第10話

「……準備するので、こちらをお飲みになって、お待ちください」


 砂糖でも混ぜてあるのか、甘い香りのするミルクを差し出すと、花売り娘は部屋を出た。


「どうも」


 そこは町はずれの小屋で、寝台以外には、あまり物がない部屋に通された。


 態々ここまで離れた場所に来るなんて、余程警戒しているんだろう、それだけ重要な話が……そこまで隠さないといけない程の話……一体ナローシュ様は何をしてるんだろう。


 まあ、この間、衛兵をけしかけられたしそういう事もある……かな?


「お待たせしました……」


「ええ、では──」


「し、失礼しますっ!」


 振り返る前に、寝台へ押し倒される。


「えっ」


 ど、どういうこと!?まさか、密偵だとバレたから私を消そうとして….…!?


「……う、動かなければ、悪いようにはしませんので……」


 やっぱりそうだ……!どうにかして──くっ、上に乗られて動けない….…なんで力が入ら……!


 ……さては、さっきのミルクに何か混ぜてあったな……!


「どうするつもりだ……?」


「……わ、私の言う通りにすれば、何の問題もありませんので」


 そう言って目隠しをつけてくる。


「……まだ金が必要か?」


「お金?まさか、そんな。……私に任せていただければ直ぐにでも、天にも昇るような気になるでしょう」


 問答無用で殺すつもりか……!


「さてと、先ずはこれに火をつけてっと」


 何か独特な甘い香りが漂い始めた。香油か……いや、これは……


「はぁ……いい香りです。さて、お楽しみの時間といきましょうか……先ずは邪魔な服を──ん?」


 殺す前に嬲るつもりか……!


「……あれ?あの……もしかして……」


 身体に触れた娘が聞く。


 こうなったら、どうせ殺すか殺されるか、別にバレたって構わないでしょう。


「……そうです」


「なるほど!宦官さんでしたか」


 またなの!?


「違うわい!私はれっきとした女だ!」


「えっ……わっ!」


 怒りの所為か、思ったよりも力が出て、娘を跳ね上げ、体勢が入れ替わる。


「え?」


 組み伏せた娘は、何故か薄い服以外に何も着ていなかった。


「……なんでそんな格好?返り血の処理の為?」


「返り血って……人殺しみたいに言わないでくださいよ、というか、こんなに硬いのに……?あ、でもそう言われると柔らかい場所もあるような……」


 娘は惚けたような顔で私を触って確かめる。


「好きで硬い訳じゃないから!というか何が目的?」


「え……何が目的って。じゃあなんで私を買ったんですか……?わかってる人って聞きましたよね?」


「買った……?」


「あの……花売りの花を全部買うってどう言う意味かわかっていないのですか?」


 キョトンとして聞いてくる。


「全部って?そんな事言った?」


「ご冗談を、金貨一枚出されたら、花なんて全部買ってもお釣りが来るどころじゃないですよ、兵士の給料の12倍もあるんですから」


 ……ん?じゃあ、私は……


「只でさえ、そういう事をしろって意味なのに、金貨なんて出されたら。まず間違いなくそれなりの人物ですし、逆らえば命に関わりますし……」


「凄まじい大金で身を差し出せと言われたようなものだったと?」


「そうです、その通りです……ですが、まあ納得です。……そこまでの金額を払わなければ断られると思ったのですね」


「……はい?」


「はい、大丈夫です!女性の方でも私は全然気にしませんから!」


「違う!そうじゃない!」

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