目覚めたら悪役公爵?うそ〜!

青白狭間

第1話

「やっと回避できたー!」

 私は大きな声を上げた。ゲーム機の画面には。

『幸せになれよ。』

 この台詞は私の大好きな乙女ゲームのキャラクター。

 このキャラクター、主人公の恋路を邪魔する悪役令嬢。ではなく悪役公爵なのだ。


 この公爵は父親が宰相であることもあり、王子様と幼なじみなのだ。名前はトレス・バーリウス。黒髪に紺色の瞳。背は高く、王子様の次にイケメン。黙っていればモテるのだが、性格は冷たく、ドSであるため、皆はいつも遠巻きに見るのが精一杯だ。そして、王子様に対しても冷たい。


ヒロインにこれでもかというくらいちょっかいを出してくる。イベントごとに現れてはヒロインと王子様の間を邪魔してきた。この台詞を言ったはラストイベント直前なのだ。

「悪役とは言え、王子様の親友なのよね。」

 だから無下にすれば王子様の好感度も下がるという。

「意地悪令嬢たちをかわしつつ、この悪役公爵も相手にしなければいけないなんて、難易度高すぎ。」

 画面の悪役公爵に手を振り、電源を切ると私は明日の仕事のために寝ることにした。


 鳥の鳴き声が聞こえる。鳩かな?いや、烏?でもないな。私はゆっくりと目を開けた。

「う、ん。ベットはこんなに広かったかしら。」

 ああ、夢かともう一度、目を瞑る。

「トレス様、トレス様。起床のお時間です。」

 トレス様って言った?

 私は思いっきり目を開け、飛び起きると自分の姿を見る。

 こんなに足が長かったかしら?こんなに肉付きがよかったかな?

「胸が平らに近い?」

 豊胸とまで言われた私の胸が貧乳にっ。

「トレスって言ったよね。」

 恐る恐る股を見れば。

「よ、よかった。女だ。」

 私は大きく安堵の息を吐いた。

「トレス様、入りますね。」

 侍女らしい女性が入ってきた。

「あの、自分は女ですか?」

 私は恐る恐る聞いてみる。侍女は慌てはじめて自分も慌てた。

「トレス様!お熱でもあるのですか!トレス様は立派な男性です!」

 えぇっ。実は女性で男装してたってことじゃないのか。

 慌てる侍女をなだめて、私は着替えることにした。


 さりげなく両親や他の家の者たちに聞いてみても私は完全に男らしい。

「たぶん、流行りの転生物だと思うんだけど。」

 まさか、女の体で転生したのに男性として生きていかねばならないとは。

「ゲームも癖が強かったけど、転生しても癖が強いとは。」

 もう、泣きそう。転生物で現実に戻る方法まで書いた話は読んだことない。私は途方に暮れた。

「ああ、学校へ行きたくない。」

 私は重い腰を上げた。


 舞台は学園。ここでヒロインと王子様、そして私は出会った。王子様と私は先に学校へ通っており、ヒロインは途中入学してくる。ヒロインは倒れているところを子供のいない伯爵家に助けられ養女となる。そしてこの学園へ。そこで王子様、メンフィス・フランクハルトと出会い、恋に落ちる。メンフィスはこの国の第一王子。次の国王だ。ベタと言われてもおかしくない、綺麗な金髪でブルーの瞳。この国一番のイケメンだ。


「今日、新しく入学する者がいるそうだ。」

「そ、そうか。」

 興味なさげに言うメンフィスに私は曖昧に答えた。本当なら推しの王子様が隣にいる、この状況を手を叩いて喜びたい。でも。

「喜べない。」

 どうばれずに学園生活を終えるのかで一杯だ。

「何か言ったか?」

 メンフィスの言葉に私は首を振った。


「今日からよろしくお願いします。」

 華奢で小動物のようなヒロインがペコリと頭を下げた。このヒロインはアリスというらしい。

「かわいいな。」

 かわいいならなんでも好きな私はつい呟いた。

「トレス。気になるのか。」

 隣のメンフィスに小声で言われ、ハッとした私はいやいやと手を振った。

 これはさっさと両想いになってもらってメンフィスの目をアリスに向かせよう。そして、自分は少しずつ距離をとり、いずれは辺境でほそぼそと生きていけば、両親に迷惑をかけず、結婚もせずに過ごせる。私の人生計画は決まった。


「少し、休憩。」

 やっと昼休みになり、メンフィスから離れて一人、庭の木の下で寝転んだ。

「勉強は忘れていなくてよかった。」

 ついていけないかと心配したが、メンフィスに聞かれて答えられるぐらいの知識はあった。

「男性の言葉って難しい。」

 昼からの授業までの間だけ、少し寝ようと私は目をつむった。


 誰かが髪を撫でる。

「だ、れ?」

「ああ、起こしたか。」

 霞んだ視界の中、金色でわかる。

「いや、気持ちがいい。」

 もっとと撫でる手に自分の手を重ね、ほほ笑むともう一度目を閉じた。


「トレス…。」

 メンフィスが驚いた顔で眠るトレスを見ていたことを私は知らない。


「やばい。寝過ぎたかっ。」

 ガバッと私は慌てて起き上がった。

「あれ?メンフィス?」

 隣にメンフィスが寝ている。まだ時間はそんなに経っていなかったかな。

「メンフィス、起きろ。」

 メンフィスの肩をゆらせば、メンフィスが薄く目を開けた。

「もう、授業は間に合わん。諦めろ。」

 そう言うとメンフィスはまだ寝ろとクリスを抱き寄せ、また目をつむる。

「ちょ、やめっ。起きろっ。」

 おいしい場面だが、外から見れば怪しく思われる。第一王子なのに!この世界はボーイズ ラブ要素はない!

 私は全力でメンフィスを起こした。

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