『自由と平等の戦士』のアジト


 「今回は引き分けにしてやらぁ! 次はっ!! つ、次はーー痛たッ! つ......」

 洞窟の中に反響する声はだんだん小さくなってゆく。


 なんだ? 何があった...... ?

 ポカンとしたまま俺はダラリと剣を下ろした。


◇◇カノン・ボリバル目線◇◇


 「な・ん・で?!? なんで勇者コウヤと戦っている? ライガッ、偵察に行くだけだと言っていただろう?」


 俺、カノン・ボリバルは三年前、『自由と平等の戦士』を立ち上げた。

 その時、真っ先に参加してくれたのがライガだ。

 ライガは虎の獣人で、獣人部隊の所属が同じとなりそれ以来の付き合いだ。

 「面白そうだな! 俺も混ぜろ」とまるで子供が遊びに参加する様なノリで参加してきた。


 「そう怒んなよぉ! せっかくだから、ちょっと一当てしただけだって!」

 ライガは不貞腐ふてくされてソッポを向く。


 「『ちょっと一当て』で怪我していたら、次は命を落としかね無いねぇーー」

 ふふふと笑い声がした。

 コンガが、二股の舌をチョロリと出して笑っている。コンガは蛇の獣人で異能『毒霧』を操る。

 なかなかの美貌で、俺の秘書的な役割をしていた。もちろん、それだけに止まらないのだがーー。


 「もうちょっとでれたんだっ。途中で止めるから仕留しとそこねただけだって。次は息の根を止める!」

 ライガが息巻いている横で、蛇人コンガがニヤニヤと笑っている。


 今回も蛇人コンガにライガのお目付役として、着いて行っててもらっていた。

 血の気が多いので、偵察を任すのは不安だったからだが案の定手の内を明かしてしまった。

 勇者コウヤと剣撃になった際、煙幕を張って連れ戻してくれたのもコンガだ。


 ハハハッ!

 「ざっくり斬られといて懲りないわね」

 愉快、愉快とヘビ女は笑う。


 最後の衝突の際、コウヤの一撃はライガの『硬化』を打ち破り腹部を切り裂いていた。

 ライガの驚くべき能力はそれでも尚、戦えるタフさと脅威的な回復力だ。


 「こんなのはかすり傷にも入りゃしねぇよっ。流石に最後のやつは驚いたが次は勝つ!」

 フンスッと拳を握りしめ、俺にニッと牙を剥き出す。

 「カノンッ、おまえがいれば次は間違いなく勝てるっ」


 おやおやーーー。っと言った顔をしてコンガは首を竦めた。

 「全く懲りてないわねーー」


 「ところで俺らを集めたって事は、例の件上手くいったって事か?」

 ヒューガが暗闇から姿を表した。


 獣人ヒューガはひょうの獣人で異能『隠密』を使う。

 その名の通り気配を悟られず行動できる為、スパイ活動や暗殺を生業なりわいとしていた。

 軍の訓練所で知り合い同志になった。


 「おい!」

 俺はつい声が荒くなる。

 「俺たちのまえでは『隠密』を使うなよ。ライガが反応しかねん!」

 俺が一番怖いのがそれだ。

 案の定、ライガは腰を落として、抜き打ちの構えを見せていた。


 「まぁ、そんなにたけりなさんなって。ライガさんよ。で? どうなんだ?」

 ヒューガが苦笑いをしながら近ずいて来た。


 「ああーー同志諸君。隣国『ヒューゼン』の資金協力と我らが故郷『カナン人民国』の独立を認める密約を取り付けた」


 「おお! 遂にか!?」

 グオオッ! っとライガが喜びの咆哮を上げる。


 「『ヒューゼン』にとっては案の定、『ゴシマカス王国』は脅威だったようだ。

 その『ゴシマカス王国』の喉元に、獣人の布石が打てるんだ。侵攻するにも防ぐにも、都合の良い布石がな。食い付いてきたよ」


 ヒューガは耳をパタパタさせている。コイツの喜んでいる時の癖だ。


 「それもこれも、今回の魔道士暗殺と『魔力送信装置』破壊の実績があったからこそだ。諸君に感謝したい」

 俺はライガ、ヒューガ、そして最後にコンガを見つめ口を開く。


 「これからはもっと獣人の同志を増やす。目標は一万人。その家族も含めれば五百万の大所帯になる。立派な国だよ。『自由と平等の国 カナン人民国』が誕生する」


 「「「グオオ! グオオ!」」」

 皆が喜びの咆哮を上げた。


 喜びの咆哮を挙げ続けるライガは放置して、コンガに話を振る。

 「コンガ。君のほうはどうだった?」

 「情報は仕入れたよ。魔王オモダル亡き後、どうやら魔国はライチ公爵を中心とした『ライチ興国こうこく』を形成しているらしい。会談のパイプは作れると思う」


 ニヤリと笑う。

 「カノン。次は魔人とも組むのかい?」

 二股の舌をチョロリと出す。

 「ああ。そのつもりだ。『ゴシマカス王国』の敵対勢力を全て味方に取り込む。

 そして国としての地盤を作るんだ」


 そうなればーー

 「差別され続け、虐待され続けた我々獣人の『真の解放』ができる。『形だけの平等』でなくてな。その為にもコンガ。広告塔になってくれないか?」


 「あら? 今度は何を私にさせる気なの?」

 ふふふっと笑う。

 木蓮の花の香りが漂い出した。異性を誘う魅惑の香りだ。

 「ああーーー。君のその容姿と魅力は破壊力抜群だよ。その魅力で対抗勢力を取り込みたい」


 シュル!


 コンガの尻尾が俺に巻きつく。最後に俺の首に手を回したコンガは俺の耳元で囁く。

 「ご褒美は?」


 「ーーー後だ。次の作戦を伝える。ライガ! そろそろ吠えるのをやめないか? 次の獲物はこれだ」

 テーブルに一枚の写真と地図を広げる。

 「『赤の一号』ーーー快速列車だ。襲撃部隊はすでに現地入りしている。俺は魔界の『ライチ興国』と接触を計る。指揮官あたまはヒューガ。頼むぞ」


 さて『ゴシマカス』よ。今から恐怖ってものを味合わせてやる。


次回 列車襲撃!

俺は(コウヤ)吠える!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る