第14話 シルトガント。

 近づいてみると馬車の周囲に人が数人いて、そのまわりをワーウルフの群れが取り囲んでいる。

 どうしよう?


 なんとか追い払えるといいんだけど、ワーウルフはけっこう賢くて話が通じる魔物だった気がするのに。

 こんなふうに集団になって人を襲うなんて普通なかったのにな。



 そう思いつつも、とりあえず。


 魔・ギア 《ガントレット》 ダーク・シルトガントを左手に装着した。


 これなら手加減もできそうだし。



 睨み合っているワーウルフのリーダーらしき男とそれに対峙する騎士。


 ああ、これ、貴族だよね?


 こんな森の中には似つかわしくない豪奢な馬車を護るように数人の騎士が立っていた。


 二頭立ての馬車、だけど、騎士が乗る用の馬は見当たらないか。


 お忍びでこんなところにきてたのかなぁ?



 天空の月がふっと雲に隠されたその瞬間。


 先頭の騎士とワーウルフのリーダーが切り結んだ。


 それを合図に残りのワーウルフがいっせいに馬車に向かって襲いかかる。



 うー。やばいやばい。


 騎士さん無勢で完全に押されている。


 まあしょうがないな。



 あたしは現場に急降下してワーウルフと騎士の間に無理やり割って入る。


 左手のシルトガントでワーウルフを弾き飛ばして隙間を作る。


 そして。



 魔・ギア! 開放!


 ダーク・シルトガントの権能、殲滅のカケラ。


 盾より産み出す黒褐色のカケラ。そのダークネスストームによりワーウルフを行動不能に!



 黒褐色の無数の小石のようなカケラが宙を舞い、ワーウルフ達を包み込む。


 まあ威力は抑えたから細かい傷がつく程度に治るだろうけどね。


 生命力も強いから、死んじゃったりはしないだろうし。




「え? 何が起きてる⁉︎」


 馬車を囲むように舞うダークネスストームに騎士達がたじろぎ動揺してるけどあたしのことは白い幽霊みたいに見えてるかな? たぶん。


 ワーウルフ達は後ろにいたもの達から逃げ出して、前にいたもの達は気絶して倒れ込んでる。


 黒い嵐が収まった所で馬車の背後に倒れているワーウルフは吹き飛ばして置いたから、騎士さん達はここから逃げてくれるといいな。


 ——今のうちに逃げて! 後ろに道を作りました!


 あたしはそうここにいる人全員に聞こえるよう念話を送る。




 騎士達は一瞬躊躇し、そして全員が馬車に乗り込み急いでその場を離れてくれた。


 うん。


 これで一安心、かな。

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