第4話 魔法
洗礼の儀も無事?に終わり、またいつもの日常が戻ってきた。
変わったことと言えば、魔法を練習する時間ができたことだろうか。
魔法を使うのは簡単だが、どうやら使えるようになるのが難しいらしい。
魔法を使えるようになるためには、一度でいいので自分の力で魔法を発現しなければならない。
そして、この魔法の発現が難しいらしく、同じ魔法でもすぐに使えるようになる人もいれば、一生掛かっても使えない人もいる。何故差が出るのかは現在のところ解明されていないが、自分の中でその現象がイメージ出来るか、理解出来るかが影響しているのではないかと俺は思っている。漫画でよくあった。
だが逆に、一度でも発現すれば、それ以降は自在に使うことができるようになるらしい。
「ゴーレムクリエイト!」
杖を掲げてお母様が言葉を発すると目の前にゴーレムが現れた。砂利が集まったそれはスライムのように自在に形を変化させ蠢いていた。
何だろう、この、ゴーレムのこれじゃない感じは。もっと人型をしたものを想像していたのだけれども。
この世界の魔法は杖を振ることで発動するため、魔法使いにとって杖は必需品だ。杖の種類は、今お母様が持っている指揮者の棒のような短いものから、槍のように長いものまで、様々な種類があった。自分に合った杖を探し出し、使っているようだった。
「ウフフ、驚いているわね。最初はみんなそうなのよ。ウインドボール!」
黄緑色の塊がお母様の持つ杖から放たれ、ベチンとゴーレムに当たった。
さすがはゴーレム。後ろに少し押されたものの、何ともなかった。
お母様の得意な属性は風属性。風属性の色は黄緑色だ。
「さあ、シリウスもやってみなさい」
手には練習用の杖。念のためにどのような杖なのか確認したが、一般的に売られているものであり、特別な物ではないとのことだ。
「ウインドボール!」
しかし何も起こらない。
「一回目から魔法が発現する人は少ないわ。気落ちしないでいいわよ。杖の先から風の塊が放たれる感じかしら?シュッとして、バーンよ!」
お母様はこちらの心境を見越したかのように言ったが、説明は正直微妙だった。全属性が得意とはいえ、それ以外は特別という訳では無さそうだ。
自分の中で風の塊を放つといえば、四角い箱に丸い穴を開け、両サイドを叩くことで発射される空気砲が思い浮かんだ。理科の工作とかで作るあれだ。煙を箱の中に充填することで、ドーナッツ状の煙を吐き出すことができる。今度はもっと良くイメージして魔法を唱えた。
「ウインドボール!」
しかし何も起こらない。
「呪文は別にウインドボールじゃなくてもいいわ。エアボールだったり、ブリーズボールと唱える人もいるわ」
思ったよりも呪文の自由度は高いらしい。要は自分が分かりやすい呪文を唱えればいいようだ。それならば。
「空気砲!」
杖の先から濃い黄緑色の塊が風切り音を鳴らしながら発射された。高速で錐揉み回転するそれはゴーレムに直撃し、ゴーレムは上方向へと高くふっ飛ばされた。
なんだか別のイメージも混じっていたような気もするが、無事に魔法が発現したのでヨシとしよう。初めて魔法が発動した。ファンタジーの世界にはそんなに憧れてはいないと思っていたのだが、そんなことはなかった。嬉しさのあまり、ガッツポーズをし、一人余韻に浸っていた。
「なに・・・今の魔法・・・」
やや後方から困惑して声が聞こえてきた。お母様だ。
「え?お母様に教えてもらった魔法を自分の分かりやすい呪文にしただけですよ」
「そんなわけ無いでしょ!威力が違い過ぎるわ!」
確かに威力は高そうだったが、魔法の内容はお母様のと同じだ。首を捻っていると、観念した様子のお母様が次の魔法を教える準備を始めた。
「あ、お母様。飛んでいったゴーレムの替わりは私が準備しますよ。ゴーレムクリエイト!」
魔法が使えることの喜びに、上機嫌になって魔法を唱えた。が、しかし。
ゴゴゴと嫌な地響きを上げながら目の前の大地が盛り上がり始めた。そして盛り上がった大地の裂け目から、見るからに固そうな灰色の岩石を骨格にした人型のゴーレムが出現した。
身長3mくらいだろうか。出現した武骨なゴーレムは片膝を地面につけて頭を垂れた。
「ゴシュジンサマ、ゴメイレイヲ」
「しゃべったー!!」
「しゃべったー!!」
その日の魔法の練習は残念なことに中止となった。
「黄金色を甘く見てましたわ」
お母様が美しい柳眉を歪ませながらため息を吐いた。
ここは公爵家自慢のサロン。日当たり良好、窓からの眺めも良好。部屋に置かれている調度品もエレガント、かつ、見事に調和がとれていた。しかし今、そのサロンには若干重苦しい空気が流れていた。
出現させたゴーレムには丁重にお引き取り願った。あれが庭を闊歩してたら色々と問題になるだろう。
自分の意思を持つゴーレムは古代高度魔法文明の遺産からも発掘されていないので、世界初だろうということだ。わーい、あんまり嬉しくなーい。
現実逃避しかけたところをお父様が引き戻した。
「ならば、尚更魔法をしっかりと教え込まねばならんな。魔法学校・・・に行くには早すぎるし、どうしたものか」
「家庭教師を雇うにしても口が堅い信頼のおける人物にしなくてはなりませんわ。しばらくは私が教えるとして、ダーリンはその間に家庭教師を探しておいてちょうだい」
「分かったよ、ハニー」
こうして当面の方針は決まった。あとは条件に合った人物がいることを願うばかりだ。
両親のお互いの呼び方についてはノーコメントだ。これがこの世界で今現在流行している仲のいい夫婦間の呼び方らしい。個人的にその呼び方は恥ずかしいので、俺が結婚するまでには下火になっていてもらいたいと切に思った。
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