吸血鬼の黄昏
我々吸血鬼がなんで血を啜るのか、それは血液が完全栄養食だからである。その性質上、我々の消化器官では人間と同じ食事は難しかったのだ。
だが、現代を生きる吸血鬼のほとんどは、野菜ジュースや栄養ドリンク、ゼリー飲料などで生きている。ご先祖様が知れば、
誉れ高き吸血鬼が卑しい物を口にするとは!
と大層お嘆きになるだろうが、私に言わせれば、人の血を啜るなど強盗の所業である。
日光に弱い我々吸血鬼も、近年では稼ぐ手段は多分にある。種族柄、眉目秀麗な我々は人昔前迄ホストやキャバクラなど夜の仕事が多かったが、在宅ワークが増え、プログラマーやITエンジニア、動画配信者にプロゲーマーまで職種は様々。引き篭もり体質の我々にとって、実に良い時代になった。
未だに伝統をを重んじる吸血鬼は、夜な夜な人を拐かし、血を啜る事に誇りを持っているが、そんなものは、無職の無法者に過ぎない。はっきり言って迷惑な事である。永い人生、敵は少ない方が良い。
エクソシストやヴァンパイアハンターに追われ、浪々と暮らすより、安住の地で、栄誉ドリンクで英気を養い、昼夜問わずに日がな一日ゲーム三昧、なんと素晴らしい事だろう!
今の時代を、吸血鬼の黄昏と呼ぶ人がいる、吸血鬼拐かし衰退していると。だが、そんなものは吸血鬼のブランドイメージに囚われた幻想なのだ。長きに渡る黎明の時代を経て、ようやく我が種族に暁が訪れたのである。
“吸血鬼”は終わるのかもしれない、だが、我々には新しい明日が来るであろう。
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