2、出会い
その日は、陽気な日差しが眩しく、王城の影もくっきりと際立つ初夏をむかえる頃。
アデール国ベルゼ王の元に、太古からの守りの森を渡り、遠方より盟友の訪問がある。
その男は、黒髪の偉丈夫、エール国の国王フォルス。
馬を降りるなり、ひとしきり父王とガッチリ抱き合って挨拶を交わす。
金髪を短く刈り上げた父が、城の内側の柱の影に身を潜めていた二つの小さな影を差し招いた。
日に照り映える鮮やかな金髪を受け継いだ双子である。
「子供たち、こちらへ。エール国のわたしの良き友人を紹介しよう」
呼ばれてロゼリアは待っていたとばかりに小鹿のように跳ねだした。
アンジュはおずおずとロゼリアの影のようについて行く。
黒髪のエールの王には、腰に剣を帯びた物々しい護衛の他にもロゼリアが気になる者がいる。
男の子だった。
彼はロゼリアやアンジュとそう変わらない年齢のようなのに、一人で大きな馬に乗っていた。
黒髪の王とその男の子は良く似ていてくっきり際立った顔立ちをしている。
ふたりが親子なのは間違いがなさそうだった。
男の子は興味深々に目を輝かせ自分の目の前に立つ自分より小さなロゼリアと、父王の足元に隠れたアンジュの、同じ造作の顔を、目を丸くして何度も往復する。
「なんだ、お前たちそっくりだ!一体どうしたら同じ顔になれるんだ」
驚嘆する。
「失礼な言い方をしてはいけないよ、ジル。はじめまして。アンジュ王子とロゼリア姫だったかな?」
フォルス王は息子をたしなめた。
アンジュと名前を呼ばれて、父のズボンを掴んでいたアンジュはビクッと頬をズボンに擦り付けた。
だが、アンジュの戸惑いを意に関せず、先に手を差し出したのはその目をアメジストの宝石のようにきらめかせたロゼリア。
「はじめまして、僕はアンジュ!」
ロゼリアは、アンジュと名乗る。
そういう約束なのである。
「僕はジルコン!よろしく!」
しっかりと大人びた笑顔を浮かべジルコンはその手を握った。
ジルコンはロゼリアに続いて、びくびくしているアンジュに少しかがんで手を差し出した。
「はじめまして。かわいいロゼリア姫!」
ロゼリアの時にはない、優しい笑みもプレゼントである。
笑みにつられてアンジュはようやく緊張で汗だくの片手を差し出し、おずおずとエール国ジルコン王子の手を握ったのだった。
父王たちは顔を見合わせ、ジルコン王子の女の子の扱いに苦笑いする。
エール国フォルス王の女たらしは、はっきりと息子に引き継がれているようであった。
ジルコン王子が驚いたように、アデール国の双子のロゼリア姫とアンジュ王子の形は瓜二つである。
ただ、決定的に違うところがある。
それは瞳の虹彩の色。
妹のロゼリアは、翳るアメジストのような
兄のアンジュは、アクアマリンのようなの
どちらも青灰色の瞳なのだが、光に透かし二人を見比べるとその違いは鮮やかに浮き立つのだ。
アデール国のロゼリアとアンジュは7つ。
エール国のジルコンは9つ。
それが、彼らの最初の出会いであった。
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