第二部第4話「出来損ないの英雄」
ある日のこと、”星月巡り”たちを訪ねて来たのは”守護の斧”スワンチカの入手を巡る冒険で邂逅した”迅雷卿”ディード=スレインであった。
彼の正体はハーヴェス王国の騎士団長シン=シャイターン伯爵。タージ探索に関してキングスレイ鉄鋼共和国との協力関係を築くパイプ役としてロビー活動を展開していたが、野心家の”マナタイトの魔女”キルケー=ランカスターがキー要素を独占することを危惧していた。
聖戦士イーヴの末裔である”紅の紫電”イオーレ=ナゼル、探索の第一人者”金瞳の魔女”スノウ=フェリアのほかにもう一人、キルケーの影響下にない人物をタージ探索のスタッフに加えなければならない、というディードの主張は、一定の納得が出来るものであった。
ディードとライエルは相談の末、ライエルの剣の師匠であり、聖戦士クラウゼの弟子であった”聖剣の護り手”ヴィオラ=カルティに協力を仰ぐ方針を固めた。ヴィオラとは一年前にブルライト地方で別れたあと会っていないが、蛮族の動きを追ってドーデン地方に来ているのは間違いないようだ。
ライエルは別れの時に取り決めておいた符丁を用いて、師匠との再会を模索する。各地の冒険者ギルド支部の情報網を利用して符丁を撒いた結果、約半月の後にキングスレイの地方都市ヒスダリアの冒険者ギルド支部から反応があった。
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「そうか、あの御仁はまだ弟子を取っていたのか。彼女は高名な割に、あまり人と関わらなかった印象があるが」
「俺が傭兵稼業で離れている頃に、故郷が蛮族に襲われまして…行方不明になった俺の姉と、師匠は知り合いのようでした。その縁で剣を教えてもらったんです」
ーライエルとディードの会話より
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ヒスダリアに向かった一行は、ヴィオラらしき冒険者が依頼を請けて、近隣のヒスドゥール浮遊岩跡湖に浮かぶカタン島に向かったことを知る。依頼の内容は「封印された伝説の武器を回収してほしい。蛮族が狙っている」というものだが、不審な点があり、ライエルはこれが敵の罠ではないかと予感する。
島に渡り探索を開始するが、わずかな集落があるだけの孤島という情報とは裏腹に、強力な怪物やアンデッドが徘徊しており、只事ならぬ雰囲気を感じる一行。
馬を持つディードは島内の集落に危険を知らせるため単独で先行する。一方、”星月巡り”一行はわずかな足取りを追い島の奥地へと足を踏み入れる。
戦闘の跡を探索すると、そこで発見したのは見覚えのある蛮族の死体。その正体はスワンチカを巡って争ったケバラウラ、”蛇目石の”ギリアムであった。
死体の傷は魔法によって付けられたものが多いように見えた。この島にいるはずのヴィオラの手によるものとは考え辛く、ますます状況は不透明に。
さらに幾度かのトラブルを乗り越えて探索を進めたところ、山間の沢を利用した水牢に閉じ込められていた”聖剣の護り手”ヴィオラを発見する。エルフの能力により水責めにも溺れることのない彼女だが、計略によって”聖心の剣”ティルフィングを奪われてしまったという。集落の人々はアンデッド化していたという彼女の証言から、この件はゴケルブルク大公国で一戦交えたシモン=ヴァレリーが絡んでいると予感する。
集落ごと敵の手に落ちているとなると、単騎で集落へと向かったディードが危ない。そう”星月巡り”一行は判断した。水牢に閉じ込められたヴィオラは、道具と時間さえあれば単独で脱出出来るとして、彼女を置いて急ぎ集落へと向かう。
島の集落付近にはディードが搭乗していた馬だけが残されていた。人気のない集落付近で姿の見えないディードを探すが、探索に気を取られる内に”星月巡り”一行はアンデッドを中心とした軍勢に包囲されてしまっていた。
アンデッド隊を率いるのは、レブナント化したリルドラケンの戦士。
彼は、”星月巡り”のリーダー、ドラコ=マーティンの兄、クエルヴであった。クエルヴは故郷を襲ったアンデッドの軍勢から村を守り命を落とした勇者であったが、穢れによってアンデッド化していたのであった。
さらに戦場には、ユーシズ魔導公国で暗躍した吸血鬼、”血髄玉の”ニコルや、ゴケルブルク大公国で戦ったエルフの魔法剣士シモンもおり、必勝の陣形で”星月巡り”一行を待ち構えていたのだ。
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「外れたな…グレイプニルを持っている男がいない。逃げおおせたか」
「そこのエルフの女、見覚えが…フィールではない。別の……ああ!」
「そうか、お前が例の女か。これは都合がいいことだ。《巫女》に辿り着く前に除いておくとしよう」
―"魔界剣士"シモン=ヴァレリー
(※GM注:「例の女」とはこのセッションに「フェローとして」参加していたマリア=エイヴァリーを指しており、該当プレイヤーとのやり取りがなく一方的に話すだけの状況になっています)
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水牢から脱出したヴィオラが合流するまで時間を稼げれば良し、それが叶わずとも、せめてクエルヴだけは不死者の呪いから解放させてやりたいという方針で厳しい戦いに臨む一行。その開戦時にクエルヴは俄かには信じがたい、恐ろしいことを口走った。
人族を守護するはずのはじまりの剣ルミエルは、既にこの世界から失われていると。
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「兄さん、そんな馬鹿な話があるというのか。ならば我々リルドラケンには何故未だに剣の加護がある!?」
「剣の加護とは意思ではなく只の記号よ。世界のルールから外れた人族に未来などあるものか。俺は人の魂の輪廻の頸木から解き放たれたのだ!」
―ドラコとクエルヴの会話より
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包囲戦が始まり、”星月巡り”一行は奮戦するも消耗していく。このままでは全滅もあり得るか、というところで意外な援軍が現れた。
一年前のディガッド山脈におけるタージの封印開放を巡る争いで刃を交えた蛮族たち、”金剛石の”ゼイドと”黄鉄鉱の”ビュリが、蛮族の軍勢を率いてアンデッドの軍団と戦い始めたのだ。
どうやら、シモン達の陣営と蛮族達の陣営は敵対関係にあり、蛮族の陣営にいたはずの”血髄玉の”ニコルは裏切り者として降っていた事情がある様子であった。
包囲が弱まり、”星月巡り”たちはクエルヴ隊との戦いに専念する。
===ボス戦闘===
シモン=ヴァレリー
クエルヴ=マーティン
ワーリングアッシュ*2
ラングガーグナー
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激しい戦いの末、クエルヴは剣と魔法の連携によって討ち取られる。ドラコの《クリメイション》の魔法によって焼かれた瞬間、クエルヴの意識が正気に戻った。
「ぐふう、ドラコ、すまない…愚かな兄を許してくれ…だが、先ほどの言に偽りがあったわけではないのだ。この世界の人を護るルミエルの剣は既にこの世界にはない…だが、なにか、なにか方法が…!」
その時、シモンの放った恐ろしき
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「わ、私たちはお前たちの
「ニコルの内偵の時にドジを踏んだようだな。弱い奴、失敗した奴は死ぬ。それだけのことだ。俺たちは、お前ら人族と違って葬儀などせん」
「(うわぁ…蛮族ってこれだから)」
「だ、だけど、お前たちはニコルが裏切ってたことをドレイクの姫に報告しなきゃいけないだろう、ケパラウラは魔法で殺されてた、死体を持ち帰らないとそのことが証明できないぞ!」
「それに、すごく強い剣士がこっちに向かっているんだ、お前たちはすぐに立ち去らないと聖剣で輪切りにされちゃうんだから!」
ーセッション内より
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サフランの必死の弁明は“黄鉄鉱の”ビュリにはまだ話が通じ、彼らにギリアムの死体の場所を教えることを交換条件に、蛮族達は戦場から去っていった。ヴィオラの奪われた聖剣はクエルヴが持っており、取り返すことが出来た。
馬を失い負傷しながらも一時撤退に成功していたディード、幽閉状態から脱出したヴィオラが程なくして合流し、《キュア・ストーン》で石になったライエルとドラコも元に戻ることが出来た。その場で改めてヴィオラにタージ探索の協力を要請する。
だが、ヴィオラはすぐには首を縦に振らなかった。空中に浮かぶ戦略都市タージは、300年前の《大破局》のキー要素の一つであったというのだ。
ライエルやサフランの頼みで、ヴィオラは語り始めた。《大破局》の原因を。
《大破局》に先立つこと100年余り、
400年以上前に魔神王が復活し、世界に危機が訪れた時。
8柱の神々がこの世界の人族の英雄たちの肉体を借りて受肉した。
4名の人族の英雄たちを加え”12名の聖戦士”となった彼らは力を合わせ、奈落から生み出された魔神達と戦った。
そして、”勇者”ライフォスは、はじまりの剣ルミエルの喪失と引き換えに魔神王を倒し、封印した。世界は救われたのだ。
しかしその代償も大きかった。
魔神王は”はじまりの剣”でしか倒すことが出来ず、しかも封印と引き換えに剣が失われる。
この事実に、人族は恐怖した。神代の戦いでカルディアが喪失し、そしてルミエルまで失われた今、はじまりの剣はあと1本しかない。
そして、後の世の人間たちはオーブレイが遺した戦略都市タージを用いて蛮族達を制圧し、最後のはじまりの剣イグニスを奪おうとした。
その結果、蛮族の王ムーレイズ=ドゥルク=アスランはイグニスの力を解き放って人族に牙を向け、あらゆる国家は崩壊し魔動機文明は滅亡。
後に《大破局》と呼ばれることになったと。
《大破局》を終わらせた勇者として伝えられるエルヴィン=クドリチュカはライフォスの人間体の曾孫であり、彼は”オーブレイの遺産”を全て封印し、蛮族にその力を振るわないことと引き換えに、蛮族が持つ最後のはじまりの剣イグニスの力もまた、人には振るわないという盟約をムーレイズと交わした。この出来事が後世変化し、伝説となったという。
ここまでをヴィオラから語り聞かされた”星月巡り”一行であったが、リーダーのドラコ=マーティンは違和感を指摘する。蛮族達はタージの起動キーを奪ったり、聖戦士の武器を集めたりなど、明らかにタージを手に入れる方向で動いており、封印の盟約を破棄してオーブレイの遺産を手に入れようとしていること。ヴィオラもこれまでドーデン地方で蛮族の動きを探っており。同様の意見であった。
最終的に、諸々の不安はあれどタージを蛮族の手に渡すわけにはいかないという結論となり、ヴィオラはタージの強大な力を人は再び制御できるかどうか、一行に協力することで見極めると語り、探索への同行を表明した。
全てのピースは揃い、いよいよ空に浮かぶ都市へ続く運命の扉が開かれようとしている。その向こうにあるものは、果たして…?
【今回の登場人物】
セッション参加キャラクター
ドラコ=マーティン(コンジャラー8)
ライエル=クラージュ(ファイター8)
サフラン(ソーサラー8)
“聖剣の護り手”ヴィオラ=カルティ
種族:エルフ 性別:女性 年齢:420歳
第一部第3話「聖剣の護り手」から登場。
ライエルの剣の師匠である高名なエルフの老剣士。かつて魔神王と戦い世界を救った12人の聖戦士の一人"剣聖"クラウゼの弟子であり、クラウゼが使っていた”聖心の剣ティルフィング”を今も保持し続けている。
《大破局》の原因を知っており、聖戦士達からこの世界を託された世代でありながら《大破局》を止めることが出来なったことを深く後悔している。
タージ解放には消極的でキルケーのことも信用はしていないが、タージを正しく扱うことに希望を持ち、探索に協力することを同意する。
“迅雷卿”ディード=スレイン
種族:人間 性別:男性 年齢:28歳
第二部第2話「女の形をした刃」から登場。
本名シン=シャイターン伯爵。ハーヴェス王国から派遣された元騎士団長で、レイラの夫。タージ探索の鍵となる要素をキルケーが独占することを警戒し、タージに辿り着く条件を満たしている(聖戦士の末裔もしくは聖戦士に認められた者及び、聖戦士が使っていた武具を所持する)”聖剣の護り手”ヴィオラに協力を要請することで歯止めとなるよう画策する。
自身も聖戦士の武具のひとつ”蒼玉の剣グレイプニル”を持つが、ヴィオラやイオと違いその力を解放することは出来ていない。
"魔界剣士"シモン=ヴァレリー
種族:エルフ 性別:男性 年齢:100歳
第二部第1話「イノセント・ワールド」から登場。
”魔王”ゼガンの意を汲み人々をアンデッド化する活動を行うテロリスト。
“魔王”一派は世界からはじまりの剣が失われていることを知っており、既に人を守護する剣のない世界で人は滅びの道を歩む他ないとしており、剣の加護と魂の輪廻から人々を「解放」して回っているとうそぶいている。
計略によってヴィオラを沢の洞窟に幽閉し、その間に”星月巡り”を包囲。戦いを有利に運ぶが蛮族連合の介入により形勢が傾き撤退。
“黄鉄鉱の”ビュリ(ディアボロルテナント)
“金剛石の”ゼイド(ダークトロールアデプト)
共に第一部最終話「しろがねの姫を討て」から登場。
蛮族連合の幹部。蛮族連合を裏切って魔王一派に鞍替えした”血髄玉の”ニコルを粛清するために島を訪れ、”星月巡り”とシモンら魔王一派の戦いに介入した。
戦闘が終わった時にまともに戦闘能力が残っていたのは彼ら二人と魔術師のサフランのみであり、戦いになればサフランが危険なことは間違いなかったが、ニコルの粛清という目的を果たしたこともあり、サフランの決死の説得に耳を貸した上で撤退する。
クエルヴ=マーティン(ハイレブナント)
“星月巡り”のリーダー、ドラコ=マーティンの兄。彼らが育った里を魔王一派のアンデッドが襲った際にドラコを守って死亡。その死はドラコが冒険者となった原因となる。死んだものと思われていたがハイレブナントとして蘇っており、魔王一派の尖兵としてシモンに手を貸していた。
最期はドラコの《クリメイション》によって不浄の魂を焼かれたのか、滅びる直前に正気を取り戻す。その際、この世界から人族を守護するはずのはじまりの剣、ルミエルが既に失われていることを遺言として残した。
“血髄玉の”ニコル(レッサーヴァンパイア)
第一部第4話「旧世界より」から登場。
蛮族連合の幹部のひとり。しかし、彼はリーダーのアストを裏切り魔王一派へと鞍替えし、情報を流していたようだ。内偵を進めていた”蛇目石の”ギリアムを殺害することに成功するが、その仇とばかりに”黄鉄鉱の”ビュリ及び”金剛石の”ゼイドとの戦闘に巻き込まれ、形勢不利で逃亡しようとしたところを彼らによって討ち取られる。
“蛇目石の”ギリアム(ケパラウラウラ)
第一部最終話「しろがねの姫を討て」から登場。
蛮族連合の幹部のひとり。スワンチカを巡る戦い(第二部第2話)では、リーダーのアストと共に”星月巡り”を敗北させるほどの実力であったが、蛮族連合を裏切ろうとしていた”血髄玉の”ニコルの内偵調査を進めていたところ、ニコルに感付かれ襲撃を受けて死亡する。
【次回予告】
其の為に、遥か雲路を目指していた。
遠い過去にある自らの存在意義を。
普く在る世界を正しく導く力を。
遥か未来に届く遺産を御すことを。
自らが求むる世界を現すことを。
嵐吹く空を翔け、黒い月の裏を乗り越えた先に
世界を変える、運命の扉はある。
神々の去りし地で、小さき人々が手に入れるものは
先人が遺した大きな知恵と、賢しき希望なのか。
いま、彼らの物語は大いなる転換を迎える―――
ソード・ワールドRPG第二部最終話「遥か雲路の果て」
冒険者たちよ、剣の加護は汝と共に。
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