4章 狂った運命と終焉

ミナが話しているところへエクスバースとエクルが来た。

「ハァハァ、やっと…準備…完成…し、ゴホゴホ」

「ちょっとエクスバースさん大丈夫ですか?もしよかったら少し恥ずかしいけど私がやりますよ。」

「いや、いい。ふぅ、もう落ち着いたから大丈夫だ。」

少し心配した有間がエクルに尋ねる。

「いったい何があったんだ。」

エクルが答える。

「あ、お兄様。少しでも話を分かりやすくするようにエクスバースさんがうちの図書室にしまってある記憶や出来事を映像で映し出す装置を持ちに来たのですが急いでいたらしくて移動用のいすを忘れたとか。」

有間は小さい声でつぶやく。

「結局あいつも面倒だとかいつも言っておきながら一番に未離のことを思ってるんだ。だから笑わないでやってくれ。」

「はい、お兄様。では私は図書室に戻っていますね。私も未離さんの近くにいたいのですが、私の性質上そうもいかないので。」

「あぁ、ありがとう。」


「よし準備できたぞ。」

エクスバースのその声でバラバラに休んでいたみんなが集まる。

そして、ミナとミロクが話す。

「まぁ、分かっているだろうけど、話の中に出てきた私はまだ虚無の力を得る前のことだ。」

「あぁ、まぁ俺とミロクが仲悪そうに見えるが実際そうでもない。ここからはかなり過激な内容になるが…ミミは大丈夫か。」

ミミはうなずく。

「あぁ、ならいい。では、この多くの間違った運命が絡み合ったこの悲劇の終末を語ろう。」

「ここからは私も話していない内容だ。私とミナ、特に私の視点で見てくれ。」


未無の心境

 あの名僧ミロクに教わった虚無の力に関しては少し心当たりがあった。虚無の女神は、なるべく近い人物もしくは想い人など関わり深い人物、初代の虚無の女神に外見内面などが近しい人物に伝わっていくらしい。ミロクのところには虚無の女神を受け継いだ子がいたらしい。その虚無の女神は今、その子の姉でありこの町から少し離れた辺境にある家にいる魔女であるらしい。そして俺の心当たりとは、初代の虚無の女神に外見内面などが近しい人物に伝わることだ。それについて詳しく聞いたが、それは明らかに姉に似ている。そこから考えられるのは、最悪の結末だ。未末は今の虚無の女神を始末していって、条件に当てはまる末無に受け継がせ何らかの方法で力を奪うのだろう。しかしだ。俺は考えてしまう。未末に陰謀があるのは明らかだが、それと同様にミロクにも陰謀があるのではないかと。人を疑いかかるのは俺の悪い癖だが、それでも自分がいいように利用されてしまい、姉に危害が加わってしまうとなれば俺は罪と自責の念に押しつぶされてしまうのだろう。そう思うとミロクに手を貸すのは最善とは言えない、だからこそ俺一人で未末の陰謀をすべて暴いて裁きを下す、そう俺一人で…


ミロクの心境

 あの未無というやつが訪ねてきて私は変わった。あの子を失ってから誰かに信頼されるということが苦手となってしまった。私は甘すぎた、優しすぎたのだ。私が受けるべき償いを自分を犠牲にしてまでも無くしたあの笑顔が思い返される。私にはあの約束は守れそうにないとあきらめていた時に未無は訪ねてきた。彼の答えは私に足りないものを教えてくれた。もともと私がああいう教えを唱えるべき存在である。やっぱり私には向いていないのかもしれない。あの子に教わった通りいつまでも自分の使命を自分に押し付けるのはよくないことだ。彼は世に疑問を持ちすぎている。あの事件以降、私は世に疑問を持つことはやめた。この無限なる矛盾の理にいる彼を助け出す。それがあの子との約束に一歩でも近づく、私の決意だ。


ミロクサイド

 あれから情報を集めた私は忍びながら神代のところへ入りとある女性と話す機会が多くなった。彼女の名は神代末無、あの未無の姉で聖女と呼ばれる存在だ。彼女はあまりにも荷が重すぎる立場にあるにも関わらず、ただ周りの者に愛を与え、全てを助け出せるように思える本当の聖女のような人だった。彼女は私と同じ人を助け出す立場だ。しかし、立場を守るため性別さえも偽ってきたあの頃の私と違い、彼女は自分の立場など考えずただひたすらに人を助け出したいだけのあまりにも純粋すぎる人だった。未無から彼女のことを聞き、彼に気づかれないように彼女と話していた。確かに彼女は虚無の女神の資格がある。未末が彼女を虚無の女神にするという未無の考えが彼女に会って現実的に感じられた。最近では、未末の動きがかなり妙だ。そんな時最悪の事態が起こってしまった。あの子の姉、ミラの消息がつかめなくなった。


 最悪な出来事はやはり起こっていた。末無が言うことから推測すると未末が未無の動きに気づいたらしく早急に作戦を進めようとしているらしい。私は戦闘の準備をして、事前に調べていた未末の隠し部屋へと向かった。

 たどり着いたそこには未末と捕らえられたミラがいた。私は歩みを進め堂々と未末に話しかけた。

「あの時以来だな。お前に利用された屈辱を返す時だ。」

未末は答える。

「…誰かと思ったら、ただ才能があるということだけで性別も感情も捨てたかわいそうな僧のミロクちゃんじゃないか。」

やはりこの男は油断ならない。私があの子以外に話したことのない過去を知っている。

「ふむ、ミロクちゃんは僕を倒しに来たようだね。こそこそとしないあたり素晴らしい行動だ。しかし、僕が護衛をつけずここにいると思っているのかい。」

その瞬間、私の真横を光が貫いた。

「ああもう、姉を人質に取られたってあたりか。やっぱり私には人を導く才能はないなぁ。」

考えていた通り、私に攻撃を仕掛けたのは未無だった。私はとっさに結界を張り、牢を破ってミラを助け出した。

「…私はあなたを殺そうとしたのに。私の妹…あなたの大切な人まで奪ってしまったのに。」

「いいんだ。それはもう。」

ミラを抱えて逃げようとしたとき、光の槍がミラを貫いた。

「なっ。」

私は驚いた。結界が貼ってあるにもかかわらず攻撃ができるなんて…私は気づいた。未無の攻撃は光だ。決して物理的な衝撃ではない。結界で守れないわけだ。彼女はもう助け出せるような状態ではなかった。彼女は最後の力で私に語り掛けた。

「ねぇ、あの子たちはこんな私を許してくれるかな。最初はあなたのこと悪い人だと思ってた。だけどあの子に愛されているあなたを見て、あなたはとてもいい人だとわかって私は後悔したわ。だから、あの子たちと私の想いを…この力を託すわ。」

「あぁ、分かった。君たち姉妹には学ぶことが…たくさんあったから、…この力は最後の愛として受け取るから。」

「ありがとう…」

そう言って彼女は息を引き取った。

そのあと、私の中に力が…想いが流れてきた。何も知らずに私が封印してしまった少女の純粋な気持ち、今私の手の中で息を引き取ったミラの雪辱な想いが。

そして、あの懐かしい光景が流れ込んできた。


「ねぇ、お師匠様はなんでそんな恰好しているの?」

「私の使命からだろうな、人を供養して、大切な人とまた輪廻の中で巡り逢える、そんな運命を望ませるのだ。」

「じゃあ、私も供養してくれる。何があっても。私は死んでもお師匠様に会いたいんだ。」

「私が行くべきは天界なんかじゃなく黄泉の国だぞ。」

「ふ~ん、なら私も行く。何があっても。お師匠様は一人だと自分ばっかり責めて、私がいないと心配だよ。」

「そんな簡単に行けるものではないぞ。大罪を犯した者が罰を受けるための場所だ。」

「だったら私はこれから何か罪を犯せば行けるのね。」

「お前には罪を犯させたくない。それにどんなに辛いことがあってもいいのだな?」

「うん、お師匠様より先に死んでも私はどんな辛いことがあっても待ってる。」

「だったら、名前をヨミと名乗れ。それだけでも行けるだろうな。」

「うん、ありがとう。ヨミ…私この名前大切にする。だってお師匠様がつけてくれたんだから。」

……………………………………………

「ヨミ!お前どうして?」

「だって、お師匠様は悪いことなんて何もしてないから。罰を受けることなんてないよ!お師匠様が受けるのだったら、それは私の罪になっちゃうから。」

「それでも…お前がいないと…私は…」

「お師匠様が泣いてるなんてダメだよ。私は誰よりも真面目に誰よりも他人のことを考えているお師匠様が大好きだから。前に話したよね。お師匠様が黄泉に行くなら私待ってるって…だから、お師匠様は自分に厳しくて他人に優しくて…誰かが困っていたら罪を犯してでも助け出して…それで!それで…!」

「なぁ、私は誰かに特別な想いなんて抱かない何にも無関心だった。だけどな、お前は私を変えてくれた。より人間らしく、女性らしく。こんな使命なんて背負ってなかったら、確かに私は普通の女性として暮らしていただろう。でも、お前と暮らしていて私もそんな暮らしができると思うようになったんだ。なのに、感謝も伝えられないなんて!」

「大丈夫だよ、感謝の気持ちはまた逢えた時にお願い。もっとたくさん自慢できる私がいない世界で起こったことも教えてよね。だから、あっちの世界で待ってるよ…」


あぁそうだ。これはあの子の記憶…私が初めてもっとも人間らしく在ったあの約束。今まであきらめていた、あの子を求めてしまう自分の甘さがあった。けれど、もう忘れない。

その時不思議とあの子が笑ったような気がして声が聞こえた。

“うん、お師匠様はそうでなくちゃ。いつまでも待ってるから、この力でたくさんの人を救ってね。”

私は帰ってくるはずのないその声に返した。

「今度こそ、絶対に忘れない!だから、見ていてくれ!そして、あの世で逢ったときにいつもの笑顔で迎えてくれ!またあの頃のように…」

その後、声は帰ってくることのないあの頃とともに消えていきながらこう答えた。

“うん、楽しみに待ってるからね。”

私の欠けていた心の中があの子の想いで満たされていく。愛されることを怖がっていた、大切なものを失うことをしたくなくなかった私はあの子の愛で薄れていく。私はもう、失うことなんて怖くない。だって、あの子の想いが私の中にあるから。


 私は目覚めた。そして動かなくなってしまったミラの体を抱え、ワープを使い逃げた。その後、ミラの体は彼女の友人である吸血鬼のミレーユに預け、私は態勢を整えるために小屋に戻った。

「もうこの思い出の小屋も帰ることはないのか。」

私は裏にある墓地にある祠の地下へ向かった。この祠は私の単なるわがままだ。ここにはあの子が眠っている。あの子は私を待つために苦しんでいるはずだ。せめてあの子には幸せでいてほしい。だから、空っぽになったあの子の器を私は自身の体の中に封印することにした。どうせ私はもう長くはない。この能力で未来が見える。これはあの子からの励ましかもしれない。だから、愛したあの子の体と共に死にたい。そして私は最期の救済に向かった。


 あの教会の礼拝堂には、未末がいた。私はこの戦いで確実に死んでしまう、だが、二つの意味でそれは怖くなかった。一つはあの子に…ヨミに逢えるから。もう一つは…

そこで未末が話す。

「今度はお前が標的みたいだな。何も守れないお前には少し荷が重すぎるか。そうだろう、すぐに楽にしてやるからな。」

「相変わらず口の減らないやつだな。」

私は確かに命の終焉へと向かっている。だが、苦しくはなかった。それは終焉などではなく、あの子との約束だから。私は柄にもなく笑顔で最期の戦いを始めた。


戦いの途中、未末が私に言った。

「お前には見えているのだろう、お前はこの戦いで命を落とす。怖くないのか。なぜお前が笑っているのか、私には理解できん。」

「だろうな、お前には到底理解が追い付かないものだ。(さて、そろそろかな…)なぁ、お前。勘違いしてないか。」

「なんだ。お前が負け死ぬことは未来予知のできるお前にも見えてるはずだ。」

「…勘違いは二つ。一つは私が未来を見ているのは未来予知ではない。二つ、この戦いで私は負けない。」

「なんだと。何を今更…まさか…」

「そうだ、私が死ぬことは間違っていない。お前も死ぬのだ。」

その瞬間、対峙している私と未末の体を一直線に光が貫いた。

「くっ…(これでよかったんだよね、ヨミ…やっと、やっと逢える。)ハハッ」

もう一度あの子に逢える、約束を果たせると考えると涙と笑いが止まらない。この瀕死の痛みすらも何とも感じられない。

そこへ一人の女性を抱えた男が立っていた。

「…これがあの時の答えだ。分かっていたようだが、なぜ避けなかったんだ。」

「私を突き動かしていた想い…見えていた可能性のおかげかな。誰かのために死んで、黄泉の世界へ行き、あの子との約束を果たしたい。それだけが私を動かしていた。忘れようとしていたその約束を思い出させてくれたのは君でしょ、神代未無。」

「ああ、そうだな。」

「そうだ、私にはもうこれは必要ない。だから、受け取ってくれないか。私は約束を果たせた、今度は君が想いをつなぐんだ。姉を護りたいんだろ。なら持っていってくれ。」

「お前はまた人の罪を被るのか。その力は俺がお前から奪った、事実はこれでいいんだ。」

「人の罪を被るな…か。フフッ、あの子も私によく言っていたな。私には耐えられないんだ、誰かが罪の意識によって闇に呑まれていくのを。」

「お前はお前の罪を背負えばいい。優しすぎるんだよ。」

「ああ、ありがとう。そんなにはっきり言ってもらったのはあの子以来だ。くっ、そろそろ限界みたいだ。さぁ持っていけ。あ、そうだ。また会う日まで、その時は分かってるよな。」

「…そうか。楽しみに待ってるよ。」


ミロクは笑顔のまま安らかな顔で眠りについた。力が俺に伝わると共に彼女の体は消えていった。そのまま俺は姉さんを抱えたまま教会を後にした。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「これがかつて太陽の名僧と言われたミロクの終焉とミナが女神となるまでだ。」

かなり壮絶な運命にすでに知っていた数名を除き驚いていた。そこでミロクが問いかける。

「さて、じゃあここで問題。今のストーリーの中で何かが謎のままですが、それはどこでしょう、ってね。」

エクスバースが答える。

「神代家の三女である神代末離のことに関して…だな。」

ミナが答える。

「ああ、しかもそれは俺がもう掴んでいる。それこそが俺がミロクを裏切った理由であり、俺が姉さんの体を借りている理由だ。」

ミロクが続けて言う。

「実はな、末無、未無、末離の三人が産まれたのは未末が悪魔と契約したからだ。信徒を増やすこと、絶対的な力を得ることを願ったらしい。それが聖女としての力と虚無の女神の適性を持った神代末無、その護衛としてつまり神託者として神代未無が産まれた。そして代償として悪魔の子として母親の腹を食いちぎり産まれたらしい神代末離は神代家の終焉を目的に産まれた。しかし、彼女は姉の慈愛に包まれ育った。彼女はおそらく姉の愛に飢えている。」

「いつかの未離みたいにな。」

そこで未離が意識を取り戻し起きてきた。

「あの子…を助けなきゃ…」

言いながら倒れた未離を有間が支えた。

「頼むからもう無理をしないでくれ。」

「だって…あの子、昔の私みたいに苦しんでる。だから、お兄ちゃんが私を救ってくれたみたいに私もあの子を救ってあげたい。私も…もしかしたらあんな風になってたかもしれないから。」

「今回は譲ってくれないか。この問題を解決できるのはミナだけだ。俺の考えてること、分かるだろ。だから今回は彼らに任せて休んでくれ。」

「うん、お兄ちゃん。分かった。」

そうして未離は療養に戻った。


有間が全員を集めて話した。

「さて、作戦なんだが。ミナは俺と未愛と一緒に必勝法を確立する。その間、被害を広めないため足止めをしてほしい。未離を見ていれば分かる通り、並大抵の力や精神力では太刀打ちできないだろう。」

ミロクが言う。

「それなら私とヤミが行けばいいだろう。その条件には当てはまるだろうし、何より私はあの姉妹にお世話になったからな。いいよな、ヤミも悪魔に詳しいはずだからな。」

ミミの影が伸びて、そこからヤミが現れた。

「ワタシを当てにするな。ミミが命令しなければ行かないぞ。」

「…………行って。」

「じゃあ行くよ。」

「決まりだな。」

そして作戦が始まった。

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