第57話 南方都市トランシル

 公爵領都で行ったフリーマーケットは大盛況のうちに終わった。次はいつやるのか? と早くも問い合わせが相次いでいる。

 今はお父様や叔父が今回のフリーマーケットの問題点や改善点を洗い出し、次に向けての準備を進めているようだ。

 お父様不在の間の領地管理は、さしたる問題なく行われているようであり、いつだったかお父様が、もう自分は帰らなくてもいいんじゃないか、とぼやいていた。それほどまでに叔父は優秀だった。

 優秀なお父様と叔父が中心となり公爵領を統治しているため、俺はとても暇になった。今こそゴロゴロするべきときなのでは?

「シリウス、ひま~! 何か面白いことないの?」

 うん、まあ、そうなるよね。クリスティアナ様も苦笑いしている。

「フェオ、何もないことは良いことですわよ。たまには心静かに過ごして自分と向き合うことも、自身の成長に繋がりますわ」

「静かにしてたらクリピーみたいにおっぱいが大きくなるの?」

「え? そ、それはどうなのでしょうか・・・ってちょっとフェオ! あんっ」

 フェオがクリスティアナ様の胸を揉み出し始めた。それを聞いたエクスもクリスティアナ様の傍によってきて、フェオと同じように揉み出した。

「ちょっとエクスまで何をやって・・・ひゃん!」

 クリスティアナ様が再び矯声を発した。見ている分には素晴らしい光景なのだが、やはりエクスも自分の胸のフラット感を気にしているようだ。元が魔力の塊なのだからその辺は自由に変えられそうなものなのだが、そうはならないのだろうか。

【おい】

 おっと、ピーちゃんがお冠だ。止めねば。

「はいストップ。そこまで」

 フェオとエクスを両脇に抱えて引き剥がした。クリスティアナ様は両腕で胸を庇い、ハアハアと荒く息をしていた。もう少し早く助けてあげるべきだった。

「全く、二人ともクリスティアナ様の胸を揉んでも自分の胸が大きくなるわけないからね」

「でもご利益があるかも」

「うん。きっとある」

 ないでしょ、多分。そんなに胸を大きくしたいのか。男の子が身長が欲しくなるのと同じ原理なのかな。

「じゃあ何でクリピーのおっぱいは大きいの?」

「それはだね・・・」

 遺伝だよな? 多分。でも、遺伝です、って言って伝わるかな?

【それは我が主が揉んでいるからであろう。愛する人に揉んでもらうと大きくなるらしいぞ? 知らんけど】

 知らんのかーい! なら、なぜそんなこと言った。大きくなるのは主に下半身だけだと思うよ、俺は。

「へぇ・・・」

「そう・・・」

 ヤバい、二人がジッとこちらを見ている。クリスティアナ様の方を見ると、顔を真っ赤にして、うつむいて、プルプルしている。そんなけしからんことまだやったことないのに!

「そ、そういえば昨日のフリーマーケットで気になる話があったんだ。何でも、この間起きた魔物の氾濫で公爵領にも多少の被害があったらしく、今でも魔境と接している場所ではモンスターが出現することがあるらしくて、その周辺の復興がまだ進んでいないらしいんだよ。ほら、もうすぐ冬だし、それまでには何とかしてもらえないだろうかって頼まれてさ。復興ついでに魔境のモンスター退治とかどうかな? 俺達の力なら十分にやれると思うんだよね。お父様達も忙しそうだし、俺達暇でしょ?」

「モンスター退治! いいわね! 腕がなるわ!」

「うん。今宵は血に飢えている」

「領民のためですもの。まとめて問題を片付けて、安心させてあげましょう!」

 勝った。勝ったぞー!


 魔境に接している都市は公爵領の中でも最南端に位置している。この辺りまで来ると冬に雪は降らず、防寒対策もさほど必要ではなかった。

「到着しました。ここが領内の南方面で最大の都市、トランシルです」

 魔境のモンスターを根絶やしにしてくると言うと止められそうだったので、南部の都市に観光に行きたいと言って、ここトランシルへとやって来た。

 南部最大の都市というだけあって、人も多く、また、南から入ってくる商品の玄関口となっていることあり、大変商業が栄えていた。

 この辺りはまだ魔境からは距離があるため実質的な被害は皆無だった。問題となっているのはこの都市から枝葉のように伸びている町や村である。

 ひとまず俺達はこの都市に拠点を置き、情報収集と観光をすることにした。

「見慣れない食べ物がありますわ」

「これは南国のフルーツですね。ヤシの実でしょうか?」

「ヤシの実?」

「ええ、中に甘いジュースが入っているとか」

「ジュース! 飲んでみたい!」

 王都ではあまり見ない食べ物や飲み物を購入しながら街を散策していると、もうダメだ、おしまいだ、と騒いでいる一団がいた。何だ何だと人だかりができている。

「どうしたんですか?」

 騒ぎの近くにいた人に聞くと、どうやら騒いでいるのはこの街の近くの村人のようで、井戸を掘っていたら、水の代わりに熱いお湯が出たらしく、村はもうやっていけないと騒いでいるらしい。

 熱いお湯って、それ、温泉じゃないかな? 温泉があるんだ。ぜひ入ってみたいな。

「熱いお湯って、地獄じゃん」

 それを聞いたフェオはガクガクと震えている。何で地獄と結び付けるかなー。

「でもフェオ、温度を調節すればお風呂になるよ。お風呂は嫌いじゃないよね」

「うん。むしろ、好き?」

 可愛く首を傾げた。可愛い。女の子は総じて綺麗好きだ。汚い男は嫌われる。

「確かにそのように考えることもできますが、そんなのありなのですか?」

「以前読んだ本の中に、温泉、として紹介されていましたよ。何でも地中を通り抜ける間にお湯の中に地中の成分が溶け込み、それが体に良いみたいです。腰痛、肩こりに効き、美肌効果がある温泉もあるとか」

 なるほど、と目を輝かせ納得するクリスティアナ様。せっかくだし、提案してみようかな?

「すいません、ちょっとお話があるのですが・・・」

 突然現れた身なりの良い子供とその後ろに控える護衛を見た一団はサッと顔色を変え、静になった。

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