生きた心地がしねぇ

(前回のあらすじ)

 青龍が王宮へ向けて進路を変更した時、王宮地下シェルターでも異変が。

 

◇◇


 キィィィィンッと金属が削られるような音が幾重にも重なり反響する。

 この異変はすぐに『対策室』へ届けられた。

 陛下――とうかがうオキナへサユキ陛下がくなずく。


「……ドラゴンズ・アイだ」


◇◇


 王族の金庫室へ到着すると、耳を覆いたくなるようなキィィィィンと異音が響いていた。

「呼んでいる……?」

 魔力の流れを透視していた魔導官が呟く。


「どう言うことですか?」

 オキナが解説を求めるとその魔導官が首を振り、

「確信は持てませんが、ドラゴンズ・アイが青龍を呼んでいるとしか……」と口を濁した。

 

 しばらく思案していたサユキ陛下は何かが腹落ちしたらしくポンッと手を叩き、

「オキナよ。ドラゴンズ・アイを彼の下へ戻そう」

 とうなずく。


 なぜに? ――と驚く一同に

「お返しするべき時が来たと言うことだろう」

 と一人得心した面持ちでサユキ陛下がうんうんと頷いている。

 

 そもそもドラゴンズ・アイは国祖が青龍を討伐し、その功績で国王なった――と伝承するものだ。それを返すとなると、王権を返すと捉えられてしまうのではないだろうか?

 

 それを察したサユキ陛下は、

「この神器を持って国難を退けたならば、それこそ王の証明になるだろう?」

 と涼しい顔をしている。

 

 王権ならば――と魔道士たちを振り返ると、

「ここにいる皆が支えているからこそ王となり得ている。感謝に堪えぬよ。民へは王権の象徴たる神器を持って国難を退けた。ゆえに王である――と喧伝すれば良い」

 柔和な笑顔に『わかっておろうな?』と無言の圧力が加わった。


「御心のままに」

 短く告げたオキナは魔導官へ、開錠の準備を促す。

 サユキ陛下が掲げる左手に王族の紋章が浮かび上がると、ガチャリとその重厚な扉が開いた。


「さぁ、コレをお返ししてさっさとご退場願おう」と笑う。


「陛下……コレを返したところで、青龍が引き上げる保証はございません。王族の宝物をにえにしてよろしいので?」


「ーーかもねぇ、これも演出だよ。王族たるもの命だろうが国宝だろうが、かけてやらねば民はかしずかぬよ」

 からりとサユキ陛下は笑い

「民の未来を預かる国の王は、民のため誰よりも冷徹に実行し、誰よりも鞭打たれる覚悟があらねばならぬ――皆に身を持って鼓舞する」


 うむ――とうなずいて見せる。

 魔導官が「魔眼で中継致します」とその意図を理解して準備に走り出した。


「陛下――お覚悟のほど承りました。ですがくれぐれも」


 無理はされませんようと言いかけたオキナを、サユキ陛下は手で制し

「私こそ無茶をさせている親玉だからね。少しは無茶をするよ」

 と笑う。

 ドラゴンズ・アイを携えると「外へ」と短く告げて外へと続く階段へ案内を促した。


◇◇コウヤ目線です◇◇


 目の前が真っ白になるくらいの豪雨の中で。

 バチバチと雨に叩かれ痛いし、ビュウビュウ轟々と吹き付ける風に頭から被ってるポンチョが吹き飛ばされそうになっている。


「ふぉぉぉぉ――ッ」と奇声を上げながら、迫り来る青龍を睨んでいましたよ。ええ、ついさっきまで。


 ガチャリと開く鉄製の扉の音にそちらへ目を向ければ、シールドを展開する魔導官に傅かれながら歩み寄る偉丈夫がいるじゃないですか?


 地下シェルターからの伝令か? それともオキナが魔眼の映像の故障か何かで出てきたのか?


 訝しげにシールドで覆われた半球体に目を凝らします。ええ、普通凝らすじゃないですか?


「サユキ陛下――」

 頷く姿に見覚えがあったのと、漏れ聞こえた尊称におったまげた。(昭和風)


「な、何やってんすか?」


 あんぐりと口を開けて驚いてる俺に、悪戯っぽい笑顔を浮かべるとサユキ陛下が手にしたナニカを突き上げて、左右に振り始めた。

 そのナニカから赤い光が発せられ、それが閃光となって青龍へ届くと青龍は巨大な頭をかしげ、こちらへ悠々と体をたわませて近づいてくる。


かしこしや打ちなびあめかぎとうとき――願い奉ります―― 」

 さっぱり何を言っているかわからなかったんだが、あとから聞いたところによると王族に伝わる鎮撫の祝詞のりとなんだそうだ。


 ドラゴンズ・アイが光に包まれ宙を舞う。

 やがてそれが青龍の空洞となっていた眼底に収まると、青龍の目が出来上がった。


「ヴォォォォォォ――ッ!」


 地面がビリビリと揺れる咆哮。

 青龍がクルリと上空を旋回し始める。


「陛下っ、ここまでです。中へ避難を」陛下をかばって前へ出る魔導官に、ジリジリと地下シェルターの扉へ後退していく御一行。


 俺はブレスを吐く様子なら斬撃を飛ばす体勢で青龍を注視している。

 やがて青龍は旋回を止めると、北の空へ向かって巨大な開口部を開いた。


 ボウッ、と大気が揺れる。

 次々と雨雲がその中へ吸い込まれていき、目も眩む閃光を放った。


「ぬおっ」


 目がやられる、咄嗟とっさに右腕を顔に回して背を向けると、左手が輝いてシールドを展開した。

 ビリビリと大気が震えて、轟々と地鳴りが響き渡る。バリバリバリ――ッと雷鳴が天空を走り、ガラガラとどこかの城壁が崩れ落ちる音がした。


 い、生きた心地がしねぇ――。


 しっかりと閉じたまぶたに、陽光の気配を感じて薄く目を開いてみると、豪雨は止みあたりは日の光が包んでいた。


「な、なんだ? どうなってやがる――」

 恐る恐る身を起こしてあたりを見渡してみる。

 青龍の姿は見えず、あれほど空を覆い尽くしていた雲がない。


 ヤツがブレスをぶっ放した北の方角に目を転じると、信じられない光景が広がっていた。

 上空に真っ黒い穴が空いている。

 そこへ雨雲が吸い込まれていき、代わりに何かが吹き出している。


「空間に穴をあけやがった……」

 ポカンと口を開けたまま入り混じる陽炎のような対流を眺めている。

 突然日が翳り、振り向ると陽光を覆い隠すほどに巨大化した青龍ヤツがいた。

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