雪のようなあなた

桃口 優/ハッピーエンドを超える作家

一章

一節 「あなたって、雪みたいだね」

「あなたって、雪みたいだね」


 僕はこの言葉を聞いた瞬間から、彼女に心を撃ち抜かれたのかもしれない。

 目に見えるものすべてが変わっていった。

 それは、無数にある星の中に新しい星を見つけた喜びであるかのようでいて、静かな町に隕石が落ちて来た衝撃のようでもあった。

 雪が町全体を白く染めるほど降りしきる中、僕はひとりオレンジのヘッドホンで音楽を聴きながら歩いていた。

 僕は大学を卒業してからすぐに、一人暮らしを始めた。

 だから、時間にはある程度融通が利く。

 一人生活することに憧れていた。

 自分がどれぐらい生活できるか試してみたかった。

 親と仲が悪いわけではない。むしろ同じ二十五歳の他の人と比べると仲がいい方だと思う。

 お父さんもお母さんも頻繁に電話をかけてくる。

 もちろん僕からかけることもある。

 僕はそれを面倒なこととは思わなかった。

 親からすれば心配なんだろうけど、僕はその気持ちを素直に受けとってありがたいと思っている。

 どうして親のことを考えると暖かい気持ちになるのだろう。

 クリスマスのイルミネーションがあちこちで光り輝いている。

 空を見上げ、息を吐いた。

 白くなる息を目で追いながら、星が見えたらなと僕は密かに思った。

 でも、この都会では星はほとんど見えない。

 綺麗に飾り付けられた電飾は、どこかもの悲しさを覚えた。

 ぴゅーっと風が吹いた。

 僕は黒のコートを着て、マフラーに手袋もしている。

 それでも細い僕の体は、芯まで凍えるように寒い。

 僕は寒さに対する抵抗力が低いのだ。

 冬になると僕はよく震えている。

 不思議なことに、いくら防寒しても寒さは僕にとっては痛みであり消えなかった。

 それはやはり抵抗力の問題だと思う。

 何か目的があって、外に出てきたわけではない。

 ただ、なんとなく一人で町中を歩きたいと思ったからだ。

 普段はこの辺りは人で溢れている。

 僕は人混みが苦手だ。

 たくさんの人の顔や表情が1度に目に入ってきて、あらゆる声が選択されることなく僕の耳に届く。

 それは小さなパニックの連続で、ただそこにいるだけで疲れてしまう。

 それでも全く外出しないなんてことはできないので、いつも我慢している。

 今日の町は静かで、のんびりすることができた。

 時間がゆっくりと流れているような感覚に陥る。

 こんな時間がずっと続けばいいのにと思っていた。

 その時だった。

 目の前に一人の女性が立っていることに気づいた。

 その女性はゆっくり僕の方に歩いてきた。赤い服を着ていて、まるでプレゼントを配っているサンタのようだ。

 そして、「あなたって、雪みたいだね」と笑ったのだった。

 スマホが鳴っていた。ちらっと見るとお母さんからの電話だった。

 でも僕はなぜかはわからないけど、その電話に出ることができなかった。


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