体育館
磯原拘置所がいかにも重罪人の収監された監獄だったのに対し、桜椿女子学院は、塀に鉄条網が張り巡らされていることを除けば、女子校そのものであった。
チャペルアワーはパイプ椅子を並べた体育館で行われた。それはあたかも学校で行われる行事のようだ。ただ、見渡す限りグレーの囚人服で、ここが少年院だと言うことを思い知らされる。矯正教育という言葉は使われても、罪に対する処遇としてここにみな集められていることには変わりない。壇上から見れば、まるで傷んだ葦の群生のようにも見える。しかしそれでも若い彼女たちには、その傷んだところから輝きが垣間見える。つまり、磨き方によって様々に輝く可能性を秘めた原石なのだ。御供はその輝きに応答するように語った。
「みなさんがどのような経緯でここに来たのかはわかりません。罪悪感で苦しむ人もいれば、こんな筈じゃなかった、どうして私ばっかりこんな目に、と思っている人がいるかもしれません。でも聖書はネガティブな自己卑下に陥るよりも、神から与えられた賜物に感謝する生き方を教えています。若いみなさんは多くの可能性を秘めています。どうか、神が何を自分に与えてくださっているのか、一日一日発見してはそれに感謝することを目指して下さい」
御供は柄にもなく熱っぽく語ったが、院生たちの反応は冷ややかであった。きっとこういうポジティブメッセージが嘘くさく感じられるのだろう。
ところが、その中で一人だけ、御供の話に耳を傾けている者がいた。彼女は話の間、目を逸らすことなくずっと御供に注目していた。それはとても純真で、濁りのない眼差しだった。
ふと、御供は彼女にどこかで会った気がした。チャペルでの説教を終え、控え室でずっとそのことを考えている内に、どこで会ったのか思い出した。
韓国料理店「ソンミ」……古川晋也が殺害したとされる山田姉妹が働いていた、大衆食堂「つるや」の後に建った店……そこで働いていた店員だった。
あの時、彼女の放つオーラに惹かれていると、北川から「ああいうのが好みなのか」とからかわれたのだった。そのことを思い出すと御供は顔が赤くなった。しかし純真に見えた彼女がどうしてここに収監されるようになったのだろう……そう考えていると、法務教官の一人がやって来た。
「すみません、院生の一人が個人教誨を希望しておりまして……」
「え? チャペルの説教だけと聞いてたんですけど……」
「はい。確かに『チャペルで説教するだけでも』とお願いしましたが、本本当は個人教誨師もしていただけるとありがたいのです。……やはりダメですか?」
その時御供の頭に、浜本のことがよぎった。迷える羊を見捨てたことで、あんなに後悔していたではないか。
「いえ、個人教誨も引き受けましょう」
「ありがとうございます。希望しているのは
麻薬……ジャンキー……これはまた浜本とは違った意味で試練になりそうだ。そう思っていると、法務教官が百瀬朱里の写真を見せた。
「この子なんですがね」
それを見て御供はハッとした。それは先ほどのチャペルで御供をじっと見つめていた、あの少女だった。
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