第140話 幼女ロイド。

 ごそごそ。


 ごそごそごそ。


 うにゅ。なんだろう……。


 まだ夜中? だよね。


 眠い目を擦ってゆっくりと開ける。


 ああ、ふかふかのベッドにふわんとした掛け布団。肌触りのいいシーツ。

 ほんとこんな寝床、どれだけぶりだろう?

 多分、薄っすらと感触だけ残る前世でしか経験して無いのかもだけど懐かしい。


 思えば前世の世界の事って常識とか本で読んだ事とかは割とキオクに残ってるのに、自分がどんな人間でどんな暮らしをしてきたかってことは凄く曖昧なんだよね。

 でも少なくともフカフカのベッドで寝られるだけの生活は出来てたってことなのかなぁ?

 少なくともあんまり乱暴な性格じゃ、なかったんだろう。

 それは本当にそう思う。


 ふわふわとそんな感慨にふけってだんだん頭がスッキリしてくると、


 ちょっと孤児院のみんなの事が頭をよぎる。

 みんな、どうしてるかな。

 心配してるのかな。

 硬いベッド、べっとりしたお布団。

 うん。みんなにもこんな気持ちのいいお布団で寝かせてあげたいな、とか、そんな事も頭に浮かび。


 ごそごそ。

 またあの音。


 そうだったこの音で起きたんだった。


 ボクはそのままベッドの上で起き上がり改めてゴソゴソ音がしてた所を見てみると。

 クローゼットの所で小さな影が何かしてるのが見えて……。


 マイアさん?

 でも、なんか小さい。


「誰?」


 思わずそう声を出していた。




「ああ、起きたか。悪いな、気持ちよさそうに寝てたから起こさないようにしようと思ったのだがな」


 え?


「どうしたロイド?」


 そこに居たのは小さな少女。ツノがあるから魔族? でも、その顔は……。


 ボクの顔! どうして?


 ごそごそとクローゼットを漁っていたその少女はどうやらアルカ様の子供の時の服? を見つけ、よっとそのワンピースを羽織った。

 パンツ、履いてない?


「流石に昔の子供用のパンツは残ってなかったか」

 と、こちらをみてその子、ニカッと笑った。




「あなた、女の子だよね? どうしてボクの顔してるの!」


 思わず大声を出して。


「サルベージしてみたのさ、お前を」


 え?


「残念ながらインナースペース中何処を探してもロイドの肉体は残っていなかった。インナースペースが融合した時に肉体も完全に融合してしまった感じかな。だからお前のデータだけをサルベージして、再構成してみたのさ」


「って、ひょっとしてアルカ様?」


「ああ、分離が可能になったとしてもお前の身体も必要だろうと思ってな。だがあたしが再構成してみたせいかどうしてもあたしの部分も混ざってしまってな。というか暫くあたしが使うことになる身体だ。これでいいかなって」


「えー。って、アルカ様がそっちって……」


「まあしばらくお前がアルカを演ってくれ。頼んだよ。あたしはアルカの妹って事にでもしておくかな」


 ちっちゃいアルカ様は仁王立ちでカッカと笑い。


 ボクは興奮し過ぎたのかそのままキュウ、っとベッドに倒れこむ。薄れゆく意識の中、アルカ様の笑い声が頭の中に響いていた。

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