、あれが先日やってきた旅人で、彼の家の客人なのだった。
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