取り戻した指揮権と始まる侵攻
(前回のあらすじ)
混乱する王宮。魔法陣が開かれると王宮に乗り込んだのは俺とオキナ、ミズイの特殊部隊たち。
最後にあわられたコウとサユキ上皇様が告げる。
「
◇◇◇
「この不届き者っ、手を離せっ。
俺に脅されて暫くは大人しかったウスケ陛下の金切り声が聞こえる。
「陛下は怪我をされています。どうぞご安静にーーー」
とはいえウスケ陛下は全く健康そのもの。
『怪我をしている』と強引にシェルターの王族専用の部屋へ連行されるウスケ陛下は、金切り声を上げて
俺はと言えば、後から来た特殊部隊に陛下とガンケンを丸投げして、コウとオキナの横で
「……この逆賊めがっ。一族郎党根切りにして遣わすっ、……で、あろうがっ?! あろうが」
この状況でも上から目線なの?
わめき散らす陛下にちょっとイラッとくる。
で、「いっそのこと一思いにやっちゃう? そっちの方が覚悟が決まって良いのだけど」
などと背中越しに声を張り上げてみた!
あ、静かになった(笑)
どうも〜。
ウスケ陛下を人質にして、すっかり悪役のコウヤ君だよっ。みんな、引いてないかな?
「なぁ、オキナ。これからどうする?」
「今回、王宮を奇襲――うっ、うぅんっ!
王宮へ急行しウスケ陛下を保護した(人質に取った)事は一部の者しか知らない」
オキナはこめかみを人差し指でトントンとたたきながら、頭の中にある書物を
「陛下もガンケンも空襲を受けて執務が難しくなられた――。しばらくサユキ上皇が執務を代行されるって筋書きさ。
いずれはバレるだろうが、混乱が起こる前にこちらの体制を整える。
逆に“王宮が空襲を受けて『ウスケ陛下』が重症を負った”とブラフを流すつもりだ」
オキナが言うには、各国にゴシマカスが一方的な被害者と印象付ける狙いと、敵を呼び込む作戦でもあるそうだ。
ね?! わからないでしょう?
緒戦を取られた時点で不利なのに、この人(オキナ)ったら更に敵を呼び込むって言ってるのよ?
腕組みをして考え込んでいる俺の横で、オキナは通信石をフル稼働させて貴族たちに連絡を取っている。
なんだかなぁ……。
悪役って思うとテンションが下がるんだよねー。
ちなみにサユキ上皇は供回りを連れて王宮崩落の現場を回っている。
こんな時こそ王族の
「よしっ、六大侯には全て話が通った。あとはサユキ上皇が代理で執政する告知を――」
よほど周到に作戦を進めていたのだろう。
各地の貴族たちから見舞いと作戦に呼応する文書が送られて来ている。
「なぁ、コウ――。わかっちゃいるんだが、ここまでやる必要があったのか?」
「ん? 国賊になったのが怖いのか?」
「まぁな――。いや、怖いのは誰も俺たちの事を信じてくれねぇんじゃねーか? って事」
「確かに思うよ。でも今、やっとかないと取り返しがつかなくなる。だからオキナは踏み切った。私はオキナを信じるだけだ」
なーる。愛は強いねぇ……。
「ちょっと外の風に当たってくるわ」
「コウヤっ、くれぐれも悟られるなよ」と、しっかりコウが釘を刺してくる。
ヘイヘイ。背中越しに手をヒラヒラさせて地上へ向かう階段へ向かった。
その翌日――。
消化活動も終わり、負傷者もあらかた搬送が終わったシマカス城の庭園にサユキ上皇の姿があった。
同行した特殊部隊が警備に鋭い目線を配る中、衛兵に集められた城兵と守備隊にサユキ上皇が声をかけてまわる。
シマカス城を守りきれなかったと懺悔する者、ウスケ陛下の安否を尋ねる者。
その一人一人に声をかけてサユキ上皇が肩を叩く。
ひとしきりそれを終えた後、「嘆くな、恐れるな。僕が陛下の代行をする。さぁ、顔を上げよっ。ここからが我らの反撃だ」
力強いサユキ上皇の声が響いた。
◇◇◇
場面は変わりここはヒューゼン共和国。
屋外競技場に百匹を超えるワイバーンとそれに騎乗する空挺部隊。
地上戦を担当する陸軍の兵士合わせて総勢一千名が整然と隊列を組んでいる。
ワイバーンからすれば退屈な儀式で時おりグホォと鳴いては、となりに控える騎兵に
その兵団を満足そうに見回す二十七名の軍幹部と一級党員たち。
王宮崩落から五日後。
大規模な侵攻を前に出陣式が開催されていた。緒戦を見事にものにした軍幹部の顔は明るい。
「諸君っ! 我がヒューゼン共和国軍は痛烈な打撃を与え、その象徴は崩れ落ちた。敵は主だたるもの全員が重傷を負い、今や風前の灯火であるっ」
壇上で熱弁を振るうのは第一書記のフィデル・アルハン議長。
一区切りごとに拍手が巻き起こり、フィデルは満面の笑顔を浮かべている。
「――が、しかし我らはここで止まる事があってはならないっ。このままゴシマカスの混乱を突き、一気にかの王国を崩壊させる」
おおーっ、と
「我が国に国辱を繰り返してきたゴシマカスに、正義の鉄槌を加えてやろうっ。
そして我が国がこの大陸を統一し、平等な世界を実現しようではないかっ!」
天をつくばかりに拳を突き上げた。
フィデル・アルハン議長の声は不思議と耳に染み込む。
耳馴染みが良いと言った方が良いだろうか?
普通ならおのれの経験と照らし合わせ、その言葉に偽りがないか無意識に探るものだが、彼の声はあたかもそれが真実に聞こえてしまう。
この場にいる全ての党員と兵士たちは我らこそが正義、と拳を高く突き上げた。
「行けっ、我が軍が誇る兵士たちよっ。邪悪な王国を討ち滅ぼし、彼の地へ正義の旗を翻すのだっ」
「「「おおーっ」」」
競技場を埋め尽くした熱気は、彼らの振り上げた拳で天の彼方にまで昇っていった。
ワイバーンを中心に整備の兵があたりの兵に距離を取らせ、いよいよ出陣前と勘づいたワイバーンたちが、グボォ、グホォと低音の鳴き声を上げ始める。
第一空挺部隊の隊長が「騎乗っ」と短く告げると、フィデル・アルハン議長へ敬礼し自らのワイバーンに駆け寄る。他のものたちも同様に駆け寄り一斉に飛行鞍へ乗り込んだ。
「行けっ、尖兵たちよっ。かの邪悪な王国を討ち滅ぼせっ」
フィデルの声が響き渡ると次々と整備士の旗が振られ、ワイバーンがバフゥと翼をひと羽ばたきさせて軽々と大空に飛び立って行った。
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