"トリフティー"ゲインの憂鬱(4)
「ギフト……」
1階へ降りる高速エレベーターの中でなんとなく呟いたわたしの言葉に室長が反応した。
「今はそんなに珍しいものでもないだろう、"ギフト"使いは。それに━━」
室長はちらりとわたしを見たが、そのタイミングで扉が開いた。
1階だ。
わたし達はバゲッジルームへと向かう。
「それに、なんです?」
「ああ……いや、この会社にだって能力者は何人もいる。特に開発畑の脳科学に携わる社員はその仕事柄能力者が多い傾向にある」
「精神感応機構の開発に携わるからですか、それってつまり自分たちが被験者になってるってこと……」
ああ、と室長は頷く。少しばかり表情がかたいように見えた。
「それもある。もちろん外部から雇う場合もあるし、脳科学の研究のために能力者自体を外部から集めることもあるがね」
外部から……なんとなくそこにひっかかりを覚えたが口には出さない。
そういえば確か室長も精神感応機構の開発をしているのよね……。
横目で上司を見ながらわたしは訊いた。
「それって室長も……そのう……」
だがわたしを一瞥しただけで彼は答えなかった。
目的地に到着したからかもしれないけれど。
バゲッジルームは壁に部署ごとに別れた縦3×横6個の棚が4つ備え付けられていて、仕分け用のテーブルもいくつか置かれていた。ここにこのビル宛の荷物がすべて集まるというわけだ。
管理しているのはスレンダーなクレアで、30代前半くらいだろうか、いつも若々しい笑顔の素敵な女性だ。今日はブラウスにグレーのタイトスカートで無難にまとめていた。
開発部の社員は基本私服の上に白衣を羽織っているが、わたしはいつもパンツスーツ。財布を持ち歩かないので紙幣はマネークリップ、ポケットには小銭がジャラジャラしてるから、広報部にいた時は男性社員からおまえほんとに女かと言われたことがあった。1度カネゴンと言われたことがあってなんの事かわからなかったのでネットで調べたら、はるか昔にテレビ放送された特撮ドラマに出てくるお金を食べる怪獣の事だった。
人間ですらないわ!
と内心少し落ち込みながらクレアに笑顔で会釈。
無論、室長の分の笑顔を割り増しで。
「あらどうしたのイゾルテ、あらあなた━━」
クレアは室長に気がつくと軽く手を振った。
「倹約家さんがこんなところになんのご用かしら」
室長は無愛想な表情でふんと鼻を鳴らした。
「クレア、キミこそこんなところにいないで開発畑に戻ってきたらどうだ」
「あら、こんなところとは相変わらず失礼ね」
「聞き間違いかな、僕にはキミが言ったように聞こえたが」
「あらあら、倹約のし過ぎで耳から脳みそこぼれ落ちたのかしら?」
「ほう」
え、なんですか急に始まったこのハラハラするやりとり。
「もしかしておふたりってお知り合いなんですか?」
「そうなの、恋人同士だったのよ」
クレアがにこやかに腕をからませたが、室長は氷の眼差しを向けた。
「ただの同期だ、交際した事実もない」
「あら、そういえばそうでしたぁ。でも交際した事実はどうかしらね」
「ない。そしてこんな無駄なやり取りをしてる時間もない」
「わたしにとっては無駄じゃないから大丈夫」
「キミね」
クレアはコロコロと笑いながら腕をほどいた。
彼女、意外とクセのある人でした。
「それで、あなたがここに来るってことは何かあったのね」
「ああ、すまないが防犯カメラの映像を見せてくれ」
クレアは笑みを残したまま両手を腰に。が、その瞳には今度は鋭い輝きが宿っていた。
「どういうこと?」
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