第24話 魔王討伐戦略 最終会議

 「第三防衛ライン突破されました! 次々と侵入してきます!!」

 緊迫した声が響く。


 「だぁから言ったであろうが!? 何をやっておるのだ? 危機感がないのであろ?

 貴様ら防衛組は何をやっておるのだ?」

 国王ウスケがまた癇癪かんしゃくを起こしていた。

 「大王閣下。こんな時こそ泰然たいぜんとなされませ」

 厳かな空気をまとわせて、ゆったりとしたローブに身を包んだ偉丈夫が現れた。

 年の頃六十を越えても、ガッシリとした体躯に修羅場を潜り抜けて来た凄みがある。


 「サユキ上皇様ッ‥‥‥!?」

 ウスケ国王の声が裏返った。

 国王ウスケが唯一頭が上がらないのが、このサユキ上皇だ。

 小国に過ぎなかった《ゴシマカス》を第一級の帝国に押し上げ、『中興の祖』と呼ばれていた。


 それに対して国王の評価は、『小物』で通っている。

 サユキ上皇は冷徹さと情を持ち合わせ、薄情で口ばかりの現国王とは対照的だった。

 だから余計に国王ウスケは、この上皇を苦手としていた。


 「第三防衛ラインから、避難と称しておめおめと逃げて参った私が、言える筋合いではございませんな! はっはっは」

 上皇なりの国王への気遣いか、おどけて見せる。

 その場の重苦しい空気が振り払われた。


 「同時諸君! 力を合わせてこの国難を跳ね返そうではないか?

 こうしている間にも、我が同志たちが戦っているーーー民を守る為にな! 我らは何をすれば良い?

 防衛大臣ムラク・ド・ジュン」


 名指しされた国防大臣ムラクは、サユキ上皇と共に戦国の世を駆け抜け、ゴシマカスを第一級にまで押し上げた英雄の1人だ。


 「上皇様ーーーはて? とっくに隠居していた私如きに、何が出来ましょうか?」


 防衛大臣ムラクもおどけてみせた。

 上皇とムラクにしか分からない信頼関係が、軽口を叩かせる。

 ムラクはオキナに顎を尺った。

 「オキナ次官。魔眼の説明を先に」


 オキナは端正に整った顔を引き締め、場の全員を見渡した。

 「この地のはるか上空に、我が国の目『魔眼』があるのはご存知のことと存じます」

 ゴシマカスの最大の兵器『魔眼』は、はるか上空に浮かぶ静止衛星だ。

 この静止衛星があればこそ、ゴシマカスは他国を圧倒できた。

 魔力と魔素の揺らぎから、敵の位置を正確に割り出せる。


 「魔力が集中しているこの黒くなった部分。これが今の激戦区です」


 第三防衛ラインが突破され、壁から砂が溢れるよう侵入されている様子が、会議室のだだっ広い机に映し出されている。


 「現在金属兵を含め、二万の兵が第四防衛ライン入り口のココと迂回路遮断の為に、両脇に配置され

防衛にあたっています」


 黒くなっている部分に、白い点が表示されている。


 「この白い点は他と比べ、圧倒的に大きな魔力を感知した点です」


 「つまり、四天王か魔王オモダル」

 防衛大臣ムラク・ド・ジュンが引き継ぐ。


 「ここを直接叩くのです。

 他を我が軍の兵士が食い止める。

 頭を失って制御できなくなるのは、魔物も軍も同じ。それを可能にするのが魔法陣です」


 「前回われわれは勇者タガと、魔導師カミーラを失った。これは魔力切れという兵站を無視した我らの失策だ」

 チラリと国王ウスケを見る。


 我らとは言った。

 が、実際は作戦の途中で勝利を焦った国王ウスケの、勇者タガと魔導師カミーラの強制投入という強烈な横車が入ったせいだ。


 今回はこのバカの勝手にはさせない。

その為に、上皇サユキを引っ張り出した。


 「この反省をもとに我が国の魔力送信をこの二人に集中する。

 四天王と魔王を魔法陣で直接叩く。

 他の魔人たちは、我が軍が死力を尽くして食い止め、二人は我が国からの魔力送信で、魔力を供給し続ける事で最大火力を発揮してもらいます。

 以上が、魔王オモダル討伐の作戦です」


 国王ウスケがイライラした声を上げた。


 「前回はお前たちが無能なばかりに、貴重な勇者と魔導師を失った。

 今回は失敗は許されんぞ!

 で! あろうが? 

 で! あろうがッ?!

 魔法陣で直接叩くなどと間違いなくできるのであろうな?! あろうな!!」


 このバカは自分が、強要したことすら忘れているようだ。

 勇者と魔導師の名前すら覚えていない。


 自らが死に追いやったとは、露ほども思っていない。心に留めてもいない。


 防衛大臣ムラク・ド・ジュンは、片眉を上げて上皇サユキを見る。


 上皇サユキは微笑んで首を振った。

 (今は前を向け。同志よ)

 無言の言葉が届く。


 防衛次官オキナが目で合図を送った。

 王宮魔導師が、詠唱を始める。


 机の上に◎と+を組み合わせた模様が描かれた。


 「お見せしましょう!」

魔法陣から垂直に光の柱が立ち上がり、人の形になってゆく。

 現れたのは、勇者コウヤと魔導師コウ。


 「彼らが我が国の必殺の刃!

勇者コウヤと魔導師コウですッ!」


———-コウ視点———-


 勇者タガと魔導師カミーラと別れたのは、昨日のことだ。


 あの後、次官オキナから連絡があった。


 涙も枯れて、腫れぼったくなった顔を化粧で整えると、上気した顔の次官オキナが待ってた。


 「お‥‥‥おお! 美しい!!

 魔導師コウよ。お会いしたかった。

 あなたを目の前にして、心乱れる私を許して欲しい」

 そう言ってオキナは瞳を閉じる。

 再び開けた瞳には決意が秘められていた。


 「明日決戦の最終決定会議がある。私はこの国の全てを傾けあなた方を守る。

 この戦いが終わった暁には、暁には‥‥‥

 私の気持ちを受け止めて欲しい。それまで女神アーテナイに我が心を預けるとしよう。

 魔導師コウよ。

 あす魔法陣で国王ウスケと上皇ムラクの前に召喚する。武装で待機していて欲しい。

 あなたの凛々しい姿を見せて欲しい。

優柔不断な官僚どもの背を押したいのだ。

 それでは、離れ難くなる前にこれで失礼する」

 何かを振り払うように、オキナは去っていった。

 (寂しいな‥‥‥。ふぅ柄にもないか?)


 翌日を迎えた。

 今日はオキナも来るのだろうか?

 武装して待てと言われた。

 がオキナが来てるなら、綺麗な姿を見てほしい。


 そうだ。そうしよう!


 武装を解除してドレスに着替える。

 鏡を見ながらほつれやシワがないか確認する。


 ふふふ。

 オキナは驚くかな。


 もう少し大胆な感じが良いだろうか?

 大人アピールとか?


 裾をたくし上げてみる。


 (綺麗だーーー)


 鍛えたおかげでシルエットには自信がある。

 もう少し上げてみたら?

 長椅子に寝そべりたくし上げてみる。

 手を足に沿わせて見る。

 手で綺麗な脚の曲線に沿ってなぜてみた。

 目を閉じる。


 (ダメだ。ダメだオキナ。このような時にダメ‥‥‥)

 妄想の中のオキナは大胆だ。


 (‥‥‥ダメ。ーーーダメ)

 妄想驀進中だ。

 突然光に包まれた!



———-コウヤ視点———


 シャワーを浴びていた。


 勇者タガと魔導師カミーラと別れたのは、昨日のことだ。

 足下の排水口から、渦を巻いて吸い込まれる排水を見ていた。


 「強くなったよコウヤ。俺よりずっとだ。

 だから託す。この世界の未来を。託されるだけの男になった。

 自信を持っていい。この俺が一番良くわかっている。おまえは強い!」


 勇者タガは泣きながら笑ってる。


 「だから守ってやってくれ。頼むーーーバトンタッチだ」

 昨日言われた勇者タガの言葉が、脳内再生されてリフレインする。


「重いよなぁ‥‥‥」

 (そういえば武装して待機しておけってオキナが言ってたっけ?

 トレーニングする暇くらいあるだろ? って動いて汗かいたんで、シャワーを浴びていたのだが‥‥‥)


突然目の前が光に包まれた!


———————そして会議室————


 国王ウスケと上皇ムラク。

 この国の幹部が一堂に介したこの会議室に、スッポンポンのコウヤと裾の乱れたドレスのコウが出現した。


 「‥‥‥」


 大丈夫か⁉︎ ゴシマカス!


次回 四天王との決戦‼︎

物語りはクライマックスへ突入する!

はず‥‥‥

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