軍師の戦い

◇◇コウヤ目線ーオキナと作戦室にて◇◇


 王都上空に飛行船が襲来してきた。

 カノン・ボリバルは独立の承認を要求し、しなければ王宮を爆撃するつもりだろう。

 そんな中、オキナは状況を逆に利用しようとしていた。

 

 ◇◇


 「わかった。んで? どんな作戦で行く?」

 首と肩をゴキゴキ回しながら、尋ねる。

 「これから、王都の端っこまで行ってディストラクションをぶっ放すか?」

 

 「一発勝負は好きじゃない。ディストラクションは、一発打てば、丸一日使えなくなるだろう? 外したら終わりだ」

 オキナは、ゆっくり話し出した。


 「手順を説明する」

 そう言って、魔眼の映像を操作し始めた。


 「まず、魔法陣を使ってコウヤ殿をカノン・ボリバルの寝ぐら『カグラ』へ送り込む。

 金属兵を先攻させて拠点を作っておくから、そこで待機してーーー」

 ザッと手順の説明を受けていると、対策会議から招集がかかった。

 「詳細は、このメモに記して置いた。近衛兵に先導させるから魔道士のところまで走って欲しい」


 そう言い残しオキナはスタッフと王宮へ、俺は魔道士の元へ動きだそうとすると、近衛兵から制止された。


 「コウヤ殿もご一緒に、との陛下のお達しです。まずは、王宮の会議室までご案内します」

 オキナの顔が、少し歪む。


 (敵が間近に迫って来たから、俺も用心棒代わりに手元に置いておきたいって事か?)


 まぁ、あのビビリ陛下だ。

 そんな所だろう。


 ◇◇


 王宮の会議室に到着した。


 見渡すとサユキ上皇、ウスケ国王陛下、ムラク防衛大臣、他王侯貴族や国政の主だった面々が揃っていた。

 ムラク大臣の隣には、コウが控えている。


 「早速だが、オキナ補佐官。状況の説明を」

 ムラク防衛大臣から、声がかかる。


 非常時の際、王族への拝謁の礼は省略される。

 それでもオキナは王族、王侯貴族それぞれに、胸に手を当て略式の礼を取った。

 戦に慣れていない、足を引っ張る事にかけては一流の王侯貴族達への配慮だ。


 「まず、現在の状況です」

 先ほど俺の見せてもらった映像と、同じく簡単な説明がなされた。

 「状況は把握した。敵の狙いはなんだ?」

 ムラク大臣から、声がかかる。


 「まだ、敵からの通告はありません。

 恐らく、独立の承認かと。

 承認しなければ、爆撃も辞さないつもりでしょう。

 確実に爆撃するために、魔法による防衛を無力化する『遮断』を併用してくると思われます。そこでーー」


 王都を囲む城壁の画像に切り替わる。

 城壁では、砲台に慌ただしく動き回る兵士の姿が映しだされた。


 「敵への警告として、威嚇砲撃を段取りしています。我々の警告を無視して、侵入してきた場合に備えてーーー」


 言葉を区切り、映像を人形の配置された王宮周辺の地図に切り替える。


 「現在、王都近郊に避難させている魔道士を、一部を除いて王宮から距離二百メートルの外苑に招集していますーーー」

 それぞれの配置と、配備する趣旨の説明が行われた。

 次に、陛下、上皇、王族の皆様へーーと続く。

 「王宮への爆撃に備えて、陛下、王族の皆様には一旦、地下のシェルターへ避難して頂きます」


 「王都自体への爆撃は? ここまで入って来れたんだ。我々をへし折って独立を勝ち取ったと宣伝する方が、手っ取り早いだろう?」

 ブロウサ伯爵から声がかかった。


 「それが目的なら、後詰めの部隊が来るはずです。制圧、掠奪、蹂躙するための部隊が。しかし、魔眼でも索敵でも発見されていません」


 それにーーーと続ける。

 「水面下で、各国と接触を図った形跡があります。それから推測するに今回の目的は、独立を承認させる事かと」


 ここまで聞いていた俺は、あきれた。

 オキナって、入院中も仕事してただろ?


 コウを見ると、しょうがないでしょ?! って肩をすくめる。


 オキナが続けた。

 「外交を図った上で、武力行使に至ったーーー。

 国としての体裁が、必要だったのでしょう」


 それを聞いたブロウサ伯爵は、うーむと黙考した。

 なくは無いかーーー。

 「だが、ただのテロ目的ならどうする?」


 「それなら、今回の様な空からの目立つ侵犯行為はしません。密やかに我が国に潜入し、警備の手薄なところを爆破してまわるでしょう」

 故に、武力外交かとーーーと続ける。


 「外交を称するなら、いきなりの爆撃はないと見ています。まずは、文書での独立の承認を要求してくるはずです。そこでーーー。陛下、並びに皆様方に時間を稼いで欲しいのです」

 作戦室の空気が、止まった。


 「陛下に、命令するなど無礼であろう!」


 「不届き者め!」

 口々に、非難の声が上がった。

 腰巾着どもだ。


 「非礼はもとよりーーー。ですが、今は非常時。陛下の御威光を持って、敵を打ち払う算段でございます」

 オキナは胸に手を当て、慇懃いんぎんに礼をした。


 「フン! ちんの威光を、借りたいと申すのじゃな? そう申すのじゃな?!」

 国王ウスケの頬が、少し緩んでいる。

 へぇ! オキナって、陛下の扱い方を心得てやがる。


 「左様にございます。まずは反逆者カノン・ボリバルが、文書にて独立の承認を求めて来たとします。

 応じない場合、王宮爆撃もあり得ると脅して。

 しかして、我々が応じる事はあり得ません。文書には、会談をして解決をはかろうと返答を」


 会談に、すんなり応じるだろうか?

 わざわざ、脅しておいて話し合うバカはいない。

 

 「当然、王族との会談です。

 互いの安全を保障するとすれば信用するでしょう。応じないなら、承認もしない事と条件をつければ飲まざろう得ない。

 そのかわり、奴らは会談を有利に運ぶ為爆撃でどこかを武威攻撃するかと。その後、会談に応じる形でーー」


 「なんと?! 敵の脅しに屈した上で、会談せよと吐かすか?!」

 腰巾着の外野がうるさい。


 こいつらーーー?!

 何にもしねぇくせに、重傷を押して出て来てるオキナになんて事言いやがる!

 いい加減、目を覚ましたらどうだ? と口を開きかけてコウから目線を感じた。


 ?ーーー。目をやると、コウが怒っている。


 すっごく俺を睨んで、黙ってろ! って顔してるんですけどーーー。

 へえ、わかりやしたよ。


 「敵を油断させるのです。

 敵の急所はなにか? ただのテロリストと各国に認定され、袋叩きにあう事かと。

 今回、我々は被害者で、敵はテロリストと印象付けなければなりません。

 それを認識してもらう為に、平和的に解決しようとしつつ、一発は殴らせる。

 さすれば各国も、我が国民も黙っていません。陛下の御威光ごいこうのもと、挙国一致でかの敵を殲滅します」

 ここまで言うと、オキナは緊張した面持ちで陛下に目をやった。


 (軍師って怖いなーー)


 味方とも、シノギを削らねばならない。

 戦場ばかりが、戦いの場ではない。


 俺は、未来を掛けて戦うオキナの姿を見ていた。

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