Deep forest

山鳥 雷鳥

前編

 2020年.8月27日 人間は無知ゆえに滅んだ。

 ボロボロになっている手帳にはそう描かれており、それを手に取り読んでいた僕たちには何を言っているのかわからなかった。

 高名な学者が書いたのだろうか、その書かれていたページより前のページを読んでみると、その学者の研究内容や当時の世間や政府の方針などの反論などが手帳に書かれており、所々ページが破れていたり文字が汚く書かれていたり、水に濡れてぼやけて見えなくなっている。


「駄目だな」


 青年はそう言いながらボロボロになった手帳をそのまま放り投げると、茂っている森の中、大きな荷物を背負いながらも首元から掛けている小銃を持ちながら、まるでジャングルのような森の中を歩く。

 

「けれど本当に、ここが日本と思えないよ」


 青年はそう言いながらも、草木が深く生え、森の木の根っこも地面が見えないほど深々と這っており、まるで何事もないように歩いていく。

 そう、ここは日本。和の文化を保有し、独特な文化と歴史を持っていた国。そう、持っていた国。今では文明が残っていることさえも奇跡で、今の日本にはそれがほとんど無かった。いつからか、自然が人間に、文明に反したのだ。森は街へと進出し、海が島を沈め、砂漠が建物を砂と化し、雪が国を埋める。それだけではなく、今までの生物が生物ではないかのように姿を変え、形を変え、人間に対して襲い掛かってきた。

 そのせいか、人間が決めた弱肉強食の体系は、一瞬で崩れ去り、跡形もなくなった。当然それだけではなく、まるでその生物たちも人間に対して復讐するかの通り、人々の大事な街々を破壊し占拠した。日本だけでも百近く奪われ占拠された。

 各国の首都が奪われ、消され、国としての機能を消していった。

 だが人間は、また自然の創造物。絶滅一歩手前で半ば生き残り数少ない人間たちは国を奪った怪物たちに対して対抗作戦を打った。最初は失敗ばかりしていたが、徐々に成功を掴んでいき、人間が今一度、人間の大地を守ることができたのだ。戦線を拡大し、生活できる幅を広げていき、怪物との戦いは拮抗していた。

 けれどもそれだけではいけない。人間はかつての大地をも知らず、場所も知らず、ただ戦線を広げるのは、無能のやること。だからこそ、人間たちは世界を知るために調査偵察隊を組んだ。

 青年もその一人で、だれも行きたがらない虚無の樹海へと進んでいた。


「どうした? 茅野隊員」

「あれ? 佐藤さん? どうしてここに?」


 すると青年が、森の中を歩いていると彼の目の前に、一人の軍人のような女性が立っており、青年、茅野と同じような服装をして、小さなポニーテールが目立ち、その中でも顔には緑色のマスクを着けていた。

 佐藤と呼ばれる女性は、倒れた巨木の幹から降りると、彼の目の前へ歩いてくる。


「何か見つかった?」

「手帳が一つ」

「何が書いてあった?」

「何がって、ただ面白くもない内容でしたよ」

「面白くない内容でもいい。早く教えろ」

「うげ、了解しました」


 茅野は嫌そうな顔をしながらも、佐藤に手帳に書かれていた内容を話す。


「……つまらないな」

「そう、言ったでしょ?」


 手帳の内容に、佐藤は怪訝な顔でそう言うと、茅野は呆れたような顔で体をエビの様に曲げる。

 だが佐藤は、茅野の言った内容に顎に手を付けていると、急に茅野が報告した内容を腕についている端末に入力し始める。


「どうかしましたか?」

「いや、お前の言った報告内容をレポートをまとめているだけだが?」

「うわぁ、まじめぇ」

「お前は不真面目すぎるだろう」


 けらけらと笑いながら見る茅野に対して佐藤は冷ややかな視線で茅野のことを見る。


「あれ? 佐藤さん、そう言えば他の皆は?」

装甲空二輪駆動車オルタギアでA5方面に行って貰っている」

「えー、駆動車使っているの!? いいなー、僕も使いたかったー」

「うるさい。お前に与えるのなら、他の者に与えて有効的に使うわ」

「えー!?」


 佐藤はそう冷ややかなことを言いながら端末に入力する速度を速める。

 茅野はそれに対してブーブー、言っていたが、さすがその状態に癪に触れたのだろう。佐藤は思いっきり茅野の顔面に向かって拳を飛ばす。


「へぶしっ!」


 茅野の顔面に飛ばされた拳は見事にクリティカルヒットして、短い悲鳴を上げながらよろよろと体をぐらつかせる。


「うるさい。黙っていろ」

「ふぁ、ふぁい」


 激怒した佐藤は、茅野の事を強く睨みつけながらジャングルとかした森の中を歩き続ける。


「……あー、いて」

「自業自得ではないのか?」

「そうですかね?」

「そうだな」

「はぁ、本当ですか」


 何気ないつまらない会話をしながらも森の中を歩き続ける。

 足場がきちんとしない場所を彼らは軽い足取りで乗り越え、踏み越え、森を歩く。

 かつて、この森がかつては有名な名前を持つ都会であったことは誰も知らず、今の彼らもそのことは知らない。だけども、何かを探すかのように彼らは歩き続けて、森の中を進んでいた。

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