第二部最終話「遥か雲路の果て」
いよいよ”忘れられた都市”タージの探索を実行する時が来た。
キングスレイ鉄鋼共和国は国家で保有する4隻の飛空艇を投入し、探索を支援する。
探索メンバーはタージ入場の資格者として”紅の紫電”イオーレ=ナゼル、”聖剣の護り手”ヴィオラ=カルティ。
タージの再起動を報せ探索のきっかけを作ったハーヴェス王国の全権特使として”迅雷卿”ディード=スレイン。
魔動機文明遺跡探索の第一人者として実務を先導する”金瞳の魔女”スノウ=フェリア。
それに、12名の冒険者グループ”星月巡り”を加えた16名が探索チームとなる。
事前調査によって大まかな構造と施設の配置は偵察済みであり、建築様式と設計思想から構成を類推したスノウ=フェリアは探索計画を立案する。
メインコントロールタワーへ入るためには、別々の2か所に存在するゲートを同時に起動させなければならない可能性が高いため、16名を2つのチームに分け、
出発前のセレモニーで、華やかな祝祭とは裏腹に鉄道卿たちの権力争いを目の当たりにして辟易しつつも、一行は探索の同行者たちと打ち合わせを重ねる。
“紅の紫電”イオーレ=ナゼルは、400年以上前でその後に《大破局》を挟んだとはいえ、世界を救った聖戦士たちの戦いが現在にほとんど伝わっていないことに不満を漏らしていた。
ヴィオラの諫言を煙たく思いながらも、タージの解放を成し遂げた暁には、力に溺れることなく世界を護るための英雄で在りたいという希望を語っていた。
また、"星月巡り"一行との冒険を通じて自分が未熟なことを痛感し、今もまたそうかもしれないが、必ず英雄として立ち、自分を助けてくれた人に恩を返したいとも宣言した。
“迅雷卿”ディード=スレインは、国元のハーヴェス王国、そして妻のレイラとのやり取りを一行に明かした。手紙によれば蛮族によって滅ぼされた隠れ里の娘、クリスは立派に成長し、自らの祖先が手にしていた聖戦士の神器を探索するため、冒険者として旅立ったようだ。自分もまた自由に憧れ、地位や立場を顧みなかった頃もある。単身遠国へ渡る特務を受けたのも、まだ自由への未練が残っていたが、妻にはそれを見透かされており、同行の相談すらしなかったことが夫婦の不仲の一因となっていたことを吐露した。
“聖剣の護り手”ヴィオラ=カルティは聖戦士たちと魔神王の戦いから《大破局》までの約100年の世界の雰囲気を掻い摘んで語った。聖戦士たちは、”魔神王を倒して世界を救う”という点において間違いなく一致団結していたものの、その後の世界に何を求めていたかはバラバラだった。特に、「争いのない世界をどう実現するのか」というテーマを巡って、ヴィオラの師匠の”剣聖”クラウゼと、聖戦士たちの頭脳役であった”賢者”オーブレイは激しく議論していた遠い記憶があるようだ。
“金瞳の魔女”スノウ=フェリアには、神殿関係者との衝突を辞さないのは何故か、何故タージ探索には協力するのかといった理由を尋ねた。彼女は人の自由意志というものを何よりも尊んでいるようで、神あるいは絶対者に世界と自分の在りようを定められるのが我慢ならない、と答えた。人の探索心に終わりはなく、秘境と言われる巨大遺跡の探索は人族の意思に沿うものなので協力する、とも言った。お人好しなサフランはすっかり感心していたが、多くの人間を観察してきたセルゲイには、彼女にはまだ隠していることがあるように思えた。
旅立ちの時。飛空艇に乗り込み、黒い月を目指す。そのままでは単に向こう側の空に抜けるだけだが、イオのような”資格あるもの”がいれば、黒い月の向こうには巨大な空中都市が姿を現すという。
果たして、タージはその全貌を現した。念話で、3名の”資格あるもの”を確認したという情報が伝わった。
3名という人数に違和感を覚える。おそらくイオ、ヴィオラの2名は間違いないとして、神器は持たないが聖戦士の末裔たるパルフェタ=ムールと、解放されてはいないが聖戦士の武器である、ディードの持つ”蒼玉の剣”グレイプニルを合わせて1名分だという結論にその時はなった。
事前の計画通り一行は二手に分かれ、探索を開始する。
手付かずで命令待ちの魔動機、どれほどの備蓄があるのか想像もつかないほどの魔法の品物の数々。それは正に宝の山であった。
メインコントロールタワーを目指す探索の中、400年前の戦いの記録を目にする。12人の聖戦士と、彼らが手にしていた武器の正確な記述が残されていた。
聖戦士達のリーダー、”勇者”ライフォスは、確かに”はじまりの剣”ルミエルを手に魔神王と戦ったという情報が残されていた。
また、最後の戦いで12人の聖戦士は半分が死亡、半分が生き残ったようだ。生存者は”賢者”オーブレイ、”白騎士”ティダン、”炎使い”グレンダール、”剣聖”クラウゼ、”魔導機師”オルエン、”聖女”ハルーラの6名。ユーシズ魔導公国でヴァンデルケン大公から聞いた情報とも一致する部分が多いため、これは真実なのだろうと一行は判断した。本当にルミエルは失われてしまったのだろうか。
入り組んだ通路の整理と探索、閉ざされたゲートを開くための謎解き、ガーディアンとの戦闘を乗り越え、ドラコ=マーティンら6名にイオ、スノウを加えたチームはメインコントロールタワーへと辿り着いた。イオは神器を持つ聖戦士の末裔として認識され、システムの再起動を試みる。
再起動が成功し、タージ全体に300年ぶりの火が灯ったとき、事件は起こった。
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そのとき、乾いた音が鳴り響いた。イオの身体がびくんと震え、彼女は膝をついた。左胸から血を流している。彼女は信じられないという面持ちで皆の方を振り返った。その瞬間2度目の銃声が鳴り、イオは首筋を撃ち抜かれて大量に出血し、その場に倒れ伏して動かなくなった。
「そう、あなたは本当にイーヴの子孫だったの…残念ね」
銃をホルスターに収めた、凶行の主たる魔女は冷たく言った。
ーセッション内描写より
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スノウがイオを銃撃した。
セルゲイが駆け寄りイオを助け起こすが、彼女は既に死亡していた。さらに、混乱に拍車をかけるような情報が別動隊のシアンから”通話のピアス”を通じて知らされる。
スノウが個人で持つ飛空艇”リ=クロス”がタージに接舷し、内部から”しろがねの姫”アスタローシェ、その父親”蛮族王”ムーレイズを含む蛮族の軍団が下船してきたと。
そして、現場に単身駆けつけてきたヴィオラは状況を把握すると、リーダーのドラコ=マーティンにイオを連れて逃げるように強く指示した。ドラコは操霊術師であり、《リザレクション》の魔法でイオを生き返らせることが出来る。
「すぐにイオを連れて逃げなさい。あの魔女と戦えば、あなた達は皆殺しになるわ。ドラコさんの鎧だって、彼女の銃は容易く貫く」
「姿が変わっていたとはいえ、どうして忘れてしまっていたのだろう。彼女の本当の名前は、オルエン=ルーチェ。……”最後の聖戦士”よ」
弟子のライエルはオルエンと戦おうとする師匠を案じるが、ヴィオラは重ねて強く脱出を指示した。
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「ライエル、良く聞いて…あなたの剣は、敵を倒すためではなく、誰かを護るためにある。それを忘れないで!」
ライエルは直感する。ああ、もう師匠からの教えはこれで最後なのだと。もう師匠と会うことはないのだと。そして、その最後の言葉の意味を自分は背負い、考えていかなければならない。
ヴィオラは凶行の主、聖戦士オルエンと対峙する。
「我と吾が名よ、我に力を!汝は”聖心の剣ティルフィング”。世界に平穏を齎すものなり!」
ヴィオラの持つ古びた剣が輝きを取り戻し、美しい聖剣へとその姿を変える。ライエルはそのレプリカの姿を奈落の魔域で見たことがある。聖戦士の神器。その光を伴う存在感を前に、スノウ、いやオルエンは穏やかに笑った。
………まるで、懐かしいものを目にするかのように。
「聖剣を抜いたか…クラウゼの足手まといが、偉くなったものね」
ーセッション内描写より
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一行は2名の戦いを尻目にコントロールタワーを脱出。別動隊が脱出艇を確保しており、ディードの案内で急行する。
起動した防衛機構と多くの魔動機が行手を阻むが、その動きはどうにも散漫だ。聡明なサフランはその違和感の正体に気が付く。命令通りに動く魔動機たちは、遠慮している。自分達ではなく、死体となったイオに対して。
「そうか、ヴィオラ殿がそんなことを…わかったぞ。イオはこのタージの”管理者”として登録されたんだ。俺たちがもう一度タージに戻ってくるために彼女が必要になる!この世界を蛮族の支配する世界にしないためにも…お前たちは必ずイオと共に脱出するんだ!」
ディードの先導と献身により、脱出艇まであとわずかというところで、巨大な防衛機構による足止めを受ける。
===ボス戦闘===
レイルウェイカノン
スタースナイパー*3
ザーレィドルン
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防衛システムと戦闘中に、さらに蛮族からの挟撃を受ける。どうやらイオの存在は都合が悪いようだ。”しろがねの姫”アスタローシェと”黄鉄鉱の”ビュリが上空から強襲を行ってきた。
「愚かな人族どもよ。その赤毛の女を置いていけば、命だけは見逃してやろう!」
「アストよ、見逃す気もない癖に良く言う。吾輩は何も言わぬぞ。今回は交渉の余地はない。お前たちと矛を交えるのは初めてだな。嬉しいぞ冒険者ども。吾輩の力を見せてやろう!」
===敵追加===
ドレイクバロン(竜形態)
ディアボロルテナント(魔人形態)
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レイルウェイカノンの砲撃や上空から襲い来るブレスをしのぎ切り、防衛網を突破した一行は、命辛々脱出艇へと逃げ込む。船を操作しタージから飛び立つ。そこは、コルガナ地方、奈落の壁の上空であった。遥か眼下には、冒険者ギルドの本部が小さく見える。
“星月巡り”のリーダー、ドラコ=マーティンは、死亡したイオに対して《リザレクション》の魔法を使用する。イオは生き返るが、銃撃で首元の宝玉が砕かれていた影響なのか、イオは自分のこと、仲間のこと、今までの冒険のことまで、全ての記憶を失っていた。
そのとき、タージの土台部分に組みこまれた巨大魔導砲が起動し、壁の向こう側の黒い海と、壁に隣接する冒険者ギルドの本部を砲撃する。その余波に巻き込まれ、脱出艇は墜落。一行は意識を失った…
第二部完、第三部へ続く。
【今回の登場人物】
セッション参加キャラクター
ドラコ=マーティン(コンジャラー9)
セルゲイ=ゲラシモア(アルケミスト9)
ライエル=クラージュ(ファイター9)
サフラン(ソーサラー9)
マリア=エイヴァリー(フェンサー8)
パルフェタ=ムール(フェアリーテイマー9)
“紅の紫電”イオーレ=ナゼル
愛称イオ。紅い髪を三つ編みにしたティエンスの少女。12人の聖戦士のひとり、聖騎士イーヴの末裔にして”守護の斧”スワンチカの継承者。自分に諫言するヴィオラを煙たがり、所帯を持つディードに好意を寄せてしまうなど相変わらず未熟な面が垣間見えたが、持ち前の前向きさと快活さで周囲をポジティブに巻き込んでいった。自分の理想とする、人を守る英雄となるため進み続けた彼女はついにタージの再起動を成功させる。しかしその直後、スノウの銃撃を受けて死亡し、ドラコの
タージをコントロールし得る者でありながら、記憶を失ってしまったことで、彼女の運命は大きく狂っていくことになる…
“迅雷卿”ディード=スレイン
本名シン=シャイターン伯爵。ハーヴェス王国の騎士団長。”蒼玉の剣”グレイプニルの所持者だが継承は出来ていない。ヴィオラを正しき英雄として尊敬する一方、利用されることに無自覚なイオを苦々しく思っていた。多くの者から正しき心を持つ戦士として慕われる一方、彼の騎士としての心は、常にハーヴェス王国とヴァイス王のためにあり、自らのために動くことに羨望は感じつつも諦観していた。任務が終わればハーヴェスへ帰還しレイラとまた夫婦として生きる希望を語っていたが…
タージが蛮族に奪われる最悪の結果となり、彼は世界を正しく導くための騎士として戦い続けることを強いられる。その先にあるものは…?
“聖剣の護り手”ヴィオラ=カルティ
12人の聖戦士のひとり、剣聖クラウゼの弟子。”聖心の剣ティルフィング”を継承するエルフの老剣士。魔神王打倒後の世界を聖戦士たちから託された世代でありながら、残された力を扱いきれず《大破局》を止められなかった後悔が強く、タージ解放を目指すイオやキルケーに苦言しては煙たがられていた。それでもイオの前に進むポジティブさは認めており、運命が善き方向に流れることを願っていた。
だが、タージは蛮族に奪われイオは死亡。タージの管理者として登録されたイオを脱出させるため、そして蘇生手段を持つ”星月巡り”のドラコ達を逃がすため、彼女はひとりスノウとの戦いに臨んだ。
弟子のライエルは、もう彼女と生きて会うことはないという直感を抱いてしまうが、その戦いの結末はどうなったのか、不明のまま。最後の教えを、果たしてライエルは正しく会得することが出来るだろうか…?
“金瞳の魔女”スノウ=フェリア⇒”最後の聖戦士”オルエン=ルーチェ
不吉の象徴とされる金色の瞳を持ち、大陸でも一二を争うとされる魔動機師。タージ探索のアドバイザーとして一行に同行した。自分の運命は自ら決めるという強い信念を持ち、大義の為に己を殺すディードを嘲り、愚かながらも未来を自分で掴もうとするイオを評価していた。その知識は第一人者と目されるに相応しいものであり、タージ探索の主導者として期待をかけられていた。
だが、タージのコントロールタワーを解放したとき、彼女はイオを銃撃で殺害、”しろがねの姫”アスタローシェを含む蛮族たちを自らの飛空艇を利用して招き入れた。その正体は、かつて魔神王を倒した12聖戦士の最後の生き残り、”魔動機師”オルエンであった。聖剣を抜いたヴィオラとの対決に臨むが、その決着は不明。イオを殺すときに見せた憐憫の表情は、かつての仲間の子孫であったからか、それとも…?
【次回予告】
あの日から、世界は変わってしまった。
地の底より目覚めし原初の巨人が 世界の地均しをはじめ
天の上より君臨せし太古の都市が 小さき者たちを睥睨する。
人と蛮族と魔神がひしめく大陸の央芯、ランドールにて
彼らを受け入れた竜使いは果たして、この世界を救う勇者か、覇道を進む梟雄か。
信じ合えぬ人を嗤う、世界の理を知る魔王の巫女を前に
幼き日の記憶を辿る純心は、この世界の悪意を覆い隠すことが出来るのか?
ソード・ワールドRPG第三部第1話「楽園の東より」
冒険者たちよ、剣の加護は汝と共に。
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