第12話 妖精の試練③
サロンで感じ取った方角と、カッパの出現で感知した魔力の方角によって、妖精がいると思われる部屋を特定できた。あとはキュウリを持ってその部屋を訪ねるだけだ。きっとそこに犯人がいる。
自室で城内の地図を広げ、特定したその場所に印をつけた。
「この建物はかなり古くからある建物です。一説によると、この城が建てられる前からあったと言われており、建物自体が老朽化しているため、今ではほとんど使われておりません」
クリスティアナ様専属使用人がそう言った。
「蔦が取り巻いている建物ですわよね。あえてその建物の側に城を建てたというのは、何か意味がありそうですわ。それに古くなったのに建て替えを行わないなんて何かありそうですわ。シリウス様はどうお考えですか?」
なぜ、殿方の部屋に使用人が付いているとはいえ、のこのこと無防備でやってくるのか、その辺りを問い詰めたい。
国王陛下にバレた時の事を考えると胃が痛い。
「妖精と関係があるのかもしれませんね。妖精から力を借りているのか、それとも封印しているのか。とにかく、行ってみるしかないですね」
え?行くのですか?止めておきませんか、と言われたので一人で行くので大丈夫ですよ、と言ったら絶対について行くと言い張った。一人で妖精に合わせるわけにはいかないと。
古くて意味ありげな建物だけに簡単に入れないものと思っていたが、意外にも普通に解放されていた。
古風な趣のある雰囲気だが、人はおらず閑散としており、物寂しい場所だった。
「静かですわね。とても妖精が住んでいるとは思えませんわ」
「確かにそうですね。おそらくこの建物の何処かに、秘密の部屋があるのでしょう」
「秘密の部屋!?やっぱり地下にあるのですか?それとも玉座の後ろですか?」
何かの冒険小説でも読んだのか、秘密の部屋に憧れを感じているらしいクリスティアナ様が目を輝かせて聞いてきた。
「残念ながらおそらくは3階だと思います。それにこの建物内に玉座はないかもしれません」
そうなのですか、と若干しょんぼりしたが、秘密の部屋は存在するのでそれでも元気だった。
カッパの幻覚魔力の出所は明らかに上方向だった。そして窓が無ければ中庭を見ることができない。それらを踏まえて、地下はないと思っている。
3階にやって来た。
中庭に面した窓がある部屋を中心に一回りしてみたが、妖精の居る部屋は見当たらなかった。
やはり妖精がいる秘密の部屋は巧妙に隠されているようだ。
「見当たりませんわね。探知の魔法はどうですか?」
「探知には引っ掛かりませんね。さすがにしっかりと隠されているようです。これは建物自体を詳しく調べなければならないですね」
「地図上でも怪しい箇所はないような気がしますわ」
確かに地図の上でもおかしな箇所はなかったが、防衛の問題上、城の正確な地図は存在しないだろう。それに、魔法で空間を歪めて部屋を隠している可能性も十分にある。
「そこで、ソナーという魔法を使います。これは建築物の内部構造を知ることができる魔法です」
魔法の杖を構えてソナーの魔法を使った。どうやら近くの部屋の中に隠し扉があり、その先にもう一つ部屋があるようだ。先の庭から追った魔力の反応もこの付近から感じた。ここに間違いなく何者かがいるだろう。
「シリウス様は本当に色んな魔法を知っておりますわね」
「あはは、ただの魔法マニアなだけですよ。あの部屋の中に秘密の扉があるようですね」
クリスティアナ様は感心しているが、実はこの魔法は自分で創った魔法だった。魔法を創るのは楽しい。バレると良くないのは分かっているのだが、前世にはなかった”魔法”という不可思議な現象を起こす玩具に夢中になっていた。
隠し扉がある部屋にやって来たが、やはり特に変わった様子はなかった。壁もくまなく叩いてみたが、特に発見はなかった。見た目も中身も一面ただの壁である。
「何もありませんわね」
ちょこんと首を傾げるクリスティアナ様。その仕草は大変可愛らしいが、だらしない顔で見とれている場合ではない。たまには格好いい所も見せなければそのうち愛想を尽かされてしまうだろう。。
「魔法で隠されているのかも知れません。ならばこちらも魔法で探ってみましょう。スコープ」
杖をかざすと、その先端に虫眼鏡の様な輪が出現した。この輪を通せば、何もかもをスケスケにして調べる事ができる。うっかりクリスティアナ様をこの輪で見てしまうと、スケスケの彼女を見ることになるので注意が必要だ。覗いていることがばれればただでは済まないだろう。
ほどなくして、壁に不思議なものがあることに気がついた。
「直接は見えませんが、この場所に扉があります。ですが、取手が無いので開けられませんね。さて、どうしたものか」
扉らしきものを押したり、引いてみたりしようとしたが、見た目はただの壁であり、どうすることもできなかった。
「さすがに魔法の扉を開ける魔法なんてありませんわよね」
美しく整えられた柳眉を下げながらクリスティアナ様が呟いた。残念ながら扉を開ける魔法は知らなかった。
じゃあどうするか。そうだ、扉を開ける魔法を創ろう。今すぐに。
「無いこともないのですが、オープンセサミ」
開かずの見えない扉に向かって杖を掲げ、よくある『開けゴマ』の魔法を唱えた。
するとどうだろう。目の前の何もなかった壁に切れ目が入り、少しずつ開いていった。
さすがは異世界、さすがは魔法。なんでもありだな。それっぽい適当な魔法名をつけて唱えればあら不思議、新しい魔法の完成だ。
クリスティアナ様もまさかそんな魔法があるとは思っていなかったらしく、驚愕の表情をしていた。
開いた扉の先はそれほど大きな部屋ではなく、中央にテーブルと椅子が3脚置いてあるだけであったが、床には一面に色とりどりの花が咲き乱れており、とても部屋の中とは思えなかった。そして、予想通り、この部屋からは中庭が良く見えた。
「この部屋の扉を開けることができるなんて、あんた一体何者なの?」
部屋に一歩足を踏み入れると、正面にあるテーブルの方向から不機嫌そうな声が聞こえてきた。
見ると、テーブルの上にラグビーボール大の青い衣装を身につけた人型の生物がいた。背中に蝶のような薄い羽が付いている。
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