鴨ネギが背負ってきたもの?

(前回のあらすじ)

 フィデル・アルハンが自らの権力固めに動き、魔人国との共闘を明らかにする。カノン・ボリバルたちはヒューゼン共和国が第二次侵攻に乗り出す指令を受ける。


◇◇カノン・ボリバル目線です◇◇


「ゴシマカス王国への第二次侵攻の指令が下された」

 信じられないと言った面持ちのコティッシュ・ガーナンから指令書を受け取る。

 第三空挺団の隊長でありヒューゼン共和国空軍の中隊長に昇進した彼は、相変わらず芝居じみた仕草でハッ、と嘲けて指令書をパチンッと指で弾いた。


「残りの戦力でどうしろって言うんだ? ワイバーンだって残り五十機を切っているんだぞ?」

 

 そう――。

 前回の侵攻で必勝を期したヒューゼン共和国は、その虎の子であるワイバーン空機を全面投入し、そのほぼ半数以上を失っている。


「敵の戦力もだいぶ削いだはずだ。でなければ散っていったヤツらが浮かばれん」

 俺(カノン・ボリバル)は指令書に目を通しながら、苛立つ上官をなだめてやる。

 

 グロゥッ、と唸り声が聞こえた。

 のったりと横になって応接ソファを占領し、なにが面白いのかニヤニヤ笑っているトラの獣人が、同意――とばかりに唸り声を上げる。


「ライガ。おまえもぼちぼち陸軍に顔を出したらどうなんだ?」

 カグラでの邂逅を果たしたあと、彼の手下も含めてヒューゼンに連れ帰ると「ぜひ迎え入れたい」と、陸軍省が手を上げた。


 その期待に反くことなく第一次侵攻では武功を上げ、不運にも初見のワザを喰らい負傷したものの、バンパ攻略の本陣とブラックドラゴンを屠った宿敵コウヤも、後一歩で討ち取るところまで追いつめ敗走させたのだが――。

 

 それからがいけない。

 つくづく平時の業務はつまらぬようで、中隊長の階級を与えられたに関わらず、いっこうに陸軍省に顔も出さず第二空挺団にブラリとやってきては居着いてしまっている。

 

「いつまでも油を売ってないで、向こうで目を通したらどうなんだ?」

 呆れる顔をして、指令書を見せてやる。


「硬ぇこというなよ。陸軍の将校なんざ威張り散らして虫が好かねぇんだ。

 二、三発殴ってやろうとしたら止めたのはおまえじゃねぇかよカノン」

 それは止めるだろうよ――と、言いかけた言葉を飲み込みコティッシュに向き直る。


「なぁ、ライガもうちで引き受けてやったらどうなんだ?」

 さすがに陸軍省でも頭を抱えているようだ。とうの本人はどこ吹く風なのだが。


「馬鹿を言うなよカノン。(同じ階級の)俺の権限でどうなるもんじゃねぇよ」と、肩をすくめる。


「まぁまぁ、変わりもんの一人や二人うち(第二空挺団)には珍しくないじゃないですか?」

 ニタニタ笑いながら“大太刀の”ソ・ランデが口を挟んでくる。


「隊長ご自身が変わりもんでござるからなぁ」

 “盗賊の”エモンがカカカッ、と妙な笑い声を上げた。


 “爆裂の”シド・レイは全くだ――と言わんばかりに嘲笑を浮かべる。


「馬鹿言ってるんじゃないよ。俺は至極まともだ」コティッシュ・ガーナンは撫然と言い放つが、誰一人まともに取り合おうとしない。

 実に気の置けない連中だ。


 それぞれが二つ名をもつ通り、この部隊は特殊な技能をもつメンバーで構成され、隠密行動に投入されることが多かった。

 にもかかわらず、第二次侵攻の尖兵として駆り出されるのはヒューゼン軍の台所事情が厳しくなってきている現れでもある。

 冒頭のコティッシュのボヤキもそれを嘆いている節があった。


「ともかく……だ。俺はこれから司令部に行って詳細を詰めることになっている。

 ライガ中隊長殿の件も進言してくるが、期待しないでくれよ」

 特にライガ中隊長どのは危険物……と、ウンザリするようにソファに横たわる巨大な厄介者に目を向けると、口が裂けるほど大きく口を開けてアクビをしている。

 ハァ……と嘆息して出ていった。


 ◇◇


「なんでこうなった?」


 コティッシュが大隊長室の豪奢な窓枠にもたれて、夕日を見つめながら黄昏れている。

 第二空挺団のメンバーは、豪華な大隊長室を物珍しそうに見回しながらコティッシュからの「重大な発表」の呼出しに集合していた。


「勿体ぶるな。用があるなら早く言え」

 つまらぬ愚痴を聞くためにここに集まっているワケではない。


「そうだな――結論から言おう。

 それぞれ昇進した。俺は空挺団を取りまとめる大隊長になり、ライガ殿……君は陸軍省から新しく創設された空挺団の陸戦部に配置換えになった。階級は隊長だか、中隊長扱いってことだ」


 あいかわらずソファを占領しグロゥッ、と唸り声だけで同意したと返す。


「次にカノン、君は空挺団参謀に昇進だ」


 参謀? ああ、体の良い隠居か?

 ヒューゼン軍の階級はわからんが、おおかたご意見番ってところだ。他の第二空挺団のメンバーも一階級ずつ昇進していた。


「コティッシュ、侵攻の会議がなぜ再編と人事になる? わかるよう話してくれないか?」

 

「あのな……」

 

 ライガの移籍を持ち出したところ、まるで準備してあったかのように編成と人事の発表があった。

 

「おそらくだが……」

 

 コティッシュが語る背景はこうだ。

 ライガは“フィデル議長のお気に入り”と噂のある俺(カノン・ボリバル)と親密な関係にあり、その上実戦経験のある。

 そんな猛者が、戦力を引き連れて軍門に降ってくる――陸軍省としてはまさに“鴨ネギ”だ。

 両手をあげて迎え入れた。

 

 ところが、侵攻で武功を挙げたものの、命令を聞かない。

 おまけに上官が注意をすれば、殺気をみなぎらせて威圧する。

 そもそも職場に出てこない。


 これには陸軍省も頭を抱えた。

 そこで暫く泳がせ移籍を画策していたところ、“渡に船”の申請があった。で、慰謝料がわりの昇進。

 

 コイツか……?!


 グルルルゥ……。

 どうでも良いじゃねぇか? と言わんばかりに喉を鳴らしている。


 まぁそんなことより、とコティッシュが向き直る。


「魔人国との共闘が決まった」


 その場にいた全員が言葉を失った。

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