第81話 クラブ活動②

「本当、シリウス君の頭の中はどうなっているのかしら? 一度覗いてみたいわね」

「おお! じゃあフランも一緒に覗きに行ってみる?」

「そんなことができるのですか?」

「モチのロンよ。この大妖精フェオちゃんに任せな・・・」

「フェ~オ~? また変なこと企んでないよね? そういえばベトベトのスライムを生み出す魔法を創ったんだよね~。試してみようかな~?」

  ヒイィィィ! ごめんなさい。もうしません!」

 もうしません? もしかして、過去にやったことがあるのかい? これはいつか聞いてみないといけないなぁ。

「シリウス君は魔法まで創れるのか・・・」

 あ、部員が別の問題にぶち当たっているわ。そっとしておこう。


 学園祭も間近に迫って来た頃、我ら魔道具作成クラブの新しい魔道具、活版印刷の魔道具は部員全員の協力により、無事に完成した。

 完成品を見る部員メンバーの顔は「やり遂げた」という、大変誇らしい顔をしていた。正直なところ、この魔道具は皆の協力無しでは完成させることができなかったと思っている。

 この魔道具は大きく分けて二段階構造になっている。

 1つは本のページを複製する魔道具。もう1つはページを印刷する魔道具である。

 ページを複製する魔道具では、まず始めにインクの色を感知して、その部分だけに反応する特殊な魔導板に文字を転写する。

 この魔導板も当然オリジナル魔道具である。色を感知して音がなる、という魔道具を作成していた部員の一人が、応用できないかと提案してくれたのだ。

 次に、魔導板が反応した部分にだけ色が付着する特殊な魔導インクを魔導板に流し、文字を浮き上がらせる。この魔導インクは俺が作ったものだ。レシピはもちろん秘密だ。その浮き上がらせた文字を銅板に転写して準備はOKだ。

 最後に、その銅板の魔導インクがついた部分だけを、先が細いハンマーでひたすら叩く魔道具にセットして、印刷用の銅板が完成する。

 このハンマーでひたすら叩く魔道具は、フラン部長が開発中だった肩叩き魔道具の原理を使わせてもらった。どうやらおっぱいが大きくて肩が非常に凝っており、辛い思いをしているようだ。

 何でクリスティアナさんは肩が凝らないのか、と頻りに聞いている場面に何度か遭遇したことがある。クリスティアナ様は曖昧に答えを濁していたが、それは毎晩俺がクリスティアナ様の肩をマッサージしているからに他ならなかった。クリスティアナ様はさすがにそれは言えなかったようである。

 印刷用の魔道具の原理は簡単である。

 回転するドラム状の魔道具に先ほど作成した銅板を取り付けるだけだ。あとは紙とインクをセットすれば、次々と印刷されていく。まあ、そこまで来るまでが大変だったのだが。

 銅板に付着させるインクの量が多いと真っ暗の紙が出て来るし、少ないと掠れて文字が読めない物が印刷される。何度も何度も試行錯誤を重ねた上で、ようやく形になったのだ。ここまで何度も細かな手直しをしてくれたメンバーに、本当に感謝したい。

 俺は俺で新しい魔方陣を作ったり、魔導インクを作ったりで忙しかったからね。一人じゃ、いくら時間があっても足りなかっただろう。チームでやることの偉大さを思い知ることができた、いい経験になった。

「ようやく完成したわね。それじゃ、この活版印刷の魔道具の紹介と、魔道具作成クラブの皆の紹介を載せた冊子を印刷してみましょうか!」

 印刷物第一号は自分達で作った手作りの冊子だ。試しに100冊ほど作ることになった。次々に複製されたページをまとめて1つにすれば完成だ。

「凄いわ。私達、凄い魔道具を作っちゃったわ。本を一冊複製するだけでもとんでもなく時間がかかるのよ。それがこんなに短い時間でできるだなんて」

「これで先生が使っている本を複製すれば、授業中に黒板をひたすら写す時間も無くなりますね」

「いい考えね!」

 この世界にはまだ教科書はなく、先生が黒板に書いた物を自分達で紙に写しとることで、教科書のような物にしていた。その作業が無くなるだけでも授業は大分捗るだろう。


 いよいよ二年に一度の学園祭が始まった。

 初参加の俺達はウキウキとした足取りで教室の中だけでなく、外も見て回った。

 魔道具作成クラブだけでなく、他にも様々なクラブ活動があり、どんなクラブがあるのかを見て回るのも楽しかった。

 特にクリスティアナ様が気になっていたのは「モフモフ研究クラブ」だった。猫や犬、モルモットなど様々な動物達をひたすらモフるという謎のクラブなのだが、クリスティアナ様の食い付きが半端なかった。

 そんなに動物をモフモフしたかったのか。毎日クロをモフモフしたり、ブラッシングしたり、臭いを嗅いだりと、ある意味で俺よりも飼い主のように愛でていたのに、まだ足りなかったのか。クロも若干嫌そうな顔をしていたし、検討の余地はありそうだ。

 学園祭には生徒だけでなく、一般の人達も見に来ることができるようになっていた。今年はクリスティアナ様が入学しているので、当然お偉方も多数来ていた。もちろん一部はお忍びではあったが。

「これがクリスティアナとシリウスさんが協力して作った魔道具なのね。どんな魔道具なの? クリスティアナったら、見てからのお楽しみ、と手紙に書いていて教えてくれなかったのよ~」

  ほほんとクリスティアナ様のお母様の第二王妃が言った。その隣の国王陛下らしき人は唇を尖らせていた。

「私にはそんな手紙は来なかったぞ。どうなっているんだ?」

「あらやだ、ダーリンの仕事を邪魔しないように配慮してのことよ」

 うふふと笑う王妃様。親バカなのは周知の事実のようだ。俺はその会話を聞かなかった振りをして、活版印刷の魔道具のデモンストレーションを行った。

 周囲にどんどん人が集まる。あ、ラファエル商会の人も見に来ているな。

 試し刷りをしたのはこの日のために用意した学園祭のパンフレットだ。可愛いイラストつきのなかなか手の凝った代物である。

 次々と印刷されるパンフレットを見て、辺りは騒然となった。何だあの魔道具は、と言う声が多く聞こえた。いいね。掴みはオーケーのようだ。

「こちらをどうぞ。これは今日の学園祭を紹介するためにクリスティアナ様達が作った案内状を印刷した物です」

 おおお! と一際周囲の声が大きくなった。

「このように、この魔道具を使えば案内状や紹介状、本なども簡単に複製することができます」

 魔道具の力ってすげー! との声が此処彼処から聞こえてくる。受け取った国王陛下らしき人物はクリスティアナ様が作った案内状と聞いて、大事そうに扱っていた。

 このデモンストレーションはうまくいったようで、多くの人達に関心を持ってもらうことができた。


 学園祭も終わる頃、学園祭の優秀賞の発表が行われた。

 この優秀賞というのは、それぞれのクラブで二年間の成果を評価するものであり、クラブのマンネリ化を避けるために設けられた賞である。

 比較的何をしてもいい自由なクラブ活動とはいえ、名ばかりではダメだという戒めの効果もあるようだ。

 そして栄えある金賞に魔道具作成クラブが選ばれた。大変名誉なことであるらしく、フラン部長が飛び上がって喜んでいた。クリスティアナ様も、ロニーもルイスも誇らしげに笑っていた。

 フラン部長が代表でメダルを受け取り、大きな歓声に包まれて、学園祭は終了した。


「ねえ、この魔道具はどうするの?」

 フェオが首を傾げて聞いてきた。

 クラブ活動でお金を得ることは禁止されている。それなので、今後どうするのかを学園側と相談したところ、この魔道具から得られた収益金は全て王立学園に寄付するという形になった。

 当然不満の声を上げる人もいたが、もしクラブでお金を稼ぐことができるとなると、お金目当てでクラブに入部する人がたくさん出てくるだろう。

 この魔道具作成クラブとて例外ではない。もし、お金を手にすることができることになれば、熱意もなく、ただそこにいるだけの人が多く押し寄せることになるだろう。そうなれば当然、質の低下、やる気の低下に繋がるのだ。

 結局、この魔道具は俺と繋がりがあるラファエル商会が買い取った。しかしそこはさすがのラファエル商会だけあって、俺の意図を正確に読み取り、本の出版、教科書の作成、マーケティングに使うチラシの作成などを手掛け、ラファエル商会から独立したラファエル出版の会社を立ち上げた。

 ラファエル出版は立ち所に規模を拡大し、多くの本を世に送り出すことになる。ラファエル出版は王国内の学園用に教科書を無料で提供し、ジュエル王国の学力は急速に向上することになったのだった。

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