第7話 どうしてこうなった①
なるほど、大体分かった。
散歩と言う名のダイエット兼デート中に、クリスティアナ様の置かれている状況をある程度聞き出すことができた。
それを一言でまとめると、女の嫉妬は怖い、ということだ。
自分以外に愛される人がいるのは許せない、その子供も許せない、ということらしい。
国母としてそれはどうなのかと甚だ疑問なのだが、そんなの関係ない、自分はいじめを続ける、ということのようだ。
後にその所業によって後宮が乱れないことを願うばかりだ。
そうなる前にクリスティアナ様を保護するためにも、今日の俺の誕生日パーティーで婚約者としてクリスティアナ様を華麗に、優雅に、紹介せねばならんのだ!
と、自分に言い聞かせている。そうでもないと誕生日パーティーなどという面倒くさいことなどやってられない。
誕生日おめでとう!の一言でいいと思うのだが、そうは問屋が卸さないらしい。貴族とは本当に体面を気にする面倒くさい生き物だ。
外聞を気にする貴族にとって容姿の問題はそれなりに重要である。ぽっちゃり系でやや損をしていた我が愛しの婚約者クリスティアナ様は、ここ2ヶ月程度のダイエットの甲斐あってちょっと太ったかな?程度のスリムな体にクラスチェンジしていた。
そして容姿の改善によって自信を取り戻しつつあるクリスティアナ様は、最近では比較的堂々と人前に姿を見せるようになっていた。
そうなると必然的に王家と縁を結びたいと思う輩が増える訳で。
今日の誕生日兼お披露目会はそんな不埒な貴族への牽制も兼ねていた。
「今日は我が息子シリウスの誕生日を共に祝うことができて、とても喜ばしく思う。そして、今日はもう一つ喜ばしいことがある。紹介しよう。シリウスの婚約者のクリスティアナ王女殿下だ」
おおおお!とざわめきが起こっている中、クリスティアナ様が隣に並んだ。そして皆に向かって優雅に一礼をすると、大きなため息と共に盛大な拍手が鳴り響いた。
この日のために特注のドレスを、というか、痩せて以前のドレスのサイズが全く合わなくなったので新しく仕立てたドレスを身にまとったクリスティアナ様は、可愛さと可憐さと儚さと美しさが同居するという何とも不思議な魅力を放っていた。
そして何故か、俺の腕に手を絡ませ嬉しそうにしていた。リハーサルでは隣に立つだけだったはずなのだが・・・。
今、ふと気がついたのだか、すでに胸が結構あるな。腕に柔らかい感触が・・・この世界の住人は発育が早いのかな?
と思っていると、急にどす黒い殺気を感じた。慌ててその方向を見ると、バレないように変装をした国王陛下と目が合った。その隣で満面の笑みを浮かべてこちらに手を振っているのは、多分クリスティアナ様のお母様なのだろう。
何とか引き攣った笑顔を作ったが、国王の殺気は増すばかりであった。
どうしてこうなった・・・。
昼食を兼ねた「シリウス・ガーネット7歳の誕生日パーティー」は日が沈む前にお開きとなった。
その後は俺とクリスティアナ様は動きやすい服装に着替え、ほぼ日課となりつつある散歩に行く準備を整えていた。
週一だった二人の逢瀬はいつの間にか週二回となり、俺が魔法の先生を探していることを聞きつけたクリスティアナ様が、
「私も先生に魔法を習っているので、一緒に習いましょう!」
と言って先生を連れて来るようになり、ならついでに他の勉強も、となってクリスティアナ様はほぼ毎日ガーネット公爵家に来るようになっていた。
「シリウス様、改めてお誕生日おめでとうございます。これは私からの誕生日プレゼントですわ」
そう言って何やら四角いカードのようなものを差し出した。
そこには「王宮図書館入室許可書」と書かれていた。
「これは?」
想像はつくが、一応聞いた。
「それは王城にある図書館に自由に入ることができる許可書ですわ。シリウス様が珍しい本を読むのが好きだとお聞きしましたので」
もじもじと恥ずかしそうにうつむいた。
うん、可愛い。さすが俺の嫁。
珍しい本が好き、というか、破滅フラグをへし折るのに重要なアイテムである「魔王の杖」がなんたるかを調べているだけなのだが、ガーネット公爵家の書庫では見つからず、手詰まり感を覚えていたので素直に嬉しい。王宮図書館に行けば何か手がかりが見つかるかもしれない。
「ありがとう、ティアナ!さすが未来の俺の奥さん!」
そう言ってティアナを抱きしめ、そのままの勢いでソファーに押し倒した。
・・・あれ?抵抗がないな。
「あの、クリスティアナさーん?」
そこには全身をゆでダコのように真っ赤にして完全にフリーズしたクリスティアナ様が・・・どうやら刺激が強すぎたらしい。
クリスティアナ様はその後も再起動しなかったので仕方なくそのまま城に送り返した。
そしてその後すぐに城から手紙が届き、それを見たお父様が渋い顔をして拳骨を落としたのであった。もちろん長時間の説教つきだった。
秋も深まり、それに伴って今年の社交シーズンも終わりを迎えつつあった。
社交シーズンが終われば、王都に出向している貴族の多くは自分の領地へと帰って行く。そしてまた春になると王都に戻ってくるというのが、この国の貴族のある程度の流れとなっていた。
ガーネット公爵家もその例に漏れず、冬になると領地へと帰る。
もちろん俺も領地に帰ることになるのだが、今年はクリスティアナ様にもらった「王宮図書館入室許可書」があるので、領地へは帰らずに王都に残り、魔王の杖について調べるつもりだった。
「お父様、王宮図書館の本を制覇したいので、この冬は王都に残ります」
制覇は大げさだが、このくらい言わないと、春になってからでもいいのでは、と言われかねない。
悪い芽は早い内に潰しておきたい。その思いから一歩も引かないぞ、という心意気でお父様を見ていると
「それなら王都の冬に備えたお洋服を仕立てなければいけないわね。王都の冬は領地よりも寒いという話を聞くわ。私も暖かい服を仕立てないといけないわね」
と何故かお母様がノリノリで王都に残る準備を始めた。
これに顔色を青くしたのはお父様であった。まさかお母様も一緒に残ると言い出すとは思わなかったようだ。
「シリウス、春になってからでもいいのではないか?」
「ダメよ、ダーリン。せっかくシリウスがやる気になっているのに。それにクリスティアナ様から頂いた誕生日プレゼントを無下にするわけにはいかないわ。きっとクリスティアナ様はこの事を見越してシリウスにプレゼントしたはずでしょうからね」
ニッコリとお母様が微笑んだ。もしそうならかなりの策士だ。クリスティアナ様は警戒に値する人物なのかも知れない。多分、そんなこと考えてないと思うけど。
「しかし、ハニーまで残る必要はないだろう?」
お母様大好きお父様は、お母様が一緒に領地に帰らないことに危機感を覚えたようだ。
お父様は当主として必ず領地へ帰る必要がある。何故ならば、このシーズンオフの期間にある程度の領地運営の方針を決めておく必要があるからだ。
領地の運営はお父様の弟が領主代行として取り仕切っているが、やはり当主の意向は必要不可欠だった。
それが無ければ領民はついてこない。
「シリウスを一人で王都に残す訳にはいかないわ。もし何かあれば7歳のシリウスではどうしようもないでしょうからね。かと言って、他に信頼のおける人がいるわけでもないし」
個人的には何が起きてもどうとでもなると思っているのだか、やはり母親として心配のようだ。
「信頼のおける人か・・・ああ、そうだ!とっておきの信頼のおける人がいるぞ」
お父様の顔色が明るくなったが、なんだろう、嫌な予感がする。
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