第一部第4話「旧世界より」
"太陽石の"アスタローシェら、蛮族の軍団によるディガッド山脈隠れ里の襲撃(第一部第2話「緋色の魔の手」より)を、ハーヴェス王国の首脳部は重く見ていた。
特に、隠れ里に経済的な支援を行ってきたブロフィード公爵家の主張を受け入れたハーヴェス王国の”導きの王”ヴァイス=ハーヴェスは、公爵家当主のトーラス=ブロフィード公爵を全権団長とする外交使節団を、西方のユーシズ魔導公国に派遣することを決定した。
ユーシズ魔導公国の公主、”東の魔女”ヴァンデルケン=マグヌス大公は、千里眼を持つと知られる識者だ。大公は《大破局》以前から生き残っている数少ない公人であり、《オーブレイの遺産》の正体や蛮族の目的を知っている可能性があり、意見を伺うのが使節団の目的だ。
だが、ヴァイス王の妹、”梯の姫”アイリス=ハーヴェスは憂慮していた。ヴァイス王は英邁だが若年で政治的基盤が弱く、特に使節団の団長トーラス公爵は反国王派の筆頭とされている。兄王に正確な情報が伝わらないことを危惧したアイリス姫は、一計を案じた。
計とは、トーラス=ブロフィード公爵の娘、レイラ=シャイターン伯爵夫人を外交使節団に編入させ、その護衛を自らの息のかかった冒険者達に任せるというものである。
レイラ伯爵夫人の夫はヴァイス王の忠臣だ。彼女がバランサーとして存分に活動できるよう、護衛として隠れ里襲撃時の当事者であった”星月巡り”一行に白羽の矢が立った。
レイラ=シャイターン伯爵夫人は、アイリス姫の紹介で自らを護衛する冒険者一行に少々意地悪なテストを課すなど、上級貴族特有の傲慢さを感じる人間であったが、一方でアイリス姫の意を正確に汲み、誠実に役割を果たそうとする才媛であり、王族出身のパルフェタ=ムールは彼女に好感を抱いた。
トーラスやレイラを含むハーヴェス王国の文官貴族3名、武官騎士1名を外交使節団の中心として、その他に貴族の身の回りを世話する召使4名、使節団と非戦闘員を護衛する冒険者10名という大所帯で、彼らはハーヴェス王国を発った。トーラス卿を護衛する冒険者は、ハーヴェス王国でもトップクラスの冒険者グループ、”疾風の巨人”デューイ=ナハトをリーダーとする”星光の塔”であった。
護衛団の他のパーティーや召使たちの噂話から、使節団の力関係や派閥情報の一部を入手したところによると、武官騎士はまだ若年で影響力はなく、使節団団長のトーラス公爵と財務官のアベル侯爵は政治立場的に対立しており、やはり鍵を握るのはレイラの言動になることを確認した。
旅路の中で蛮族の襲撃などを退けつつ、外交使節団一行はユーシズ魔導公国に到着。宿に逗留しつつヴァンデルケン大公の謁見を待つはずであったが、状況が良くない方向へと動く。
ユーシズ魔導公国側の外交を担当するはずの貴族が暗殺されたのである。ハーヴェス王国から来た使節団の中に、人間に変身できる蛮族や魔神が紛れているのではないかと嫌疑をかけられてしまった。
さらに押し問答の弾みでアベル卿が負傷し外交問題に発展しそうになる。護衛団で協力して一芝居打ったうえでその場を収め、表向きは大公の多忙を理由に足止めされることになる。
“星月巡り”一行はレイラの命を受け、彼女の外交チャンネルとなるユーシズ公国側貴族へ情報を秘密裏に伝達する。マリアやサフランの魔法を駆使して情報戦を展開しつつ、一方で街中で話題になる失踪事件の調査を敢行。
それらの結果、強力な蛮族・ヴァンパイアが裏で手を引き、ハーヴェスとユーシズの外交会談を妨害する意図をもって一連の事件を操っている確証を得る。
ヴァンパイアの実力は高く、”星月巡り”一行が単独で戦うには手に余る。トーラス卿を護衛するデューイ達であれば勝てるだろうが、トーラス卿の護衛を外せば暗殺の危険がある。レイラと冒険者一行は慎重に策を練る。
レイラの決断は我が身を囮としてヴァンパイアを引きずり出し、デューイ達の力で吸血鬼を討つことであった。父親のトーラス卿と仲違いを演出し、どちらかが死ねばハーヴェス王国内部の分裂案件になることを示した上で「より弱く、与しやすい」護衛団である”星月巡り”との信頼関係を損ねるような振る舞いをして見せるなど、自分達を監視しているであろう蛮族に嘘の情報を与える。
護衛を外したように見せたレイラに暗殺者の手が迫る。際どいタイミングで駆け付けた”星月巡り”の目の前には、同じ姿をしてもみ合う2人のレイラがおり混乱するが、オリヴィエの《ディテクト・フェイス》の魔法で本物を看破し、偽物―”血髄玉の”ニコルと名乗るヴァンパイアとの戦いを開始した。
===ボス戦闘===
レッサーヴァンパイア
ブラッドサッカー*2
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吸血鬼たる“血髄玉の”ニコルは手強く、レイラを守りながら戦うのは困難の極みであったが、既に”星月巡り”は、護衛団の中でも一番の腕利きのグループ”星光の塔”との間で援護を請う符牒を秘密裏に取り決めていた。
しばしの時間稼ぎの後、トーラス卿を伴った”疾風の巨人”デューイ=ナハトら”星光の塔”が援軍として到着する。罠に嵌ったことを悟った”血髄玉の”ニコルは撤退を開始するが、トーラス・レイラの護衛を”星月巡り”に託すと”星光の塔”の3人は追撃を開始する。
===戦闘変更===
ブラッドサッカー*2
ランタンヘッド
ブラッドリング*2
====
戦闘が終わるとデューイらも戻ってきた。ヴァンパイアのニコルは霧に変化して逃げたものの、両腕を斬り飛ばされるなど深手を負った。一部始終をユーシズ魔導公国の上層部が見ており、ハーヴェス王国側の疑惑を晴らすことが出来る見込みとなった。
嫌疑の晴れたハーヴェス王国外交使節団一行は、”東の魔女”ヴァンデルケン大公と謁見する。ディガッド山脈に伝えられていた竜玉のオーブは、400年以上前の魔神王との戦いの折、12人の聖戦士のひとり”賢者”オーブレイが造り上げたとされる、空に浮かぶ戦略都市タージの封印を解く鍵であるとヴァンデルケン大公は知見を示した。
ザムサスカ地方に本拠を構える蛮族の王ムーレイズはアスタローシェの父親であり、彼はタージの封印を解くための施設がディガッド山脈にあることを知っている可能性が高く、蛮族たちは再びアスタローシェを遣わすだろう。
“東の魔女”ヴァンデルケンはここまで話すと、功を挙げた護衛団にも質問を許した。
“星光の塔”のリーダー、”疾風の巨人”デューイ=ナハトがまず質問する。
「俺たちは、かつての《大破局》のとき、蛮族の王を倒し世界を救った勇者エルヴィンが使っていた伝説の剣、”ゼクスヴィルム”を探索しています。勇者エルヴィンは敵を倒したあと、どこへ旅立ったんですかね?」
「……私は全てを知っているわけではありませんが、お教えしましょう。勇者エルヴィンは蛮族の王を倒してなどいません。彼はウルシラの地で最期を迎えたことは知っています」
“星月巡り”にも質問の順番が回ってきた。パーティーの頭脳役、サフランは熟慮の上で質問する。
「聖戦士の碑文(第一部第1話「聖戦士の詩」より)によると、12人の聖戦士の中に、神様の名を冠していない者が4人います。彼らのことを教えてください」
「4人は、受肉した神々ではなくその前から魔神たちと戦っていた人族の英雄たちです」
「”賢者”オーブレイはタビットの男性です。戦略都市タージを作り上げ、碑文でも主神ライフォスの次に来るほどの功労者のはずですが、私が生まれたころ(魔神王との戦いが終わって約70年後)には、既に彼の名はタブーのような雰囲気でした。それが何故かはわかりません」
「”竜騎士”ノヴァはリカントの女性です。誇り高く相棒の竜を愛した女性だったようです。魔神王との最後の戦いで命を落としたと聞いています。彼女の死後、彼女の使っていた伝説の槍を巡って何らかの争いがあったようです」
「”剣聖”クラウゼは人間の女性です。人を守ることを是とする優しい方で、魔神王との戦いも生き残りました。その後は病気で死去し、彼女の持っていた”聖剣”は彼女の弟子のエルフが引き継いだようです」
「”魔導機師”オルエンはナイトメアの女性です。信念に生きる強い女性でしたが、それ故に世界の在り方を思い悩むことも多かったようです。魔神王との戦いから約100年後の《大破局》の前後で消息を消し、行方不明となりました」
会談は終わった。蛮族たちは、かつて存在した空に浮かび地を見下ろす巨大戦略都市タージの封印を解こうとしている。前時代の遺産が現代の人族に牙を剥くようなことがあれば、巨大な戦乱となるのは避けられないだろう。外交使節団は”導きの王”ヴァイス=ハーヴェスの名の許に、蛮族の野望を阻止することを宣言するのであった。
決戦の時は迫る。
次回へ続く
【今回の登場人物】
セッション参加キャラクター
オリヴィエ(フェンサー5)
マリア=エイヴァリー(フェアリーテイマー5)
サフラン(ソーサラー5)
パルフェタ=ムール(フェアリーテイマー5)
レイラ=シャイターン
種族:人間 性別:女性 年齢:25歳
ハーヴェス王国で王室議会書記官を務める貴族。父親は法制度設計で功績のある名門貴族トーラス=ブロフィード公爵。夫はハーヴェス王国騎士団長のシン=シャイターン伯爵。
貴族特有の優越感・傲慢さを感じさせる高圧的な女性だが、大局観の元に私欲に捉われない冷静な判断力と、他人の能力や適性を見抜き人をうまく使いこなす才能を持つ。
父のトーラス公爵が反ヴァイス国王派の筆頭であり、一方で夫の実家は親ヴァイス国王派であるため政治的に難しい立場に置かれている。夫とは上級貴族には珍しく恋愛結婚であったが、何か事情があり屈折した感情を持っているようだ。
蛮族によって滅ぼされた隠れ里の村長の孫娘クリスを引き取り、武術や魔術の高等教育を施している。
“梯の姫”アイリス=ハーヴェス (※公式NPC)
種族:人間 性別:女性 年齢:14歳
ハーヴェス王国の国王ヴァイス=ハーヴェスの同母妹。若年だが周辺貴族の人気を博すカリスマ性と高い政治的センスを持っており、英邁だが政治的基盤が弱い兄王を良くサポートしている。今回のユーシズ魔導公国への外交使節団派遣に関して、派閥の力関係を中和するため奔走する。本来は自身が同行するつもりであったが、別件でミラージ共和連邦への外遊職務があったため、名代としてレイラを指名した上で、その護衛に”星月巡り”一行を配置するよう図らう。
冒険者グループ”星光の塔”
“疾風の巨人”デューイ=ナハト、”砂漠の猛虎”クリシュナ=カーン、”慈愛の盾”レイカ=ルドルの3名からなる、ハーヴェス王国でもトップクラスと評判の冒険者グループ。
ハーヴェス王国上層部にもその勇名は轟いており、外交使節団長トーラス=ブロフィード公爵の護衛として指名された。10名からなる護衛団のリーダー格として、また良き兄貴分として、”星月巡り”を含む他の冒険者グループとも良好な関係を築き、吸血鬼を撃退するなど仕事を完遂した。
《大破局》を終結させたと伝えられる英雄エルヴィンの佩剣”ゼクスヴィルム”を探しており、大魔導公ヴァンデルケンに英雄の没地を尋ねたが、「勇者エルヴィンは蛮族の王を倒していない」と告げられ困惑する。
“東の魔女”ヴァンデルケン=マグヌス (※公式NPC)
種族:エルフ 性別:女性 年齢:300歳以上
ユーシズ魔導公国を治める大公。千里眼を持ち世界で起こるあらゆるものを見通すと噂されており、怖れを込めて”東の魔女”という二つ名が付いている。本人はその噂を過大な迷信として、自身は力無き一介の君主と謙遜する。しかし、魔導機文明を滅ぼした300年前の《大破局》の前から生き残っている国家元首はアルフレイム大陸において彼女ひとりであり、各国首脳からその見識を求められることが多い。400年前に魔神王を倒した聖戦士たちのうち、数人と直接面会した経験もあるようだ。
“忘れられた都市”タージ
12聖戦士集結の地であった地方都市タージを、”賢者”オーブレイが街ごと作り替え、空を飛び地を討つ巨大な戦略都市としたもの。聖戦士たちはこの都市と共に、アルフレイム大陸北の果てにある奈落の壁の向こう側へ突入し、魔神王との最後の決戦に赴いたと伝えられる。
タージは戦いの後封印されていたが、その封印を解く鍵・竜玉のオーブは聖戦士の一人”白騎士”ティダンの一族が守っていたと伝えられる。
これらの情報から、第一部第2話に登場したクリスは、”白騎士”ティダンの子孫である可能性が高いと思われる。
竜玉のオーブを使用するための施設は、ディガッド山脈にあるとされている。
【次回予告】
かつて魔神王を倒すために造られた”忘れられた都市”タージの復活を巡り、
“太陽石”のアスタローシェ=アスランを中心とする蛮族たちは再びいにしえの禁域を訪れる。
最果ての街、”白銀の槍”ダイケホーンをさらに超え、荒風吹きすさぶ霊峰コルッツにて
悪夢の先駈けが運命に翻弄される人間を迎え撃つ。
“導きの王”ヴァイス=ハーヴェスの号令の下、
いま、決戦の火蓋は斬って落とされようとしていた…!
ソード・ワールドRPG第一部最終話「しろがねの姫を討て」
冒険者たちよ、剣の加護は汝と共に。
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