あやかしのクジ


 咆哮ほうこうを上げるライオンに、あやかしたちが悲鳴を上げて逃げ惑う。


「だから、待てって言ったろーっ」


「おやおや」

と余裕で笑っている高尾はどうやら知っていたようだった。


「ラ、ライオンさん、ずっとクジの中にいたのなら、解き放ててよかったですね」


「いいわけないだろっ」


 ひとつのことをやり始めると他は目に入らなくなるのか。

 現実逃避をしているのか。


 冨樫は真横でライオンに吠えられながら、無心にクジを引いては開けている。


「十二番」


 キューピーっぽい人形だ。


「これ、赤子になりませんよねっ」


 ある意味、このご近所迷惑なくらい吠えているライオンより怖いんだがっ、と思ったが、そこはさすが、両手を上げた巨大な赤子の人形が現れただけだった。


「……冨樫がいらないのなら、店の看板がわりに飾るか」


「ライオンも冨樫さんいらないと思いますよ……」


 あやかしたちはライオンを恐れて店の隅に逃げていたが、高尾は山で暮らしているせいか、特に怯える様子もなく、猫のようにライオンの顎を撫でている。


 いやまあ、日本の山にライオンはいないと思うんだが……。


「ちょっと俺は嫌な予感がしてるんだが……」


「私もですよ、社長」


 この意外に人懐こいライオンよりも、ある意味、危険なものが、今まさに解き放たれようとしているのでは……。


 何故、あれは写真だけで、本体がこれにひっついていなかったのか。


 本物と化したとき、ライオンより危険なものだからではないのか。


 クジ運がいいのか、冨樫はあっさり一等を引いた。


 その一の字を見ながら、冨樫は、

「なんだかんだ言ったが、やはり一等を引くとなんか嬉しいな。

 ありがとう、風花」

と満足したようにこちらを見て言ってきた。


 壱花と倫太郎はカウンター奥の棚の前にいた。


「……冨樫、一等の商品いるか?」

と倫太郎が訊く。


「そりゃいるでしょう。

 というか、他はいりません。


 一等だけ記念に持って帰ります」


 そう言いながら、冨樫は吠えまくってクジの中に押さえ込まれていたストレスも発散できたのか、おとなしく、ぬっぺっぽうたちを背にのせてやっているライオンの方を見た。


 冨樫は辺りを見回し、なにも現れてないことを確認すると、


「一等、なんでしたっけ?」

と言った。


 台紙からはあの写真も消えている。


 倫太郎は無言で棚の奥からそれを取り出した。


 ごとりとカウンターの上に置く。


 鈍く光る黒い銃身の、本物のワルサーP38がそこにあった。


 弾もついている。


「……ありがとうございます」

と冨樫はそれを持ち帰ろうとする。


「待てっ、冨樫。

 他のものはやるから、それは置いていけっ」


「冨樫さんっ、それ持って此処を出たら、銃刀法違反で捕まりますよっ」


「誰も通報しなきゃ見つからないでしょう」

と冨樫はさっさとコートのポケットに入れようとする。


「わかったっ。

 落ち着けっ。


 壱花をやるから、それは置いていけっ。

 社長として、部下を警察に捕まらせるわけにはいかんっ」


「ちょっと社長ーっ?」


 そもそも私、社長のものじゃありませんからねーっ、と壱花は叫んだ。






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