第29話 魔界の門。

 キュイ


 キュイ


 上空に見えるのは翼竜か。


 こちらに対して一定の距離を保ちつつ旋回している。



 人なんて彼等にとったらただの餌だし。


 そもそもこんなところに迷い込む人族など滅多に居ない。




 食料品を買い溜めし、あたしのインナースペース収納に収め。


 まあいざとなった時に困るから? ノワの背嚢にも非常食乾燥食料は多少入れてあるけど、ほとんどはあたしが持ってる。


 だいたい本当だったらもっと人数を揃えて来るべき場所だ。


 荷物無しの軽装で来れるような場所じゃないのだから。




 まあ。でも。



 すぐ死んでしまうような弱い人間はやっぱり足手まといだし。


 勇者パーティ並みの人材なんてそうそう揃いはしない。



 あたしの前世のお父様は馬車で旅をしていると、森の奥や魔に近い場所を彷徨っていると、そういう話だった。


 流石に魔界に入るには実力不足だろうから、どうしてもこちら側だけの捜索になるのだろう。


 っていうか、あの時の馬車。


 あれ、お父様だったんじゃ?


 周りにいたのは騎士だけだったから馬車の中で震えていたのかもしれないけどね。


 そういうと、ノワは、あんまり辛辣な事言わないであげて、と。


 まるでお父様の味方みたいな言い方をする。


 それもちょっとふにゃぁなのだけれど。




 まあ。


 あの人たちはどこかでなんとかしてるでしょう。


 あたしが死んだらしいとノワが国王に伝えてくれたおかげでお父様を呼び戻す捜索隊の数が増えたって話だ。


 って、どうしてあたしが死んだって言えるか? って。


 それもまあ夢見でみたみたいな話でごまかした?


 夢枕にあたしが立って、魔王は倒したから、空間の亀裂を直すために結界を張っていたけどもうその力も尽きたから。

 そう話したっていうことにしたのだ。


 で、ノワはそれを確かめに行く。


 マギア・キャッツアイがそこにあれば、あたしが死んだ証拠になる。


 魔王が倒されているのかも確かめるべきと。そう主張して。






 このサマルカンド大森林の最深部、そこにある古龍の泉の底。


 そここそがこの空間の裏側、魔界の入り口。魔界の門。


 結界が張られている間はその泉ごと人がはいることは叶わず。


 そしてその結界のエネルギーは王都にいてさえ観測できたのだという。




 さぁ。


 やっとたどり着いた泉の前に立って。



 今夜の月はいつもより大きく感じるなぁ。



 そんな事を思いつつ、あたしとノワは魔界の門に向けて一歩足を進めたのだった。

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