五章

一節 「未来」

「私が誰か話をするわ」

 家に帰ってくると、彼女は自分が誰で何の目的で来たか話すと言い出した。

 きっと壊すという目的が達成したからだろう。

 さっき言ったことなんてなかったのように普通に話し始めた。

 どうしてそんなに態度を変えられるのだろう。

 僕は温かいコーヒーを二つ机に置いた。

 外の寒さがまだ痛い。

 部屋の中はぴりぴりした雰囲気が流れている。

「私は二十年後の未来から来た人間よ」

「未来から?」

 小説などでよくある展開だけど、現実でその言葉を聞くと、どう答えていいかわからなかった。

 それはあまりにも現実的ではなくて、考えの範疇を超えていることだから。

 考えの範疇を超えていることについて、僕だけでなく、人は信じることはなかなか難しいと思う。

 だからどう反応していいかわからなかった。

 僕はオウム返しすることしかできなかった。

「さすがのあなたでもなかなか信じられないわね。じゃあ未来を当ててあげるわ。

今から一週間後に九州で大きな地震があるわ。一週間後ニュースで確認してみて」

「わかった。まあとりあえずは信じる前提で話を聞くよ」

 彼女は謎だらけで、未来から来たと言われてもなんだか納得いく部分もあった。

 そして、僕には話を最後まで聞きたい気持ちが強くあった。

「ありがとう。でも私とあなたとどんな関係かはまだわからないよね?」

「確かに未来からきたってことしかわかってないよ」

 二十年後から来た僕よりも少し若い女性。そんな人と僕の関係は何だろうか。

 あまりいいイメージが浮かばない。

 やはり僕が未来で何か悪いことをして、その復讐か何かだろうか。

「あなたは二十年後にはすでに結婚している。私はあなたの娘よ」

 僕は開いた口を閉じられなかった。

 驚きというより、そんな未来があるなんて想像すらできなかった。

 だからなかなか言葉にも表情にも驚きが出てこなかった。

 こんな不具合だらけの僕が結婚できるなんて 思えなかった。

 ずっと一人だと思っていた。

「でも、名前を聞いたとき朝比奈美月って言ってた」

「そうね、それは謝らなきゃダメね。苗字は真っ赤な嘘よ。さすがに夢咲美月のままだったらまずいでしょ? 「夢咲」なんて珍しい苗字だし」

「まんまと騙されたよ」

「何で信じるのがあなたの得意分野だったもんね」

「得意分野だった?」

 なぜ過去形なのか気になった。

 未来の僕はどうなんだろうか。

「そう、あなたはある時を境に変わってしまった」

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